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星願未遂  -ふたりの長いものがたりー  作者: つくね
7. はじまり

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― あま~い ―

【大学5年・医学部キャンパス/夕方のラウンジ】


 病棟実習を終えた凜が、ラウンジに入ると、同じ班の男子学生が資料を手に近づいてきた。


「あ、相原さん。今日のケースのまとめ、すごく分かりやすかったよ。ありがとう」

「ううん、共有って言われてたし、みんなの役に立てたならよかった」

 男子学生は一瞬、言い淀んだあと、少し勇気を出したように言った。

「もしよかったら、今度ご飯でも……その……班のみんなでもいいし」


 凜は一瞬だけ微笑み、すぐに事務的な口調で返した。

「ありがとう。でも、今は課題が立て込んでるから」


「あ、うん了解。じゃ、また」

 男子学生は少し肩を落としながら去っていった。


 その様子を見ていた美羽が、ソファに座る凜にカフェラテを差し出しながら、ニヤリと笑った。

「はい、凜。糖分補給、っていうか、今の見た?あの男子、完全に食事に誘おうとしてたよね」

「え?そうだったのかな、班の話だと思ってたけど」

「いやいや、あれは班って言い訳にした個人戦だったよ。凜ってさ、なんかバリヤシールド出てるよね。近寄りがたいっていうか、オーラがあるっていうか。男子、絶対緊張すると思うもん。凜に話しかけるの」


 凜は苦笑しながら、紙コップのふちに指を添えた。

「そんなことないよ。勇真は、全然そんなの気にしてないし」

「そりゃそうでしょ。彼氏だもん。てか、勇真くんだって、凜がモテすぎて心配してるんじゃない?」


 凜はふっと笑った。

「『俺にはもったいない』って、よく言ってる。でも、そんなことないのにね」

「いやいや、川で助けてくれた話とか聞いたら、誰だって運命の人って思うよ。あれはもう、映画のヒロインだよ」


「彼が凜の心の真ん中にあるんだろうね。今でも、ずっとブレる事なく」

 美羽は凜の横顔を見て、少しだけ目を細めた。

「そりゃ、バリヤシールドも出るわけだ。そんな人が隣にいたら、他の男子なんて入り込めないよ」


「ふふでも、シールドの中は、けっこう甘々だよ?」

「うわ、聞きたくなかった!でもちょっと聞きたい!」


 ふたりの笑い声が、夕暮れのラウンジにふわりと広がった。


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