― 妹 ―
春の陽気の中、高校一年生の凜が下校していると、小さな自転車のブレーキ音が響いた。
「りんちゃん!」
振り向くと、元気な声とともに、自転車を止めた勇真の妹・小学四年生になったさくらが笑顔で手を振っていた。
「あれ?久しぶりだね、さくらちゃん」
「ねえ、りんちゃん、最近ぜんぜんうち来ないじゃん」
「えっ」
凜は一瞬言葉に詰まった。自分でも気づいていた。でも、気づかないふりをしていた。
「前はさ、毎週のように来てたのに。お兄ちゃんとケンカしたの?」
「ううん、そうじゃないよ」
凜は目を伏せて答える。さくらはその表情をじっと見た。
「じゃあ、なんで?わたしのこと、もう好きじゃないの?」
凜は慌てて首を振った。
「そんなことないよ。さくらちゃんのこと、大好き。でも」
「でも?」
凜は少し間を置いて、ふっと笑った。
「さくらちゃんは変わらないね。昔と同じで、まっすぐ」
「当たり前じゃん。わたしはずっと、りんちゃんのこと好きだもん。お兄ちゃんとちがって!」
「え?」
「お兄ちゃんね、なんか最近へんなの。りんちゃんの話、全然しないし。前はもっと楽しそうに話てたのにさ」
「……」
「ねえりんちゃん、ほんとはさ、お兄ちゃんのことキライになったの?」
凜は言葉を返せず、ただ苦笑いした。まっすぐすぎる妹に、心がチクリとした。
「さくらちゃん、ちょっとだけ大人になったね」
凜は小さく笑った。すこし寂しそうな顔で。
「ありがとう、さくらちゃん」
「じゃあ、またうち来てよ。お母さんも待ってるし、わたしも待ってる!」
「うん。また行くね」
「やくそくだよ!」
さくらはもう一度大きく手を振って、自転車にまたがり去っていった。凜はその後ろ姿を見送りながら、小さな声でつぶやいた。
(わたしのほうが、ずっと子どもだね。本当は行きたいんだよ。でも勇真がわたしから離れてしまって、もう手の届かないところに行っちゃったんだよ)




