第74章「新月のエネルギア」
ハクの力、凄いです!
エミリア=オルコットの圧倒的な勝利に、ウル、ルナ、アランはあまりの衝撃に言葉を失っていた。少しの沈黙の後、ウルは静かに呟く。
「バカな……たった3分で全滅だとっ?エミリア=オルコット……彼女はいったい?」
ルナは携帯を取り出しすぐに彼女が何者なのかを調べる。そして目を見開き、口にする。
「元サンセットホープズ候補、エミリア=オルコット……原因はわからないが彼女は2年前一度騎士をやめている……!それもサンセットホープズ就任直前に!その結果アイリス様が当時史上最年少でサンセットホープズになったらしい!」
「ほう……!元サンセットホープズ候補がナンバーズか……!戦力の大幅アップは間違いないな!俺は歓迎するぜ!」
アランはあいつにだけは絶対負けないといった表情でルナに答えるのだった。
それから観客席に座って見ていたメンバーも今の試合について戸惑っていた。そんな中ケイは満足そうな笑みを浮かべ、さすがだと思いながら感想を口にする。
「ははっ!やっぱりあいつがCブロックが制したか……!エミリア!」
フィオナはそのケイの言葉に疑問をぶつける。それはここにいた皆が思ったことだった。
「ちょ、ちょっとケイ!!エミリアって女とどこで知り合ったのよ!!」
「ん?賭博場だ!荒稼ぎしてる元女騎士がいるって噂を聞いて興味を持ってな!スカウトしたんだ!」
「そ、それでそのギャンブラーがなんでケイの部隊に入ってくれたんだ?素直に入りますなんて従う感じじゃないだろ?」
タイガの質問にケイは自信に満ちた表情で答える。
「ああ!それはな!ポーカーで賭けをしたんだ。俺が勝ったらエミリアが部隊に入る、負けたら……ま、まぁ!あいつは精神干渉系のエネルギアを持っているからな!まさか自分が負けるとは思わなかったのだろう。」
「ど、どうしてケイが負けた時の条件をにごしたのよ?!」
アクアの質問に対してケイは言いづらいことなのか何も聞かなかったことにし話を続ける。
「あいつは俺との勝負の中、周囲にバレないように能力を使ったが効かなかった。それは多分俺がミカヅキの羽の能力を持っているからだと思う。発動したわけではないんだが、どうやら妨害しているらしい!それで五分五分の戦いに持ち込んで俺が勝ったわけだ!」
「な、なるほど……さすがケイさん。勝負師ですね!」
「ふふ!!ケイが負けるはずありません!それにしてもナンバーズのメンバー凄いですね……今やケイ部隊全騎士の目標になってそうです……」
クルミとシルファの反応にケイは嬉しそうな表情をする。そしてケイは6人に伝える。次のDブロックが本命だと。
「ああ!目標があるほうが人は努力するものさ!そしてあと1人……次のDブロックで決まるがおそらく勝つのはあいつだろうな。俺が今回の大会で最強だと思う騎士がいる!」
時刻は18時。夜空に月が浮かぶ中、ミマは司会を進行する。相変わらずテンションは高いまま笑顔でDブロック出場者を会場の巨大なスクリーンに映し出すのだった。
「みんなぁぁーー!お待たせぇぇーー!最終のDブロックに移るわよ!!メンバーはこちら!!名前がある騎士はフィールドに集合よ!!」
そしてその中で、とある名前にタイガ、フィオナ、クルミは驚きの声を同時にあげる。その名は……
『ハク=ヴァールハイト?!?!』
アイリスはそんな反応に3人に尋ねる。ハクが何者かと。
「あ、あなた達の知り合いなの?!」
「いや!知り合いじゃねーがアマネセル学園では超有名人だった!!入学実技試験はたしか首席!!あのウル=グレイシヤを倒した強さ!化け物だぞ!!」
「入学してすぐ退学したみたい……噂だと友達が教師に悪口を言われて、その教師をボコボコにしちゃって退学になったらしいわよ!」
「フィオナさん、私学年違いましたけど、その噂聞いたことがあります!やっぱり噂は本当だったんですね……」
タイガ、フィオナ、クルミがそう言った後、ケイはアイリスに向かって不思議なことを言う。
「……アイリス。この試合、多分お前が一番びっくりすると思うぞ!」
「えっ?そ、それはどういう……」
アイリスがケイの一言に質問しかけたと同時に、ミマはアナウンスをする。どうやらDブロックももう選手の準備ができたようだ。
「みんなぁぁーー!Dブロックの選手達も準備ができたみたいよーー!!それじゃいくわよーー!」
「ちょっと待ちーやぁぁーー!!」
まさに試合開始の合図がされる直前だった。どびっきり元気な明るい声が会場に響きわたるのだった。その声の主が巨大スクリーンにアップされる。黒ずくめの服装、黒髪ショートに色白な肌、整った鼻立ち、キリッとしたぱっちりとした目、スラッと長い足でスレンダーな美少女である。まさにこの美少女がハク=ヴァールハイトその人だった。
「おぉーっと!!試合開始直前に何やらハク=ヴァールハイト選手が何か言いたいようだ!!」
「そこで観てんのはわかってんで!ケーくん!!」
ハクは自信に満ちた表情で観客席に座るケイに向かってビシッと指を指す。そして巨大なスクリーンにケイが映し出されて、ハクはこう宣言する。
「もしウチがこの試合に勝ったら、次はジブンや!覚悟せぇ!!」
まさかの展開にミマは面白くなってきたと思いながら実況する。
「な、な、なんとぉぉーー!ハク選手!この試合に勝ったらケイ様に挑戦するつもりだぁぁーー!これは面白くなってきたわ!!」
ハクが勝ったらケイVSハクの試合になり、観客席は大盛り上がりだった。シルファとフィオナは心配そうにケイに尋ねる。
「ケ、ケイ?あ、あの子知り合いなのですか?勝ったらケイに挑戦するつもりみたいですけど……」
「まぁ……ちょっと昔色々あってな!それにしても……ははっ!いいじゃねーか!俺と試合か!」
「なんであんたは余裕なのよ!ハクの強さ知ってるでしょ?!」
「強い奴と戦いたい……それは騎士としての本能だからな。」
そう言いケイは観客席を立ち上がり、サングラスとキャップを脱ぎ去る。そして観客席が静まり返ったのを確認してからハクに向かって叫ぶ。
「ハク!その試合、受けてたつ!!お前がこの試合勝ったらな!!」
「よっしゃ!逃げんとって戦うんは誉めたるわ!」
ケイが了承し、ハクはガッツポーズをする。その結果、先ほど以上に観客席が盛り上がるのだった。それからミマは観客席にアナウンスする。
「まさか!まさかの展開!!ハク選手が勝ったらケイ様と試合することになるなんてっ!!これは凄い!!とは言えまずはDブロックの試合ね!いくわよ!みんなーー!それじゃDブロック!試合開始ーー!!」
試合開始と同時に騎士達はハクを目指して走っていく。それもそのはず、あたかも他の騎士には眼中にないかのような先ほどの発言に苛立ったからである。しかしハクの様子は落ち着いていた。そして目を瞑りエネルギアを集中する。
「月よ……力を……」
その瞬間青白いオーラを全身にまとわせていく。それを見たアイリスは驚きのあまり立ち上がり、目を見開きながら思わず声をあげる。
「な、何っ!?!?あ、あれはまさかっ?!」
青白いオーラがさらに高まりハクに注目が集まる。ハクは青白いオーラを全身に纏いつつも先ほどとは違う姿に変わっていく。髪は黒髪ショートから銀色のロングヘアーに変わり、瞳の色は血のように真っ赤、コウモリのような漆黒の二枚の翼、鋭い牙と爪、妖艶で神秘的だが禍々しい……そんな美しい女性になっていたのだ。その姿を見てアイリスは全身を震わせながらケイに静かに尋ねる。
「ケ、ケイ……あれって月の光系統よね……?!な、なんで?!あ、あの姿なんなのよ?!」
「あれはな……新月のエネルギア……伝説の幻獣種ヴァンパイアに変身することができるんだ。」
「そ、そ、そんな力聞いたことない……あのハクもムーンアイランド出身なの?!な、なんで?なんでなんで?!」
「アイリス落ち着けって!」
あまりに取り乱すアイリスをケイは落ち着かせる。そしてハクはまるで時が止まったかのような空気の中、言葉を口にする。先ほどの明るい親しみのある言葉使いとは全く異なり、冷酷な口調に変わっていた。
「私に歯向かうとは命知らずが……貴様らは後悔するだろう。圧倒的な力の差に!いでよっ!!ムーン・デスサイズ!!」
ハクは右手にエネルギアを集中し、青白いオーラに包まれた巨大な鎌を生み出す。それから選手の騎士達に対して鎌を上段に構えて言う。
「……一撃だ……それで終わる。いくぞ!!……ストライク・オブ・グリムリーパぁぁーー!」
ムーン・デスサイズを振り下ろす。その瞬間、会場は青白い光に包まれ、凄まじい爆発が起こる。特殊なエネルギアで守られていなければ観客席も粉々になっていたであろう破壊力だった……
「……これが世界を変える力だ……」
爆発がおさまりハクがそう呟く。選手の全騎士はピクリとも動かず気絶していた。たった一撃で勝負は決したのだった。ミマはその光景を見て驚きのあまり茫然とした表情で勝者の名前を叫ぶ。
「Dブロックっ!しょ、勝者!ハク=ヴァールハイト選手!す、凄すぎる!なんだこの強さはっ!異次元の強さだぁぁーー!そしてハク選手のナンバーズ入り確定と同時に夢の戦いが実現しましたぁぁーー!ケイ様VSハク選手です!ケイ様!フィールドへお願いします!」
そのアナウンスと共にケイはわくわくした表情で、フィールドへ観客席から直接、大ジャンプして降り立つのだった。ケイとヴァンパイア化したハクは向かい合う。
「よう!ハク!久しぶり!いつぶりだ?!こうやって向かい合って話すのは。」
「ふんっ!9年ぶりだ!……相変わらずその絶対に自分は負けないといった顔、腹が立つ!今日こそあの時のリベンジさせてもらう!」
こうして両者の準備ができ、凄まじい戦いが始まろうとしていた……
最後まで読んでいただきありがとうございました!続きもお楽しみに!