第85章「ルーチェVSケイ」
「……っ!!ここは……?どうなってるんだ?!」
スクリーンのまばゆい光に照らされた後、ケイはありえるはずのない場所にいることに気づく。そこは荒野だった。時刻は21時40分だというのに16時半くらいの夕陽の光に周囲は照らされている。周囲には他の動物の気配は全く感じられない。いるのはケイと目の前に少し離れた場所に立っているルーチェだけだ。ルーチェは戸惑うケイに話しかける。
「無事に到着したみたいだね。ここはある特定の時間に太陽のエネルギアを持つものしか行くことのできない特別な空間なんだ。あと先に言っておくが君の月のエネルギアも使えないよ。」
「俺の切り札まで把握済みとはね。……1つ聞きたい。俺と戦って何の意味がある?!」
ケイの質問にルーチェは一瞬沈黙するが、覚悟を決めたかのようにこう答える。
「……意味ならあるさ。君がそう遠くない未来に起こる悲劇を止める力を持っているか確認したくてね。」
「何を言って……な、なんだ?!このプレッシャーは!」
「……聖なる朝陽の光よ。その尊き永遠の輝きを今解放する!!」
ケイはルーチェ=アポロニアの強大なエネルギアの高まりにプレッシャーを感じる。経験上ケイはわかった。今まで戦った誰よりも強いと。そしてルーチェの身体が全身輝き出す。
「……な、なんだとっ!?その姿は俺と同じ……!?」
ルーチェは全身凄まじい輝きを放つ黄金のオーラで包まれていた。そして黒髪は太陽の炎のように真っ赤に染まり、揺らめいていた。その姿は神秘的で美しかった。圧倒的なプレッシャーにケイは一歩後ろに下がる。そんなケイにルーチェは伝える。
「そう……これが『サンライズ・モード』。『朝陽』の力。君もできるのだろう?」
「『サンライズ・モード』だと?!お前はこの力が何かわかるというのか?!」
「その答えは戦った後に話そう。君もなってくれるかい?この『サンライズ・モード』に。」
「……わかったよ。お前の要望通りになってやるよ。」
ケイは目を瞑り集中する。そして一気にエネルギアを高め、爆発させるのだった。一瞬凄まじい輝きを周囲に放った後、ルーチェと同じ『サンライズ・モード』になる。
「……これでいいか?」
「……素晴らしい。その歳でここまでのエネルギアコントロールとはね。さぁこれでお互い準備は整った。勝負だ。ケイ=ミカヅキ!」
「……くるっ!!」
ケイとルーチェは同時に仕掛ける。お互い瞬間移動をし接近する。まさに真っ向勝負だった。
「俺は負けない!!キングダムっ!!フィストォォーー!!」
「さぁそれはどうかな?!レグルスっ!!フィストォォーー!!!」
それからケイとルーチェの拳と拳が何度もぶつかり合う。まさにインファイトだった。最初は互角のように思えたが、そうではなかった。スピードが違ったのだ。ルーチェはケイのスピードのその上をいく。
「速い……!!俺よりも!!」
「ケイ!たしかに拳の威力は互角みたいだね。だがスピードは違うようだ。」
「ならばっ!!」
ケイが長い間ルーチェの攻撃をギリギリのところで見極め、カウンターで勝負している状況が続いたが、凄まじい衝撃による爆発で地面の砂が舞い上がりケイは一瞬視界が砂に妨げられる。その隙をルーチェは見逃さなかった。ルーチェはケイの背後に瞬間移動をする。
「……はっ!?後ろだとっ!?」
「カウンター狙いみたいだけど甘いねっ!視界が妨げられたくらいで動揺しているようじゃ僕には勝てないよ!くらうがいい!!クリムゾンっ!!バスタぁぁーーー!!!」
「がはっ……!!!」
ケイの背中にルーチェの一撃が直撃する。ケイの身体は凄まじい勢いで巨大な岩へぶつかっていくのだった。しばらく立ち上がらないケイを見てルーチェはまるで挑発するかのように声をあげる。
「その程度かい?そんなんじゃシルファ=トラモントは守れないよ?」
シルファの名を聞き、ケイは全身から大量の血を出血させボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がる。
「負けない……負けない!俺は……シルファの英雄になるんだぁぁーー!!」
シルファへの想いを爆発させ、これまで以上の輝きを放つ。そんなケイを見てルーチェは笑みを浮かべケイに伝える。
「そうだ!もっとだ!もっと感情を爆発させろ!想いが力に変えるんだ!!」
「ルーチェーー!!!覚悟ぉぉーー!!」
「こいっ!ケイ=ミカヅキ!!」
ケイはそう叫びこれまで以上のスピードでルーチェに接近する。そしてこれまで培ってきたすべての経験からルーチェの回避行動を予測しまさに少し先の未来へ攻撃するのだった。つまり今いる場所への攻撃ではなく、回避した先へ攻撃したのだった。これにはルーチェは予想外だったのか初めて防御の体制をとる。
「……くっ!!経験による未来予測か!!まさか僕が防御するとはね!想定以上だよ。だがこれが君の全力だとするなら僕には勝てない!絶対に。」
「俺がお前に勝てないだと?今の俺は負ける気がしないがな!」
「いや!ケイは今の僕には絶対勝てないさ。なぜなら君はその力の本来の力を未だに知らないようだからね。」
「本来の力だとっ?!」
「そうだ。僕が君との戦いを望んだのは伝えたかったからさ。この太陽のエネルギアの本当の輝きを!」
ルーチェは目を瞑り集中する。そして呪文のような言葉を唱えながらエネルギアを高めていく。これまでケイが感じたことのない未知なるエネルギアだった。
「……その羽ばたき、精霊の歌声のごとし……永遠の夕陽の輝きをもって、すべてを無に帰せよ……その命、その魂、その骸なきがらさえも……」
ルーチェは爆発的に一気に力を解放し、真の姿を露にする。その姿は神秘的で美しかった……夕陽のように輝く黄金の長い髪は揺らめき、全身は緋色のオーラに包まれている。そして何より2枚の大きな黄金の翼は優しい光を放っていた……
「バ、バカな……その翼はまさか……!」
「……『サンセット・モード』。これこそがこの力の本当の姿だ。そしてもう一度名乗らせてもらおう!!僕は『太陽の翼』を持つもの。ルーチェ=アポロニア!!はるか昔ダークネスジャイアントを倒した『夕陽の英雄』であり、そして君の遠い先祖さ!!行くぞ!ケイ!!」
驚きのあまり言葉を失っているケイにルーチェは自分の正体を明かす。そしてこれより先、ケイは異次元の力を思い知ることになるのだった……




