表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星願未遂  -ふたりの長いものがたりー  作者: つくね
5. 星を繋いだ日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/70

― 吊し上げ ―

【大学四年 春】


 薄桃色の桜の花びらが風に乗って舞い落ち、足元をほんのり染めていた。

あの頃とは違う、新しい季節がゆっくりと始まっている。


「桜、綺麗だね」

 言葉をかけるのは自然だったけれど、私の心の奥底にはモヤモヤが渦巻いている。


「うん俺もそう思う、毎年同じように咲くのに、今年は特別に見える」


「春になると、やっぱりいろいろ思い出すよね」

 春の風が髪をそっと揺らし、静かな時間が流れる。

(今日は、私のモヤモヤを晴らそうと思ってる)


「あの時、翔太くんに聞かれたんだってね。私のこと、どう思うかって」

 返したのは静かな肯定。

「あっ、あぁ……」


「ただの幼馴染だよ。いい子だよって、そう答えたって聞いたよ」

 視線を外す仕草が見えた。指先が不自然に動いている。


「言った……そっ、その通り、言った」

 笑いともため息ともつかない音が、唇の端からこぼれた。

「そっか。やっぱりそうなんだ」


 風が、頬をなでる。あたたかくも冷たくもない秋の風。


「なんで、そう言ったの? なんで、止めてくれなかったの?」


「止める資格なんて、自分にあると思えなかった。俺みたいな何も結果を残せない人間が、止める資格はないよ」

 即座に返した言葉に、わずかな凜の怒気がにじんでいた。


「資格なんて関係ないよ!どう思ってるかって、聞かれたんでしょ? 好きか嫌いか、ただ、それを言えばよかったじゃない」


「本当の気持ちなんて、言ったら、友情だとか周り人との関係性が全部壊れる気がしてた」


「壊れたよ!結局、壊れた!!」

「この時私は、勇真に選ばれなかったんだよ!勇真にフラれてるんだよ!」


 その一言は重かった。濁った空気が、一瞬止まったように感じられた。


「聞かされたよ。付き合って少し経った頃、翔太くんが酔って言ってた。『勇真は、凜のことをただの幼馴染って言うから、安心して告白できた』って」


「あのとき、何が正解だったのか、今でもわからない」


「私は、ずっと好きだった。子供のころから。ずっと」

 憤りの気配が伝わってくる。


「ただの幼馴染だって自分の気持ちを押し込めた。でも、翔太くんに告白されて初めて思ったの、あなたが何も言ってくれないなら、私は待ってるだけじゃなく前に進まなきゃって」


「……ごめん」

「ごめんなんて、何度聞いたかわからない」

 小さな声だった。だけど確かに刺さる声。

「好きって言ってくれてたら、私は翔太を断ってたよ。間違いなく」


「でも俺の好きが、君を縛る気がしてた。翔太みたいに完璧じゃない自分が、好きだなんて言ってしまったら……君の未来を狭めるだけだって、そう思った」


「勝手に決めないでよ。私の気持ちも、未来も」

 沈黙がまた訪れる。でも、もうさっきまでのそれとは違っていた。


「ねえ。私って、あなたにとって何だったの?」

 長く目を伏せていた隣の気配が、ふっとこちらを向いたのがわかる。


「ただの幼馴染なんかじゃなかった。ずっと、特別だった」

 言葉の重みが、時間をゆっくり止める。


「その言葉、もうちょっと早く聞きたかったな」

「俺も、そう思う」


「わたしが差し出されたって、思ってた。あなたが、わたしを翔太くんに譲ったんだって」

「違うよ……」


 風がまた吹いて、枝の先の葉がひとつ落ちた。


「今さらどうにもならないのは、わかってる」


 夕空に目を細めて、黙ったままその言葉を噛みしめる時間が流れる。

 触れそうで触れない距離。でも、確かにそこには切れない糸があるように思えた。

 空はもう、夕暮れから夜へとその色を変え始めていた。


 その頃から、毎回のデートの会話で、過去からのすれ違いの説明を、厳しく追及される勇真だった。


急にキャラ変して、強気になる凜の巻でした。

これは、勇真だけが味わえる悦び(からだから、ふつふつと湧き出るよろこびの意)なのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ