第9章「高速移動術」
「よし!全員ランニング10周終わったな!5分の休憩後、実技指導にはいる!」
初のエネルギア実技実習の授業から3週間ほどたった頃だ。ロイの指示のもと、今日も5限のきついウォーミングアップ始まり、今は6限の時間である。慣れてきたのか、どの生徒ももう音をあげていなかった。エネルギアのコントロールも全員うまくできるようになったこの時期、ロイは新たに課題を提示した。
「休憩終了!集合しろ!!」
ロイは生徒が集合したあと課題の詳細を伝える。
「いいか?今日から別の課題を出す。それは高速移動術という技術だ。戦いに機動力は必須だ。できなきゃ死ぬ可能性も高くなる。是非覚えてほしい。」
簡単そう、そんなふうにタイガは思い言葉を口にする。
「高速移動って!簡単じゃねーか!要は気合いで全速力で走れってことだろ?俺筋肉だけは自信あるんだぜ!」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「ああ!フィオナの言う通りだ。むしろ逆だな。リラックスが重要だ。まぁまず手本をみせてやる。」
そう言うとロイは距離のある広い場所にゆっくり向かい、目を閉じる。そしてまるで足の裏と地面を強く反発させるかのように、走ってみせた。その速さは尋常ではなかった。何もなしに人間がだせる速さではない。ケイは驚きの声をあげる。
「なんだあの速さは!!」
「まぁ、何かしらエネルギアの力がからんでいるだろうね。」
「ああ。それがどんな原理かは知らんがな。」
ケイは話かけられたことに反応し、背後を振り返るとウルのチームメイトであるグレン=マックスとアラン=レオナルドがいることに気がついた。
「やぁ!君がケイ=リュウセイだよね?僕はグレン=マックス、隣のぶっきらぼうな顔の彼は同じチームのアラン=レオナルドだ。」
「…ちっ!アランだ。」
そんな自己紹介に続き、グレンはケイにこの前の試合の感想を言う。
「この間はうちのリーダーが世話になったね!試合見てたけど君強いんだね。」
「……あいつはまだ底をみせてないようだったがな。」
「それは君もだよね?なんとなくそう感じたよ。」
「…さぁな?まぁいずれにしろ次の試合でわかるだろ。」
そうケイが答えた後にアランはグレンの肩に手を置き合図する。どうやら戻らないといけないらしい。
「…グレン。時間だ。そろそろウルのところに戻るぞ。ロイもこっちに戻っている。」
「アラン!わかった!また今度ゆっくり話そう、ケイ!それじゃ!」
そんな会話が終わり、グレンとアランはウルがいる場所に戻ったのだった。そして実際にお手本を見せたロイも生徒達の元に戻り説明する。
「これが高速移動術だ。では原理を説明する!いいか!多分知らないだろうが地面にも微弱で目には見えないがエネルギアが流れている。それをまず感じることがポイントだ。そしてその地面に自分のエネルギアをぶつけることで強い反発を産み出せるってわけだ。瞬間的に足の裏にエネルギアを流すイメージだ。どんなエネルギア能力でも反発という同じ現象がおこるだろう。そんなに難しくはないから、俺の直接のアドバイスなしでもできるだろう。ではチームごとまとまって練習開始しろ!!」
それぞれのチームがバラバラに散っていき、それに負けじとケイ、フィオナ、タイガのチームも早速練習を始める準備をしていた。タイガはケイに先ほどのことを尋ねる。
「さっきケイに話しかけてたの、グレン=マックスとアラン=レオナルドだよな?あの試合ですっかり注目されてんな。」
「まぁ、関係ないさ。俺はチームネクサスの一員だ。どんな相手が敵になろうが勝つだけだ。」
「そうね!他のチームはライバルよ!私達は私達のペースで前に進んでいきましょ!」
「さすがリーダー!それじゃ早速高速移動術の練習をするか!まずは俺からいくぜ!うぉりゃぁー!!」
タイガが早速走ってみせたが、それは普通の全力疾走に過ぎなかった。
「どうだ!?できてたか!?」
「ただ走ってるだけにしか見えなかったわ…多分違うと思う!今度は私がやってみせるわ!」
そう言うとフィオナもタイガに続き、走ってみせたがやはりうまくいかなかった。それからケイも取り組む。
「ロイ先生言っていたように……リラックスして地面の微弱なエネルギアを感じ、自身のエネルギアを足の裏に瞬間的に流すイメージで…」
ケイは目を閉じ、まるで自然と一体化するかのように集中した。それから足の裏に一気にエネルギアを集めた。その結果、足の裏と地面が大きく反発し、ものすごいスピードで前に加速していく。
「これが高速移動術…!初めての感覚だな。」
「ケ、ケイ!凄い!多分それよ!!」
「やったな!おまえってやつはー!」
3人は喜んでいると、前からケイの宿命のライバル、ウルがやって来たのだった。
「さすがだね。ケイ。体調はすっかり回復したようだね。」
「そっちも元気そうだな。おまえはもうマスターしたんだろ?」
「まぁね。それよりもこの間の試合の決着、今度の大会で決めたいと思ってる。君も同じ気持ちだろ?」
「ああ。俺に当たるまで負けんなよ。」
「もちろん。約束するよ。じゃ大会でまた。」
そうしてウルはチームに戻っていったのだった。同じ気持ちだったことに、ケイは少しだけ嬉しく思っていた。もう一度戦いたいと本能的に感じたのだ。
そんなケイをみてフィオナは口を開く。
「今度はウルにまで!あんた人気ものね!それはそうと早くコツ、教えなさいよねー!」
「そうだそうだー!ケイだけできてずるいぞー!」
「わ、わかったよ!えーとだなっ…」
それからフィオナとタイガも無事できるようになり、授業が終わったのだった。今日もハードな授業が終わり、生徒達はぞろぞろと実技実習場から出ていく。そんな時ケイはある可能性を閃き、そして誰にも聞こえない声でこう呟く。
「…今日覚えたエネルギアを直接地面にぶつける高速移動術と足にルーチェをまとうことで足そのものを強化するという技術が組み合わせれば、すごい機動力になるかもな…ただそのエネルギアを地面にぶつけながら、自身の強化となるとかなりのバランスが必要か。」
「なんか言ったか?ケイ!」
「…いや1人ごとだ。気にすんな。」
まぁダメもとで大会まで練習してみるか。ケイはそう思いながらフィオナ、タイガと実技実習場を後にしたのだった。




