第58章「英雄の片鱗」
ここはアーベント学園実技実習場。騎士志望の学生しか集まらない高校だけあり、アマネセル学園とは設備規模が違った。観客席の数、フィールドの広さ等どれをとってもアマネセル学園を上回っていた。
そして午後の13時半すぎ、ケイはここアーベント学園実技実習場で1年2組の生徒にこれから行う実技の内容を説明していた。
(ケイ)「ということでエネルギアをより効率的に使用するには……」
そんなケイが説明している時だった。ある男子生徒がケイを挑発したのだ。
(男子生徒1)「ミカヅキ先生!!そんな説明いいので今俺と戦ってくれませんか?!騎士の凄さを直接教えてくださいよー!」
生徒の間でクスクスと笑い声が聞こえる。本当に強いのか?そんな懐疑的な眼差しでケイをナメている雰囲気だった。
(ケイ)「……そうだな。説明してもどうせ聞かないだろおまえら。なんだっけおまえ。ヴァイスだっけ?闘技フィールドにあがれ。試合だ。」
(ヴァイス)「フハハハ……先生!ボコボコにいじめてあげますよ!」
ヴァイスとケイは闘技フィールドにあがる。障害のないシンプルなフィールドだ。そしてこの実技実習場では実際の戦場を意識しているためアマネセル学園と違いダメージは直接受けることになっている。よって出血や最悪の場合、死もありえるのである。
(ケイ)「……準備はいいか?おまえ。死ぬなよ。」
(ヴァイス)「はっ!何言ってるのかわかりませんね!見せてあげますよ!!この俺の力を!!」
審判の生徒がスタートの合図をする。それと同時にヴァイスは右手に氷の刃を産み出し、ケイに接近していく。一方ケイは全くエネルギアを使わずヴァイスがこちらに近づくのを待っていたのだった。
(ヴァイス)「オラァァーー!!」
ヴァイスの動きを観察し、ケイは静かに呟く。
(ケイ)「……高速移動術を使えないのか。コイツはだめだな。」
ヴァイスが上から剣をケイに振り下ろす。だがしかし空振りに終わる。ギリギリまで引き付けたため大きな隙が生まれる。そしてケイはヴァイスの腹部に渾身の右拳のパンチを喰らわせるのだった。
(ヴァイス)「ぐほぉ!!」
ヴァイスの体は吹き飛び、地面に転がる。その後あまりの激痛に立ち上がれずにいた。それを見た生徒は驚きの声をあげる。
(女子生徒1)「な、何……?今の……」
(男子生徒2)「……エ、エネルギアを使っていない?そ、それであの威力だと?」
(男子生徒3)「あ、ああ!ただの体術でヴァイスを……」
ヴァイスは意識が飛びそうな中、何とかふらふらと立ち上がる。その表情は怯えているようだ。
(ヴァイス)「い、痛い……!えっ?……血!?な、なんだこれぇぇーー!?」
そんな恐怖に満ちたヴァイスに向かい、ケイは冷めた目で見ながらゆっくり歩いていく。彼にはもう興味がないかのような冷酷な表情で……
(ヴァイス)「く、くるなぁぁー!!」
(ケイ)「……本物の戦場はそんなに甘くない。……生きるか死ぬか、そういう世界だ。」
そうケイはヴァイスに言い、高速移動術で接近する。
(ヴァイス)「ひっ……!なんだそれぇぇー!嫌だぁぁ!」
(ケイ)「……ハートブレイクショット。」
無防備なヴァイスにケイは無慈悲に右拳を喰らわせる。今度は腹部ではなく心臓にである。
(ヴァイス)「た、助け……がはっ!」
ヴァイスの体は再び吹き飛び、地面に転がる。今度は立ち上がることはできなかった。呼吸するのでやっとである。その残酷な試合に生徒達は悲鳴をあげるがケイは無視する。
(ケイ)「ほう……まだ意識はあるか。さすがアーベントの生徒だな。だが心臓に一撃をあたえた。しばらくは動けまい。」
そのケイの姿にコウとラナ、ガイも恐怖を感じた。足の震えが止まらない。
(ラナ)「な、何?あのパワー!あのスピード!!化け物じゃない!!」
(コウ)「し、しかもまだ能力を使っていない……ヴァイスが殺される!」
(ガイ)「や、やめろぉぉー!!」
そんな声はケイには届かなかった。地面に倒れたままのヴァイスの元へゆっくり歩いていく。
(ケイ)「……最後に何か言い残すことはないか?」
(ヴァイス)「……たす、け……」
(ケイ)「……そうか。」
試合が始まってたった3分でヴァイスは涙を浮かべ助けを乞う。しかしケイの心には一ミリ足りとも響かなかった。右の拳が黄金に輝く。効率的でムダが一切なく、拳に爆発的な力が凝縮する。その輝きに生徒達は畏怖を覚える。
(ケイ)「……さっきの授業の説明だが、おまえはその体で体験したほうがいいだろう。いくぞ。」
(ヴァイス)「あ、あ、あああああぁぁーー!!」
ケイは黄金に輝く右拳を起き上がれないヴァイスの顔にぶちこもうとする。そんなヴァイスは直撃する直前に気絶したのだった。そして拳をギリギリのところで寸止めするのだった。
(ケイ)「3分か……よくもったな。頑丈さだけは誉めてやるよ。」
この光景を目の当たりにし、生徒は二度とケイを挑発しないと心に誓うのだった。




