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星願未遂  -ふたりの長いものがたりー  作者: つくね
1. あの日、夏の川

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3/70

― 心地よい空気 ―


 夏休みの午後、セミの鳴き声が窓の外で響いていた。

「こんにちは」

 小学四年生の凜は、いつものように、少し小さめの声でインターホンに話す。


「はーい!」と、元気な声が玄関の奥から聞こえる。

 開いたドアの向こうで、勇真の母・陽子が笑顔を見せた。


「あら、また来てくれたのね、凜ちゃん。ようこそ」

「こんにちは。さくらちゃん、いますか?」

「もちろんよ。もうずっと楽しみにしてたのよ。『りんちゃん、いつくるの?』って毎日聞かれてるくらい」


 くすっと笑う陽子の後ろから、ちいさな足音が走ってきた。

「りんちゃーんっ!」

 元気に飛びついてきたのは、4歳のさくら。今日も明るい色のワンピースに、お気に入りのヘアゴムをつけている。

「わぁ、今日も元気だね」

 しゃがみこみ、飛び込んで来るさくらを抱きしめた。


 凜は一人っ子。

 家は静かで、本とピアノと母の作るお菓子のにおいがする。それはそれで落ち着くけれど、望月家のような人の声がする空間に、最近は惹かれるようになっていた。


「さくらちゃん、また来てもいい?」

「うんっ!りんちゃん、ぜったいまた来てね!わすれちゃやだよ!」

「うん、忘れないよ。さくらちゃんも、忘れないでね」


 手をつないで笑いあう二人を、陽子は優しいまなざしで見つめていた。



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