第88章「予兆」
午前の訓練が終わり、時刻は正午。日が最も差す時間帯に、ハク、レイラは昼食を食べにトラモント城から一番近くのファミレスに来ていた。ハクはハンバーグを豪快に食べながらレイラに尋ねる。
「なぁ?レイラ?もうホンマ今日はあの男がおらへんから部隊のみんな気がゆるんでへん?こんなんで大丈夫なん?」
「あ、あんた……そのハンバーグをひと口って……まぁそれよりそうね!改めてケイ様のリーダーシップ性でこの部隊はまとまってたんだなって実感するわよね……」
「ホンマ何サボってんねん!あの男!はよ来いや!ウチがその腐った根性を叩き直したるわ!」
「い、いやケイ様は私のおねーちゃんと違ってサボったりするタイプじゃないわよ!そ、そもそも寮にも昨日の夜から帰ってないみたいだし何か事件に巻き込まれたのかも!」
「事件?それなら心配せんでもケーくんは大丈夫やて!……そ、それよりレイラに別の件でずっと気になってたこと聞きたいんやけど!」
「えっ?何?どうしたの?」
ハクはなにやら気まずそうにレイラから目を反らし顔を少し赤らめる。そして少しの沈黙の後レイラに思いきって尋ねるのだった。
「ア、アクアとケーくんって最近どうなん……?」
「ふぇっ!?」
想定していなかった質問にレイラは少し甲高い動揺した声をあげる。レイラもあのライブの日からずっと気になっていたことだった。レイラもハク同様に少し赤面させ確認する。
「れ、恋愛的な意味で……よね……?!」
「……せ、せや!!と、歳離れとるし、なんもないやんな?」
ハクはケイが他の女性に好意を寄せられるのが本当に嫌だったのか、レイラに何もないと言ってほしい様子だった。しかしその願望はレイラの一言で完膚なきまでに粉々になる。
「それが逆よ!!ありまくりよ!おねーちゃん、ケイ様にもう完全に惚れてるわ!!」
「なっ……!?な、なんやてっ?!」
ハクは驚きのあまりテーブルを両手でバンっと叩き、勢いよく立ち上がる。大声で反応してしまい、周りの注目を浴びる。
「しー……!す、座って!……多分自分では気づいていないみたいだけど最近ケイ様の話ばかりするし!あんなにわかりやすい人初めてみるくらいよ!」
「そ、そうなん?へ、へぇ……あ、あの男のどこがいいんやろ?!み、見た目だけやん!ひねくれとるし、何考えてるかわからん、しょーもない男やで!?」
ケイの悪口を言い始めたハクに今度はレイラから尋ねる。
「……で、でもハクも好きなんでしょ!?ケイ様のこと!だから気になるんでしょ?」
「……へっ?!」
まさかのレイラの質問にハクは顔をトマトのように真っ赤にする。絶対に認めたくないことなのか声を震わせながら全否定する。
「なぁっ、な、何言うとるん?!?!ドアホっ!!ち、ちゃうよ!ホンマに!ウチとケー君はただの幼なじみで腐れ縁みたいなもんやからっ!……好きちゃうよ!?」
「そ、そっか……へ、へぇ……」
ハクが少し早口になりながらごまかす姿を見て絶対嘘だとレイラは思うのだった。それから話を反らすかのようにレイラはハクに言う。
「そ、それにしても本当にケイ様はモテるわよね!?」
「あ、あの男のモテ期は多分今だけや!!そもそもアクアといい姫様といい……もっとふさわしい男が沢山おるやろ!なんでなん?!」
「……えっ?今なんて?!ひ、姫様?!」
「…………あっ!!」
ついハクは口を滑らせ、ハッするがもう手遅れだった。
「しもたっ!な、内緒やったのに!!」
「えっ?!えっ?!嘘っ?!?!姫様もケイ様のこと好きなの?!それって大スキャンダルじゃないの?!く、詳しく聞かせてよ!!」
「……ま、前に夜桜見に言ったやろ?その時姫様がウチに話しかけてきて直接言われてな!私、ケイが好きなんですって!!」
「きゃあああーー!!何それぇぇーー?!?!」
あまりの衝撃にレイラはファミレスにいることを忘れて特大の声のボリュームで悲鳴をあげるのだった。
ここはトラモント城のケイ部隊専用の会議室。2人がファミレスで恋ばなで大盛り上がりしている一方で、昼食を食べる暇もないほど忙しい者もいた。チームシークレットとチームジーニアスのメンバーである。グレンがチームシークレットに新しく加入したリン=クリスタに尋ねる。
「リン!戻ったか!ケイの行方について何かわかったかい?!」
「はっ!!今だに正確な場所は特定できていませんが、聞き込み調査をしたところ21時すぎに歓楽街でそれらしき男を見たという情報がありました!」
「そうか……歓楽街か。ケイのことだ。おそらく1人でどこかの酒場に向かっていたのだろう。」
真面目なリンは、少し緊張した様子でグレンに報告する。そんな気をつかった様子が気になったのかボルグはリンの肩を軽くポンと叩き、笑顔でこう伝える。
「ははっ!あんまり俺達に気を遣わなくていいからな!このケイ部隊は他の部隊と違って、みんな対等というかカジュアルで個性的な部隊だからなっ!気楽にいけよ!まぁすぐに慣れろとはいわんが……」
「は、はぁ……あ、ありがとうございます!」
リンがボルグにそう戸惑いながらも答えた後、チームシークレットのリーダーであるクルミが気になっていたことを尋ねる。
「と、ところで……あなたは新しくチームジーニアスに加入した新メンバーですか??」
クルミに聞かれ反応したのは同い年くらいであろう、緑色のロングヘアーとメガネが似合う女性だった。服装はなぜか白衣である。
「はい。最近チームジーニアスに加入しました、ロゼッタ=アリアと申します。ケイ様から頂いた名誉ある二つ名は「ドクター」……元々戦場で怪我をした騎士を治療するためのヒーラーでしたが、スカウトされましてこの度このチームに入りました。クルミさん、よろしくお願いします。」
「こ、こちらこそよろしくです……」
ロゼッタが落ち着いた表情で礼儀正しくクルミに挨拶する姿を見てクルミはクールな人だなと思うのだった。そんな自己紹介の後、グレンはこの後どうするのか指示をする。
「自己紹介も済んだようだね。ケイについての話に戻すけど30分後、僕は歓楽街に捜索に行こうと思う。みんなも協力してくれるかい?」
4人は顔を合わせて、うなずく。こうして30分後、ケイ捜索のため5人は歓楽街へ行くことになったのだった。
ケイの能力による髪の色の変化の法則に気づいた方いますかね?
サンライズ・モード=赤……フィオナ
ミカヅキの羽=黒……アイリス
サンセット・モード=黄金……シルファ




