第53章「ケイVSアイリス(後半)」
(ケイ)「もらったぁぁーー!!」
(アイリス)「左……いや後ろ!!くっ!」
それは真っ向勝負のインファイトだった。あれからケイだけでなくアイリスも満月の波動の青白いオーラを全身にまといながら応戦する。お互い100%の力を出し、拳と剣での激しい攻防を何度も繰り返していた。しかし試合が始まって1時間半が経過したにも関わらずお互い決定的な一撃が決まらずにいた。互角の戦いに観客そして特別席でも盛り上がりは最高潮だった。
(シルファ)「ケイ!アイリス!……す、すごいです!」
(ジョーカー)「あのアイリスと互角だと?!」
(ロイ)「いや!むしろケイが押している!!アイリスの波動の未来予知があのケイの肉体強化による瞬間移動のスピードについていけてない!!パワーはケイが上だ!」
(アクア)「アイリスの肉体強化はケイほどじゃない……最大の武器の未来予知を封じたケイが有利ってことね!!」
そしてついに拮抗が崩れる。その瞬間アイリスが上から剣を凄まじいスピードで振り下ろし、一撃を繰り出した時だった。
(アイリス)「これで沈みなさい!!はぁぁ!!」
(ケイ)「この一撃を待っていたぁぁー!!」
ケイはアイリスの一撃をギリギリまで引き付け回避する。そして瞬間移動でアイリスの背後に移動したのだった。
(アイリス)「……えっ?」
(ケイ)「黄金に輝けぇぇ!トラモントの光よぉぉーー!!キングダムフィストぉぉーー!!」
(アイリス)「がはっ……!!」
ケイはついにアイリスの背中に一撃を与えた。その破壊力は尋常ではなかった。アイリスは凄まじいスピードで実技実習場の壁に激突する。
(タイガ)「ケ、ケイ!!や、やったぞ!!」
(フィオナ)「つ、ついにアイリスをとらえたわ!!」
粉々になった壁の瓦礫から、アイリスはふらふらとゆっくり起き上がる。アイリスは何がおこったのか今になって気づく。ケイに一撃をくらったということに。
(アイリス)「……なんで?……私が負ける……?……そしたらケイは……えっ?」
そんなアイリスの言葉に観客、特別席にいるシルファ達、ベンチのフィオナとタイガは静まりかえる。誰もがアイリスが精神的に普通じゃないことに気づいたからだ。そしてやっとの思いでアイリスは立ち上がる。それからケイのほうへゆっくり歩いていき、向かい合う。その時だった。ケイがサンセットホープズになった姿に見えたのだ。そのイメージは光輝いていた。
(ケイ)「……アイリス。決着をつけよう。」
時刻は18時。季節が冬ということもあり、もう既に夜空に変わり月の光が輝いていた。そしてケイが全身の肉体強化のエネルギア、ルーチェを解除する。
アイリスはそれを見てわかってしまった。ケイがこれから何をしようとしているのかを……
(アイリス)「……やめてよ。」
(ケイ)「……アイリス。今までありがとう……。おまえの部隊で過ごした日々本当に楽しかったよ。だけど俺は前に進むよ。サンセットホープズという道に……。」
ケイがアイリスを切ない表情で優しく見つめ、感謝の気持ちを伝えた時だった。ついにこらえていた想いが爆発した。
(アイリス)「やめてよぉぉーー!!」
アイリスは会場に響き渡るほどの声量でケイに叫ぶ。その目には涙が溢れかえっていた。
(シルファ)「……えっ?」
(アクア)「アイリス……。」
(フィオナ)「ど、どうしたっていうの……??」
会場にいる誰もが少しの動揺とともに再び静まりかえる。少しだけ離れた距離で対面する二人に注目が集まる。
(アイリス)「わかってたわよ!!!最初から!!あなたがいつかサンセットホープズにたどり着くことくらい!!」
(ケイ)「……!」
(アイリス)「それでも……それでも!!早すぎるじゃない!!もっとケイに私の部隊にいてほしかった!!なんで?なんでなのよ?!」
アイリスはもう止まらなかった。自分の本心のすべてをさらけ出す。
(アイリス)「……嫌だ……嫌だよ!私の側にいなさいよ!!!ケイ!!」
(ケイ)「……アイリス!俺は……!!」
ケイが何か言おうとしたがアイリスは遮る。そしてとうとう伝えてしまった。自分の想いを……
(アイリス)「好きなの!!!ケイが!!!誰よりも大好きなあなたとずっと……ずっと同じ部隊で一緒にいたい!!!だからいかないでよーー!!」
その瞬間、誰もが一瞬まるで時が止まったかのように感じた。特に特別席のシルファ、ベンチのフィオナは頭が真っ白になり、何も考えられなかった。
(シルファ)「……嘘……ですよね?」
(フィオナ)「……えっ?」
そんな中ケイは少し目をつぶった後アイリスをまっすぐ見つめ返事をする。
(ケイ)「……アイリス!!!聞いてくれ!!!たとえ俺がおまえの部隊を離れても俺達は同じ騎士という絆で繋がっている!!それは一緒に過ごしたかけがえのない日々が積み重なってできた絆だ!!そうだろ?!だから俺を信じて欲しい!!部隊が変わり離ればなれになったとしても俺とおまえには永遠の絆があるってことを!!」
(アイリス)「!!」
その言葉を聞き、アイリスは溢れていた涙を吹く。そして表情にはいつもの明るさが戻るのだった。
(アイリス)「……ケイ!!あなたの想い、受け取ったわ!そうね!!たとえあなたが勝ってサンセットホープズになり離れても私達には同じ騎士としての切れない絆がある!!だから私達の絆は部隊が変わったぐらいで揺らぐものじゃないわ!!」
(ケイ)「ああ!!その通りだ!!」
(アイリス)「最後の勝負よ!!あなたの本気に私は真っ向から打ち勝つ!!」
(ケイ)「俺も負けない!!アイリス!!」
ケイは集中する。その瞬間、ケイは全身が輝き始めた。その光はムーンアイランドに咲くヒマワリのように青白い輝きを放つ。そして背中にはその青白い輝きをもつ4枚の大きな三日月の形をした羽が生み出されたのだった。黒髪をそよ風になびかせ、青白く光輝くオーラはこの世の何よりも美しいものだった。その姿を初めて見たロイや観客は驚きの声をあげる。それもそのはずで2種類のエネルギアを持つ人間など見たことも聞いたこともなかったからだ。
(アイリス)「……やっぱりミカヅキの羽!!」
(ケイ)「……これが俺の切り札だ。……いくぞ。」
(アイリス)「きなさい!!」
アイリスは鞘におさめた剣に手を置く。そしてその時はきた。
(アイリス)「……必殺!満月切り!!」
アイリスはケイに向かって神速の居合い抜きを放つ。それに対してケイは神がかり的な反射神経でかわす。今度は先ほどとは違い余裕を持ってである。そして空振りに終わったアイリスの背後にミカヅキの羽で瞬間移動し、アイリスの頭に優しく手をのせるのだった。
(ケイ)「……アイリス。俺の勝ちだ。」
(アイリス)「……負けたわ。ケイ。あなたの勝ちよ。」
アイリスが負けを認め試合終了の合図の笛がなる。その信じられない光景に誰もが理解できなかった。
(司会)「な、なんとアイリス選手が降参を宣言しました!!ど、どういうことでしょう?!……なになに!……そ、それは凄い!ただいま特別席から連絡がありました!皆さん聞いて下さい!!ケイ選手のミカヅキの羽はどうやら相手のエネルギアを無効化したり、触れた相手のエネルギアを一定時間封印する力があるそうです!!よってアイリス選手は先ほど触れられたことで今エネルギアを発動できないようです!!」
その司会の説明に観客はどよめく。そして司会は改めて宣言するのだった。
(司会)「したがって結果は確定しました!!この試合!勝者はな、なんとケイ=リュウセイ選手ですーー!!私感動しました!こんなロマンチックな試合初めてみました!!観客の皆さん!彼らに盛大な拍手を!!」
司会の勝者宣言の後の盛り上がりは今日一番だった。
(アイリス)「……おめでと。ケイ……。あなたも今日から誇り高きサンセットホープズの一員よ。」
(ケイ)「ありがとう……!アイリス!」
(アイリス)「……ねぇ。この閉会式の後時間ある?夜ちょっと散歩しない?」
(ケイ)「……わかった。」
そんな会話をした後、ケイはベンチに戻る。タイガはケイが戻ってきてすぐに声をかけ抱きしめる。その顔は嬉し涙でぐちゃぐちゃだった。
(タイガ)「ケイぃぃー!信じてたぜ!おまえってやつは!とうとうたどり着きやがったぁぁーー!!サンセットホープズにぃぃーー!!」
(ケイ)「タイガ!い、痛い痛い!わかったから!!は、放してくれ!!」
(タイガ)「でもあのアイリスから公開告白されたのは許せねぇぇーー!!見せつけんじゃねぇぇーー!なんだよ!あんなロマンチックな告白、映画化できるぞ!!バカヤローー!!」
(ケイ)「おまえ喜んでんのか、怒ってるのかどっちなんだよ……。」
そんな中フィオナは静かに1人ごとを呟いていた。
(フィオナ)「ま、まさか……アイリスがケイに告白するなんて……あんな告白ズルいわよ……私が敵みたいじゃない。」
こうしてケイ対アイリスの試合はケイの勝利、ケイはサンセットホープズになることが確定したのだった。




