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星願未遂  -ふたりの長いものがたりー  作者: つくね
1. あの日、夏の川

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― 始まり ―



【高校1年 現在の勇真】

 あれから6年が経った。

 夜、眠る前。テストでへこんだ日。体育の試合でうまくいかなかった日。

 そのたびに、引き出しの中の星が、静かに光っている気がした。


 高校生になった今、あの日と同じ、夏の空気が勇真の頬をなでた。

 本当は、この時もきっと、まだ気づいていなかった。

 この小さなペンダントに、どれだけ大きな想いが詰まっていたかなんて。

 自分にはまだ、ただの幼馴染だった。


 だけど、この時には既に、物語は始まっていた。



【小学4年の勇真】


川での出来事があった数日後。


 学校の帰り道で凜が勇真に渡してきたのは、星の形をしたペンダントだった。


凜の宝物――


 少し前に雑貨屋で見つけて、母親・沙耶に買ってもらったものだった。

 どうしても欲しくて、お母さんに何度もお願いして、やっと手に入れた宝物、でも――


「お母さん、このペンダントを勇真にあげようと思うの、助けてもらったお礼に」

「凜がそうしたいのなら、思った通りにすればいいのよ。凜が大切にしていた物だから、きっとありがとうの気持ちが伝わるんでしょうね」

「お母さんごめんね、せっかく買ってもらった物なのに」

「いいのよ、泣かなくても」




「これ勇真にあげる、助けてくれたお礼。前におばあちゃんに見せた時に言ってたの、『この星は、願いがかなうペンダントだよ』って」

「ペンダントなんて、女子がつけるやつじゃん」

 そう言いながらも、勇真はその小さな銀色のペンダントを受け取った。

 家に帰ると、すぐに机の引き出しに放り投げるようにしまいこんだ。

 ペンダントに込められた意味も分からずに。

 小学生の勇真には、まったく興味を引くモノではなかったし、勇真には凜を助けたという自覚がなかった。

(あの時、俺も凜と一緒に川で流されて、結局大人に助けられたじゃん。カッコ悪ぅー)


 


「勇真、欲しくなかったかな。もっと違った物にすれば良かったかな、でも仕方ないか。私が一番大事にしていた物を渡したんだから、私の気持ちはすっきりとしたから。

 だけど、あれから勇真の事が気になって、校庭で遊んでいる姿をついつい目で追っちゃう」




【高校1年春 現在の勇真】


 春、新しい制服に、少し大きめの教室。

 高校生活が始まって数日。勇真はまだ環境に慣れきれず、窓際の席でボーッと桜の花びらが舞うのを眺めていた。


「おはよ、勇真」

 声をかけてきたのは、凜だった。

 中学までと同じ笑顔だけど、スカートが長くなり、髪が少しだけ伸びていて、なんとなく大人っぽくなったような気がした。


「お、おう、凜もここだったんだな。中学では一度も同じクラスになれなかったから、ちょっと変な感じだな」

 勇真が照れ隠しのように笑うと、凜は少しだけ微笑んで言った。

「でも、なんか安心した。知ってる顔があるって」


 そこへ、テニス部の新入生勧誘のビラを持って現れた翔太が、二人の間にスッと入ってきた。

「やあ、勇真。それに、凜ちゃんもいたんだ。同じクラスだね。よろしく」


 爽やかな笑顔。誰が見ても文武両道のイケメンで、すでに女子から注目を集めている。

「翔太くん!」

 凜が少し声を高くして名前を呼ぶ。その声色に、勇真は少し胸がチクリと痛んだ。


「勇真、テニス部、入るんだろ?また一緒にやれるな」

「うん、まぁ、補欠覚悟だけどな。テニスが好きだからやりたいと思ってる」


 高校に入り、勇真は凜への気持ちに少しずつ変化が生まれていた。

 これまでは、凜はただの幼なじみであり、昔から一緒に遊んでいた女の子という存在だった。あの日、川で勇真が凜を助けたことも、特別な思いはあったものの、それは家族や幼なじみとしての絆だと思っていた。


 しかし、同じクラスになり、日々顔を合わせるようになると、勇真の中の凜を見る目が少しずつ変わっていく。

 凜の静かで優しい笑顔、細やかな気遣い、大人びた言葉遣いに気づくたび、勇真には鼓動が早くなるような感覚が芽生えた。


 翔太が凜に親しげに話しかけたり、凜が彼に対して少し嬉しそうにする姿を見ると、胸がぎゅっと痛むのを感じた。


 (俺にとって凜はもう、ただの幼なじみじゃない。特別な存在になり始めているのかな)

 そう気づきながらも、勇真は素直にその気持ちを認められず、どこか距離をとってしまう自分に戸惑っていた。

 それでも、凜と話したり、同じ空間にいるだけで心が落ち着き、安心することに気づく。

(昔だったら、自然体で話すことができたのに、これまでにいろいろあったからな)


 その感情が何かはっきりと言葉にできずにいたけれど、勇真の胸には確かな「大切な想い」が静かに灯り始めていた。



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