第82章「ケイとアクア……この瞬間が永遠に」
アクアかわいい……
「今日はお疲れさま~!かんぱーい!!」
時刻は18時半。ここいつもの酒場の夕陽処でケイの乾杯の声と共に、ラキ、ウル、ボルグ、グレンはグラスを交わす。5人は今日のライブの打ち上げをしていたのだ。ウルは皆に言う。
「それにしても大成功だったね。あの観客の盛り上がりを見て、俺も心が震えたよ。」
「ああ!危うく騎士という本職を忘れかけるところだったぜ!ははっ!」
ボルグがそうウルに言った後、ラキは皆に感謝の気持ちを伝える。
「本当に皆さんありがとうございました!本当に一緒に演奏できて幸せでした!」
「本当に僕も幸せだった。1日限りのグループでもう解散と思うと寂しいよ。」
グレンがラキに少し寂しそうな表情で答えた後、ケイは思ったことを言う。
「たしかにな!まぁ解散は寂しいが俺はなによりもアクアが喜んでくれたみたいで嬉しかったよ。あいつのために俺達作曲まで頑張ったからな!」
「ははっ!そうだね!それよりケイは大丈夫なのかいっ?」
「ん?何が?」
ウルがニコニコとした表情でケイに不思議なことを尋ねる。ラキ、ボルグ、グレンはその意味を理解していた。そんな何も気づかないケイにボルグはため息をつき答える。
「はぁ……相変わらずそういうのは鈍いな。アクア様は多分ケイに惚れてるぞ?ありゃ……」
「はっ?!い、いやいやそれはないだろ?!あ、あれは友達としての感謝の気持ちでだなっ!」
「ふふっ!ケイはアクア様を大切な友人と思うかもしれないが、アクア様はそういうふうには思ってないよ!多分!ところでアイリス様とアクア様どっちを選ぶんだい??!」
「グ、グレン……!お、お前楽しんでるだろ?!ラ、ラキは違うと思うよなっ?!」
ケイはラキに助けを求めるが、ラキはやれやれといった顔で答える。
「ケイ様……残念ですがあなたは罪深き男ですよ……というかあのアクア様を見て本当に気づかないのですか?!」
「……ほ、本当に気づかないんだが……」
『…………』
「や、やめろぉー!おまえらっ!!お、俺をそんな残念なものを見る目でみるんじゃねぇーー!!」
男子会でそんな盛り上がりがあったのと同じように女子会も内密に開かれていた。メンバーはシルファ、アクア、アイリス、アスカである。しかもその場所はなんと男性陣と同じく夕陽処であり、遠く離れた個室の席でである。こちらは少し緊張感に包まれた雰囲気だった。アクアは尋ねる。
「……わ、わざわざレイラとハクに内緒で呼び出してなによ?……な、なんで私だけ?」
「……あのさ、ちょっとアクアに聞きたいことあるんだけど……」
「な、何よ……?アイリス、そんな真剣な表情で……」
アイリスは知るのが怖かったのだろう。一瞬聞くのをためらう。しかしやはりどうしても知りたいと思い、顔を赤くし涙目で尋ねる。
「……その……ケイが好きなの?」
「ふぇっ?!えっ?!?!ア、アイリス!!な、な、何言ってるのよ!?!?」
「……お願い……それだけはやめて。……あきらめて……」
アイリスが真剣にお願いする一方、アクアは顔を真っ赤にさせ、心臓を鷲掴みにされたかのようにドキッとする。身体全身が震えていた。それから自分の想いを隠すかのようにみんなに言う。
「あ、あっはっはー!!ケ、ケイはただの友達よっ!!だ、大体4つも歳下なのよ!!そんなことあるわけっ……」
「アクアさん……隠しても無駄だと思いますよ……私もそうなのかなってちょっと前から思ってました……自分では気づいてなかったかもしれませんが最近家でケイさんの話よくしますし……」
「なぁっ!?アスカっ!ち、違うの!!そ、それはレイラがケイの部隊だから!!」
そんな最後の抵抗と言わんばかりの苦しい言い訳をするアクアにシルファも顔を赤くし泣きそうになりながら言う。
「アクア……先ほどあなたの恋を応援すると言いました……ですがケイだけはダメです……お願いします……手をださないで……なんでもしますから……」
「シ、シルファ!な、なんで泣きそうなのよ?!だ、だからケイをそういうふうにみてないから!」
「まだ自分を偽るのですね……では素直に応援できますか?ケイが自分以外の人と幸せになって納得できますか?」
「っ!!」
「……絶対無理ですよね?……本当はケイのこと大好きで……ケイの全部が欲しくて……一杯えっちなこともしたくて……今のアクアの表情を見てれば誰だってわかりますよ……」
「……」
何もアクアは言い返せなかった。シルファが最後に言った言葉がアクアが本心だったからだ。そしてとうとうアクアは本心を親友のシルファとアイリスに涙を流しながらさらけ出す。
「……ごめんなさい、シルファ、アイリス……ごめんなさい……私、私!!ケイを好きになっちゃった……好きになっちゃいけなかったのに……応援しなきゃいけないのに……できないの、ケイの全部が欲しい……嫌だ……嫌だ……なんで?なんで?!なんでケイを好きになっちゃったのよぉ……私最低よ!!」
「アクアさん……いつ、誰を好きになるかなんて誰にもわかりませんよ……だから自分を責めないで下さい……私は今のアクアさんの素敵だと思いますよ……誰かを心から愛するアクアさん、綺麗だと思います……」
ずっと家でも一緒だったアスカは優しくアクアを励ます。その優しい言葉にアクアは涙が止まらなかった。そんなアクアとアスカのやり取りをみて、シルファとアイリスは切ない表情でアクアに謝る。
「……アクア……言いすぎました……あなたの気持ち、もっと考えるべきでした……」
「アクア……私もあきらめてとか圧かけてごめん、あなたの気持ち……私も全く同じだったからわかるわ……好きになってはいけない人を好きになることがどれほどつらいか……」
シルファとアイリスがアクアに謝った後、アスカはふと思ったのかケイについての文句を言い始める。
「だ、大体ケイさんもケイさんですよ!こんな素敵なサプライズ……女の子は嬉しいに決まってるじゃないですか!汚いですよ!」
「!!」
この一言により、話の流れが変わり、ケイを巡った言い合いが勃発する。
「そ、そうよ!!なによ!アクアたった1人のためにこんな壮大なサプライズしちゃって!!だいたいケイは私のなんだから!私にだけ優しくしてればいいのよ!!」
「えっ?!そ、それは違います!アイリスのものじゃないです!だってケイと運命の赤い糸で結ばれているのは私ですから!」
「そ、そんな占いじみたものを信じるなんて相変わらず子供ね!シルファは!前から思ってたけどあんたは色気ないのよ!!」
「い、言いました、今言ってはいけないこといいました!!逆にアイリスは少し品がないと思います!……そうですね!あなたの二つ名、私が今考えました!『エロリス』とかどうでしょうか?あなたにお似合いです。ふふっ!」
「なぁっ!!そ、その二つ名やめなさいよ!!定着したらどうするのよ!!……だ、だいたい私だけそういうことに興味あるみたいな言い方するけど、どうせシルファもアクアも、ここにはいないけどフィオナもムッツリなだけでしょ?!」
「ち、違いますっ!!私のは純愛です!!!」
「わ、私もムッツリじゃないわよ!!」
シルファと急に飛び火を喰らったアクアは否定するが、アイリスはさらに追い討ちをかける。
「へぇ……そう言いながら二人とも夜寝る時とかベッドで1人でしてるんじゃないの?」
『!!』
あまりにも生々しく下品な質問にシルファ、アクア、アスカは目を見開き顔を真っ赤にする。シルファとアクアは誤魔化すかのように焦った様子でアイリスに答える。
「げ、下品です!!は、はしたないです!!私はアイリスとは違います!そ、そんなことしたことないです!」
「そ、そうよ!そ、そういうこと言うからアイリスはいやらしいイメージなのよ!!」
「ふーん……そんなこというんだ。じゃ二人とも調べてもいいわよね?アスカ!」
「は、はい……アイリスさん、なんですか?」
アイリスはニコニコと悪い表情をしながら、アスカに頼む。
「2人のここ一週間の記憶をのぞいてくれる?」
「は、はぁ……いいですけど……」
『!!』
その瞬間アクアは立ち上がり、顔を真っ赤にしながらお手洗いに行くと言って逃げるのだった。
「アクア逃げたわね。その時点でバレバレなのに……じゃシルファにお願い!」
それからアスカは取り残されたシルファの頭を触れようとするが……
「だ、だ、ダメです!!そういうの詮索するのよくないと思います!」
シルファはアスカの手を握り、ストップをかける。それに対してアイリスは理由を尋ねる。
「どうして?純愛なんでしょ?やましいことがないならいいじゃない?」
「そ、それは……あっ!わ、私皆さんのソフトドリンク持ってきますね!」
そう言いシルファも顔を真っ赤にしながら立ち上がり、逃げるのだった。アイリスは呟く。
「こ、ここはファミレスじゃないわよ……全く二人とも嘘が下手なんだから……」
女性陣のドロドロした飲み会に対して、男性陣の打ち上げは大盛り上がりだった。
「ケイ!このままいけばこの部隊が一番最強になるだろう!最近任務達成率もこの部隊が現在ダントツでトップで、タイガやフィオナのおかげで新人騎士の技量も上がってきている!」
「グレンの言う通り、このまま順調にいけば最高だな!あと二つ名制度のおかげで騎士達のモチベーションが上がっているらしいぞ。俺達が模範となって憧れられるようにならないとな。そういえばケイの二つ名はどうするんだ?」
そのボルグの質問に対してラキは自信満々の表情で答える。
「ボルグさん!それはこの前の花見で決まったではありませんか?!ケイ様の二つ名『イチャイチャ・ガールズハンター』ですよ!」
「ああ!そうだったな!」
「や、やめろぉぉー!違うわ!!トップの二つ名がそれはダサすぎるわ!なんか別なの考えてくれ!」
ラキとボルグの冗談にケイは焦るのだった。そんな中、ウルはケイのイメージについて言う。
「ケイのイメージ……拳、太陽、月……そのあたりじゃないかな?」
「おっ!さすがウル!ありがとな!」
「アイリス様とアクア様、三角関係……」
「おーい!グレンくーん!話が脱線しちゃうぞー?!」
「ははっ!冗談だよ!」
「ったく!……ちょっと俺はお手洗い行ってくるが変な二つ名は考えないでくれよ!頼むから!」
そうしてケイは立ち上がり少し席を外すのだった。
それから居酒屋夕陽処の店内を歩いていた2人、アクアとケイは偶然出会う。アクアはまさかの展開に驚きの声を上げる。
「えっ?ケ、ケイ?!?!」
「おー!アクア!お前もきてたのか?!」
「な、なんでここに?!」
「なんでと言われても、サザンクロスのメンバーで打ち上げに来たんだ!向こうにウル達もいるぞ!そっちは?」
「わ、私たちはシルファ、アイリス、アスカと来てるわ!!」
「へぇ……挨拶だけでもしていいか?!」
「ダ、ダメ、今は絶対ダメ!」
「お、おう!なんだかわからんがわかった!」
今自慰行為の話をしていたなんてことがケイにバレたらアクアは立ち直れる自信がなかった。アイリスがいつ下ネタを言ってもおかしくない状況の中会わせるわけにはいかない、そう思いアクアは提案する。
「ケ、ケイ!ちょっと外のベンチで話さない?ほら!店の入り口のすぐ横の!」
「ん?ああ!いいけど寒くないか?」
「だ、大丈夫よ!少しだから!」
そう言ってケイとアクアは店の外にでて、ベンチに並んで座る。アクアは少し緊張した様子でケイに話しかける。
「……き、今日はありがと。」
「……気にすんな。少しは元気でたか?最近アクア疲れてそうだったし。」
「……疲れなんて一気に吹き飛んだわよ。まさかあなたがZEROだとは思わなかったわ。」
「意外だろ?……でもそっかそっかー!」
「な、何よ!?」
「アクアの憧れの人は俺だったんだなぁー、なぁーんて!」
「ふぇっ?!」
爽やかな笑顔でからかうケイを見て、アクアはドキっとする。ケイに恋心を完全に認めたのは先ほどである。もう緊張でまともにケイの顔をみれなかった。
「あ、あなただと知ってたら憧れなかったわよ!!ばか!」
「ははっ!知ってる!俺達は友達だからな!お互い憧れなんていらないさ!対等でいこうぜ。」
「!!」
友達と言われ、アクアは胸の奥がチクりと痛む。ケイに女として見て欲しい、もっと近くにいきたい、もっともっと……様々な欲が出てきてアクアは大胆な行動にでる。ケイに近づき、頭をケイの左肩にのせるのだった。
「えっ?!ア、アクア?!?!」
「……これでも友達にしか思えない?」
「な、なぁっ!?」
いつもと違うアクアの姿にケイは顔を真っ赤にして動揺する。そんなケイを見てアクアは……
「ぷっ!あっはっは!ケイはチョロいわね!!こんなのに引っ掛かって!」
「ア、アクアーー!!お、おまえー!!」
ケイの様子を動揺する姿を見ていつまでも笑い続けるアクアは今日一番の笑顔だった。そしてケイはそれを見て、ベンチに置かれたアクアの右の手のひらに自身の左手を置きながら、今素直に思ったことを言う。
「でもいいな……俺はアクアはそうやって明るく笑ってる姿が一番綺麗だと思うよ。」
儚げで優しい笑みを浮かべながらそう言うケイを見てアクアは顔を真っ赤にする。嬉し過ぎて顔がニヤけてしまうくらいに。
「……ケ、ケ、ケイ!?あ、あの……しょ、しょの!!」
アクアのリアクションを見て、ケイは……
「……アクア!お前もチョロいなぁー!!!あっはっは!!」
「はっ!!……だ、だ、騙したわねーー!!!」
「い、痛い!ぽかぽか叩くな!お前だって騙しただろ?!お互い様じゃねーか!!」
「う、うるさぁーい!私の気持ちも知らないで!女の敵め!!女たらしめ!!」
そんなお互い自然な笑顔で溢れたこの瞬間をアクアはずっと続けばいいのにと思うのだった。その後何事もなかったかのようにアクアはシルファ、アイリス、アスカ達と飲み会へ、ケイはサザンクロスのメンバー達との打ち上げへ戻っていった。この出来事は二人だけしか知らない秘密の時間となったのだった……
最後まで読んでいただきありがとうございました!これで今回のアクア編は終了です。次の話はまたガラッと変わります。よろしくお願いします。