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第95章「月の三角関係」

「くっ……攻撃が……あ、当たらない?!」

「遅い!!」


時刻は18時過ぎ。夜空に浮かんだ月と星がきらびやかに光輝く中、激しい戦いが繰り広げられていた。サンライズ・モードのケイとガロードの一騎討ちが始まって数分経過した頃、ガロードには明らかに焦りが生まれていた。


(な、なぜだ?!なぜこの男の心は読めない?!)


ガロードはケイの心が読めなかったのだ。今までこのような経験はなかった。『半月の心』で考えを読みとり先読みをする、それがガロードの戦いのスタイルである。だがそれが今はなぜかできない。さらに見えない斬撃を使うためのエネルギアをチャージする時間など皆無だった。ケイはサンライズ・モードで常に瞬間移動し、距離をとっても詰められるからだ。接近戦ではインビジブルムーンバードは使えない。


「っ!!舐めるなぁぁっ!!接近戦に持ち込めば私に勝てるとおもうなよ!!はぁあああ!」

「二刀流はたしかにやっかいだ!だがっ……!!」


ケイは驚異的な反射神経で次々と連続斬りを回避する。そして一瞬の隙をつき、ガロードの背後へと瞬間移動し、黄金に輝く自慢の右拳をとんでもないスピードで背中に直撃させる。


「キングダムっ!!フィストぉぉーー!!」

「ぐあぁぁぁぁーーっ!!」


ガロードはケイの一撃により悲鳴をあげながら吹き飛び、周囲の建物に激突する。凄まじい破壊音とともに建物は粉々となり、ガロードは瓦礫の底に沈む。これで決まりかとケイは一瞬思ったが、予想以上に相手はタフだった。ガロード全身から血を流しながらもゆっくり瓦礫の中から立ち上がりあがる。


「……み、認めよう……貴様は今まで戦った戦士の中でも最強だとっ!だが私は負けん!この権力者が支配し何もかも手に入れる世界を変えるため、負ける訳にはいかないのだぁぁああーー!!」


ガロードの全身に纏う月の青白いオーラの輝きが増す。絶対に負けられないという想いを爆発させたのだった。右手の通常の剣を地面に置いたまま、代わりに右手にもサイレントムーンセイバーを生み出す。そして両手のこれら二つの月の光の剣を一つに重ね合わせ、はるか上空まで伸びた青白く光輝く超巨大な剣を生み出す。ケイはその輝きを見て、目を細めて構える。


「……っ!光系統は想いを力に変えることができる……か。これはまずいな。」

「……負けたら……負けたらすべてが終わりなのだ……負けん……負けん……負けん!!私のすべてを賭けて貴様を殺す!!いくぞっ!我が究極の一撃っ!!しのげるものならしのいでみせよっ!!シャイニングっ!!ソードっ!!ブレイカぁぁーーー!!!」


これが地上に落ちたら、ここ一帯は吹き飛ぶ。ケイは直感的に理解し、両手で受け止める姿勢をとる。

それに対してガロードは容赦なく天空にまで伸びた爆発的に輝く月の光の剣を勢いよく振り下ろすのだった。


お互いのエネルギアが触れた瞬間、反発し合い大爆発を起こす。通常の人間なら即死は免れないだろう、そんな破壊力だった。爆発によって生じた煙の中ガロードは勝利を確信したかのように喜びの声をあげる。


「や、やった……やったぞっ!!手応えはあった!今のは奴に確実に直撃した!!この攻撃を耐えることはできまい!私の勝ちだ!!」


やっと終わった、そうガロードが思った時だった。煙が徐々に晴れてくる中、ケイの声が聞こえたのだった。


「……さすがだ。ここまでのダメージを負ったのは久しぶりだ。……正直少しナメてたよ。」


ケイは全身から大量の血を流しながらも片膝を地面につきながらもどうやら今の攻撃に耐えきったようだ。あまりに衝撃的なことにガロードは目を見開き、静かに呟く。


「……バカな……今の攻撃に耐えきった……だと?」

「……ははっ……まぁ……よけようと思えばよけれたがな。」

「くっ!だが二度目はこの攻撃は耐えられまい!!今度こそ……」


ガロードが再び巨大な月の光の剣を生み出した時だった。ケイはゆっくり立ち上がりガロードに向かって宣言する。


「……ガロード……お前は強いよ。アイリスを倒しただけはある……だがそろそろ終わらせよう。」

「ふんっ!言われるまでもない!この一撃で今度こそ私の完全勝利となろう!!誇れ!なもなき騎士よ!!私がここまで追い詰められたのは久しいのだからな!!」

「……本当はこれはエネルギアを消費するから使いたくなかったがな。……やむを得ないか。」

「はっ!!どんな悪あがきも無駄だぁぁーー!!!シャイニングっ!!ソードっ!!ブレイカぁぁーーー!!」


ガロードは必殺技の名を叫び、頭上から先ほどと同じ渾身の一撃を放つ。だがケイも最後まであきらめてはいなかった。直撃する前にサンライズ・モードを解除し目を瞑り集中する。


「血迷ったかぁぁっ!そのまま死ねぇぇーー!!」

「月よ……俺に力を……」


集中と共にケイの全身が輝き始める。その光はムーンアイランドに咲くヒマワリのように青白い輝きを放つ。そして背中には青白い輝きをもつ4枚の大きな三日月の形をした美しい羽が生み出されたのだった。ケイは右手を天にかざし、巨大な月の光の剣に触れる。その瞬間、まるでガラスが粉々に割れるかのような音と共にガロードの究極の一撃が打ち消されたのだった。


「……は?」


技が消滅した後、ガロードはケイの姿を見て、目を見開きショックのあまり言葉を失う。それはガロードにとってトラウマを思い出させる事象だった。これが夢ではないと理解するとガロードは後ろに一歩後ずさり、怒りを露にする。


「な、なぜだ?なぜだ?なぜだぁぁぁぁーーー!なぜ貴様がその羽の能力を使える?!?!そ、それは……!!」

「ミカヅキの羽……だろ?俺は特殊な体質でな。二つのエネルギアが使えるんだ。この力は俺の母から受け継いだ力だ。」

「ふ、二つ?!は、母親からだと!?……はっ!!ま、まさか貴様はっ?!」


母から受け継いだという言葉を聞き、ガロードは心臓の鼓動がはねあがる。それはガロードにとってこの上なく信じたくない現実だった。


「俺の名はケイ=ミカヅキ……お前の想像通り、ミコト=ミカヅキは俺の母親だ。」

「き、き、貴様がリュウセイとミコトの息子だとぉぉっーー?!そ、そんな……こんな運命など………………嫌だ……嫌だ嫌だぁぁーー!またその力に屈するのだけは!!あの時……15年前ミコトと戦った時と同じ……それにまた負けるのだけは嫌だぁぁーー!!」

「……ガロード。安らかに眠れ。……いくぞ。」

「やめろっ!ミコトと同じそんな哀れみの眼差しで私をみるな!!……く、くるな!くるなぁぁーー!!」


ケイはガロードの懐に瞬間移動し、右手の拳を握る。そして強敵に対して最大の敬意を表するかのようにありったけの力を拳にのせ、ガロードの顎にアッパーの一撃を直撃させるのだった。ガロードは青白いオーラが消滅すると同時に、上空へ飛ばされた後、地面に墜落。気を失うのだった。


「……終わったな。俺の勝ちだ。」

『うぉぉぉぉーーー!!!』


ガロードの意識がなくなったことを確認すると共に、味方の騎士達は雄々しく勝利の雄叫びをあげる。それからケイはミカヅキの羽を解除し膝をつく。先ほどのダメージが効いたらしい。そんなボロボロの姿のケイのもとへヴァンパイア・モードのハクが駆け寄る。


「ケイ……大丈夫か?待ってろ。今私が治療しよう。」


ハクは新月の再生能力を使い、ケイの傷を癒していく。数分の治療の後、すっかり元気になったことを確認するとハクはヴァンパイア・モードを解除する。


「ハク!助かったよ!ありがとな!」

「気にせんといてな!それとアイリスの怪我の治療もさっき終わったところや!……しっかし今回はずいぶん苦戦したみたいやな!ウチもケー君がもしかしたら負けるんとちゃうかとヒヤヒヤしたで!」

「ははっ!俺は負けないさ!!それよりアイリスが無事でよかった……」


ハクとの会話が終わった後、ケイは部隊に向かって勝利の合図をだす。


「お前ら!!西部での戦いは俺達の勝利だ!!倒れた敵の兵士を直ちに拘束せよ!!」

『おぉぉぉーー!!』




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敵の兵士を全て拘束後、ケイは怪我で傷ついた騎士はトラモント城で待機しているヒーラーのもとへ、比較的余裕のある騎士は他の北部、南部、東部へ援護しに向かわせる。よって今この場にいるのはケイとハク、近くのベンチに座っていたアイリスだけである。アイリスは怪我の方は完全に完治したようだが、かなり落ち込んでいる様子だった。先ほどのガロードとの戦いに敗れたことがよっぽど悔しかったのだろう。ずっと下を向き黙ったままだった。ベンチから立てないでいるアイリスの横にケイも座る。


「アイリス……怪我は大丈夫か?」

「……ケイ……怪我は大丈夫。ハクが治してくれたから……それより必ず勝つっていう約束守れなくてごめん……私がさしで勝負したいなんていうから……失望……したよね……」


アイリスはうつむきながら涙を堪えながらそう答える。いつもは明るく陽気に振る舞う彼女だが今日は違った。震えながら何かに怯えた様子だった。


「アイリス……お前は俺達のために勝とうと真剣に戦ってたじゃないか。その気持ちはちゃんと俺には届いてたから。だから負けたことを気にすんな。」

「っ!!気にするわよっ!!私の自分勝手な行いのせいであなたも大怪我したじゃない!!一歩間違えばあなたも死んでいたわ!!そしたら……そしたら!!!」


アイリスは感情的になりケイに想いをぶつける。ケイは少しの沈黙の後、そんなアイリスに素直な気持ちを伝える。その時の表情は何よりも優しいものだった。


「……俺のことはいいんだ……それより俺はお前さえ無事ならそれでいい……無事でよかった……」

「……!!」


この言葉にアイリスは目を見開き言葉を失う。そしてこう思う。この人は自分のことより私の命を心配してくれるのだと。それと同時に自分が恥ずかしいと思った。自分がいかにガロードとの戦いのことしかか考えていなかったかを実感したからだ。このことに気付きアイリスは自然と我慢していた涙が溢れてくるのだった。


「……あ、あれ……お、おかしいな……」

「アイリス……よく頑張ったな。お前が頑張ってくれたおかけで俺はガロードに勝てたよ。ありがとな。」


ケイはアイリスの頭をなで慰める。アイリスはその優しさにもう耐えられなかった。横に座るケイに勢いよく抱きつき子供みたいに泣き叫ぶ。


「う、うわぁぁぁぁーーん!!!そんなに優しくしないでよぉぉ!!もっと私を……私を怒りなさいよぉぉーー!!」

「アイリス……辛かったら誰かに甘えても俺はいいと思う……そして今はお前が辛そうだから俺がずっとそばにいるよ……」

「や、優しすぎるのよぉぉーー!!!バカぁぁぁーー!!」


この光景をハクは少し離れたところから切ない表情で見ていた。なぜか不謹慎だがアイリスがズルいなと思った。ケイに優しくしてもらえて羨ましいなと思った。どうして……?


(……何で胸がこんなに痛いん?ケー君……アイリスにそないに優しくせんとってや……)


それから少し考えて、このモヤモヤした気持ちが何なのかようやく気づく。ハクは誰にも聞こえない声で顔を少し赤らめながら呟く。


「……ウチ、ずっとヤキモチ焼いてたんやな……」


夜空に浮かんだ月と星が光輝く中、ハクは自分の気持ちにとうとう気づく。だが遠くからいつまでもケイが泣き叫ぶアイリスを抱きしめる姿を切ない表情で見ていることしかできなかった。本当ならアイリスには絶対にケイを渡さない、そう言いたかったが今はできなかった。それは今だけはこの二人の絆に割って入ることが許されないように感じたからだった……

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