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第75章「幼なじみ」

審査員から先ほどのハクの試合を見ていたルナはウルとアランにかなり動揺した様子で尋ねる。


「ウル!アラン!な、なんなんだっ!あのハクの力は!尋常じゃない強さだ……何の能力なんだ?」

「……何の力かは俺もわからないが相変わらずの強さだね!ふっ!ケイ対ハクか……この試合俺も興味があるね!アランはどっちが勝つと思う?」

「……ケイだな。それどころか何分持つかの世界だろ。」


アランの一言にウルとルナはたしかにと思いながら頷くのだった。


一方シルファ達はハクの戦いを見て、しばらくの間言葉を失っていた。そんな中アクアはタイガに少し緊張した様子で話しかける。


「ね、ねぇー!あ、あのハクって子ヤバくない?!あの強さ、サンセットホープズにももしかしたら届くかも……何者なのよ?!」

「お、俺もそこまで詳しくないが、ケイの幼なじみらしいぞ!孤児院でずっと一緒だったらしいが……」

『幼なじみぃぃーー?!』


シルファ、フィオナ、アイリスは同時に驚きの声をあげる。なぜかわからないが3人は嫌な予感がするのだった。まさに女の勘ともいうべきか。フィオナは自分が知らなかった事実に焦った表情でタイガの胸ぐらを掴みながら尋ねる。


「あ、あ、あ、あいつ!ハクと幼なじみなの?えっ?!私も初耳なんだけど!!な、なんなの!?詳しく教えなさいよ!!」

「フィ、オナ!苦じぃ……ケホッ、ケホッ!……前にケイと差しで飲みに行った時、酔っ払ってさらっとそう言ってたんだよ!」

「た、たしかに先ほどケーくんって呼んでいました!!ま、まさかハクさんは……アイリスっ!」

「じょ、冗談じゃないわ!!なによ!幼なじみって!そのおいしいポジション!ラブコメ展開じゃない!!しかも月系統って私とキャラかぶるのよ!!」


アイリスが最後にわけのわからないことを言う中、ミマはアナウンスする。どうやらいよいよ戦いが始まるようだ。会場はまさかの展開に一気に緊張感が高まる。


「ケイ様もハク選手も準備ができたみたいね!まさに夢の対決!!いくわよぉぉーー!!試合開始ーー!」


ミマが試合開始の合図と同時にケイはエネルギアを集中する。ケイは珍しく最初から全力だった。エネルギアを使い、全身にルーチェをまとう。その姿はいつも以上に神秘的だった。全身が黄金のオーラで包まれる中、黒髪がまるで太陽の炎ように輝く赤色に変わりゆらめいている。ハクは初めてみるこの姿に目を見開き、ケイに向かって言う。


「……昔とは違うということか!面白い!私も最初から全力で行かせてもらう!!」

「……こい!」


ケイの合図と共にハクは尋常ではないスピードでケイの懐へもぐり込む。そしてムーンデスサイズを横から振り抜く。危険が迫る中ケイは余裕の笑みを浮かべ、ルーチェで強化した左腕でガードし、簡単に受け止めるのだった。


「ほう……さすかだな。俺にガードさせるか。」

「ふんっ!……いつまで余裕でいられるかな!」


その一言にハクは内心かなり動揺していた。今の一撃は手を抜いたわけではない。あれを簡単にガードする人間など今まで見たことがなかった。そんな中ケイはハクに静かに伝える。


「ハク……懐かしいなお前と戦うの!俺を楽しませろよ!いくぞっ!」

「……来るっ!」


次の瞬間ケイは瞬間移動する。ハクも新月のエネルギアで肉体強化をされているためパワー、スピードが桁外れに高まっているがそれでも反応できなかった。速すぎて動体視力が追い付かないのだ。ケイはこの隙を見逃さない。


「……消えただとっ!どこだっ!」

「……後ろだ!輝けっ!黄金の拳よ!ルミナスっ!フィストぉぉーー!!」

「な、何っ!……がはっ!!」


ハクの背中にケイの拳が直撃し、凄まじいスピードで実技実習場の壁に激突する。その威力は壁を半壊させるほどだった。ハクはしばらく起き上がらなかった。一撃で勝負が決まってしまったのか、そんなふうにケイは思いながら声をかける。


「まだたった1分だぞ?どうした?」


ケイのその言葉に反応したかのように、瓦礫の中からハクは起き上がり、ゆっくりとフィールドへ戻ってくる。驚くべきことにノーダメージのようだ。この光景にケイは感心しながらハクに尋ねる。


「おいおいっ……今のがノーダメージかよ。どうなってるんだ?」

「……ケイ!さすがだな。パワー、スピードどちらも私より上のようだ。だが私が負けることはない!なぜなら今は夜だからな!」

「……どういうことだ?」


ハクは勝利を確信したかのような表情をしながらケイに教える。


「くっくっくっ……誰にも話したことがなかったが特別に教えてやろう。ヴァンパイアの能力は肉体強化だけではない。月が出ている間はエネルギアが消費されずどんなにダメージを負っても一瞬で回復するのだ!まさに今の私は無敵ということだ!」

「……」


まさかの能力に観客にいた6人は動揺の色をかくせなかった。クルミは思わず声をあげる。


「な、なんですかそのチート能力っ!無敵じゃないですかっ……」

「月のエネルギアの真骨頂は夜に発揮するからね……だけどそんな反則じみたものだとは思わなかったわ。」

「ま、まさかケイが負けるんじゃないだろうな?!俺はケイに勝ってほしいぞ?!」


アイリスとタイガがクルミの一言に反応した後、アクアとフィオナが会話にまざる。


「……ケイが負けることはないと思う。どんなにハクが凄くてもケイには敵わないわ。」

「フィオナのいうとおりよ。それに夜に力を発揮するのはハクだけじゃないからね。」


最後のアクアの一言に皆は気づく。無敵を超える力をケイは持っていたことを。


フィールドではハクが接近戦に持ち込みケイにムーンデスサイズで凄まじい連続攻撃を繰り出していた。しかしケイはギリギリのところで全て見切り回避するのだった。


「なぜだっ!なぜ当たらない……」

「それはスピードの差だろ?お前より俺の方が速い……それだけだ!」

「……それなら!」


すべての攻撃を回避するケイからハクは一度距離をとり、上空へ黒い翼で舞い上がる。そしてハクはケイに伝える。


「ケイ……認めてやる。お前の強さを。だが私の負けはない。なぜなら私とは違いお前はエネルギアが消費していく。そして枯渇すればその力もいずれ使えなくなるだろう!」


その言葉にケイはなんでもないかのような表情を浮かべ答える。


「空中で俺のエネルギアがきれるまで時間稼ぎということか。……ハク!知っているか?無敵を超える力が存在することを。」

「なんだとっ?……はったりだな。」

「夜に真の力を発揮するのはお前だけじゃないんだよ。……見せてやるよ。ここまで頑張った敬意を表してな!」


ケイは一度ルーチェを解除し再び集中する。その瞬間、ケイは全身が輝き始めた。その光はムーンアイランドに咲くヒマワリのように青白い輝きを放つ。そして背中にはその青白い輝きをもつ4枚の大きな三日月の形をした羽が生み出されたのだった。黒髪をそよ風になびかせ、青白く光輝くオーラはこの世の何よりも美しいものだった。


「な、何っ?!その力は月のエネルギア?!ばかなっ!あり得ないっ!2つの能力を持つだと!!」

「ハク……これで終わりだ。」


昔一度も見たことがなかったケイの本当の力を目の当たりにし、ハクは目を見開く。そして上空にいながらもこの圧倒的な力に本能的に危機を感じムーンデスサイズを上段に構える。そして地上にいるケイに向かって叫びながら地上へ振り下ろす。


「くっ!私は負けないっ!!いくぞっ!100%の力でお前を超える!ストライク・オブ・グリムリーパぁぁーー!」」


上空から地上へ凄まじい青白い光が襲う。先ほどのDブロックで見せた一撃よりはるかに青白く光輝いていた。それに対してケイは立ち止まったままゆっくり右腕をあげ、手のひらを空へ向ける。そしてハクの一撃に手のひらが触れた瞬間、粉々に打ち消してしまうのだった。ハクは信じられないものを見たといった顔をしながら呟く。


「えっ……?」


それからハクの動きが上空で止まった一瞬の隙に、ケイは上空へいるハクの背後へ瞬間移動する。そしてハクの右肩に触れるのだった。ハクの新月のエネルギアのヴァンパイア化が強制的に解除され、元のハクの姿にもどる。その結果地上へ重力に従って落下していくのだった。


「そ、そな!アホなっ!の、能力が強制解除され、しかもエネルギアが使えないやと?!きゃああー!!」


地上に落下していくハクは恐怖で目を開けることができないでいた。万事休すとハクが思った時だった。空中でケイがお姫様抱っこをしながら受け止めのだった。ハクは目を開く。そこで見たものは儚げに優しく微笑むケイだった。ケイは心配した様子でハクに尋ねる。


「……大丈夫か?」

「……へっ?!……うん。」


ハクはケイの美しさに見とれて、急に心臓の鼓動が高まり、顔が赤くなるのだった。そしてゆっくりと着陸する。ケイも能力を解除し笑顔で手を差し出しながらハクに言う。


「……ハク!今回も俺の勝ちみたいだな!でもやっぱり孤児院時代よりもずっと強かったぜ。」

「……ケーくん……せやな!うちの負けや!ほんま戦ぉてくれておおきに!」


ハクもケイに負けない明るい笑顔で敗北を認め握手する。どうやら決着がついたようだ。それからこの光景を見てミマは英雄の名を響かせる。


「決着ぅぅーー!!勝者はやはり若き天才騎士、サンセットホープズのケイ様だぁぁー!!最高の試合ありがとうぉぉーー!!」


そのアナウンスと共にケイは観客に手を振る。そして会場は今日一番の盛り上がりをみせるのだった。

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