第26章「文化祭」
文化祭当日の午前、天気に恵まれアマネセル学園には沢山の来場者がきていた。そんな中1年C組は外の出店で唐揚げを売っていた。今はローテーションでケイ、フィオナ、タイガの3人の時間である。
(タイガ)「唐揚げいかがですかーー?!」
(フィオナ)「おいしいですよー!」
(ケイ)「……なかなか厳しい戦いになりそうだな。」
(フィオナ)「たしかに考えてみれば朝から唐揚げは重いかもね!」
(タイガ)「なんかいい案ないかーー?!そうだ!ケイ!お前ナンパしろ!!!今だけモテ期だろ!」
(ケイ)「絶対に嫌だ!あと今だけは何気に失礼だな!」
(フィオナ)「そ、そうよ!絶対ダメだからね!」
(ケイ)「なぁ!それよりも唐揚げの作り方変えていいか?ある材料でなんとかするからさ!あと普通の唐揚げじゃなくインパクトのある見た目にしなきゃだな。」
(タイガ)「お、おまえそんなことできんのか?」
(ケイ)「ああ!多分!趣味でよく作るんだ!料理!」
(フィオナ)「へ、へぇ……まぁダメもとでやってもいいかも知れないわね!」
そうしてケイオリジナル唐揚げを作り始めてから30分がすぎた頃、行列ができていた。
(フィオナ)「は、はい!唐揚げクレープ3つですね!かしこまりました!!」
(ケイ)「タイガ!その唐揚げに特製ソースかけて!」
(タイガ)「お、おう!!」
今ケイ達は唐揚げとクレープを融合させたものを作っている。クレープの生地にシャキシャキのレタス、そしてカリっとした唐揚げにオリジナルソースで味を大きく変えたのだ。匂いも食欲をそそり、持ち運びもしやすいため爆売れしたのだった。
(タイガ)「すげーぜ!ケイ!おまえの案!」
(ケイ)「じゃステージパフォーマンスなしでいいか?」
(フィオナ)「それはだめ!だけどこの料理は誉めてあげるわ!!」
こうして無事に唐揚げは順調に売れ、次の人たちに引き続ぐのだった。もう時刻は13時半である。
(フィオナ)「午前乗り切ったわね!」
(タイガ)「この時間からなら唐揚げは普通に売れるだろう!サンキューな!二人とも!この後だが俺は実行委員の仕事があるんだよな……フィオナは14時半からの体育館でミスコンだろ?ケイ1人だけど大丈夫か?」
(ケイ)「ああ!適当に1人でぶらぶらするさ!」
(フィオナ)「ケイ!私が優勝するとこ見にきなさいよね!!」
(ケイ)「おまえ意外と乗り気なんだな!」
(フィオナ)「や、やるからには勝ちたいじゃない!」
(ケイ)「まぁ見に行くよ!タイガも仕事頑張れよ!」
(タイガ)「おう!じゃいったん解散だな!」
そうしてケイはフィオナのミスコンまで時間をつぶすことになった。そんな彼が向かったのは学校の屋上だった。今日は文化祭ということもあり、誰もいなかった。
(ケイ)「人混みつかれたな。やっぱりここが落ち着く。」
そんな横になって休んでいた時だった。優しい美しい声で自分の名前が呼ばれたことに気がついた。
「ケ、ケイ……?」
振り返るとそこには顔を少し赤くしたシルファが立っていたのである。ケイはドキっとした。キスをした時のことを思い出す。
(ケイ)「シ、シルファ……!電話もあの後なかったし、なんか久しぶりだな……」
(シルファ)「そ、そうですね!そういえばいつもの二人は一緒じゃないんですか?」
(ケイ)「フィオナはすぐこの後のミスコンの準備、タイガは文化祭実行委員で仕事なんだ。それで1人でゆっくりしてたわけだ。」
(シルファ)「あの二人……そうなんですね。でも奇遇ですね。私は少し人混みに疲れてしまってここにきちゃいました。」
(ケイ)「はは!俺と同じだな!ここ風が気持ちよくていいよな。でもこのあとのミスコン見にいかなきゃなんだ……フィオナが見にこいってさ!そうだ!よかったら一緒いくか?人混みの少ないところで一緒にどうだ?」
(シルファ)「い、いいんですか?!是非一緒に行きたいです!」
(ケイ)「決まりだな!じゃ行くか!」
(シルファ)「はい!!」
時刻は14時半、とうとう待ちに待ったミスコンが始まった。各クラス代表の美人が女のプライドをかけて戦うこの舞台、体育館のステージはまだ誰もいないにも関わらずピリピリとした雰囲気だった。それは体育館のギャラリー席で人がほとんどいないところに座っていたケイとシルファにも感じれるほどだった。
(シルファ)「な、なんか!圧倒されますね!」
(ケイ)「そうだな!観客も盛り上がってるみたいだな!」
そうしてエントリーナンバー1番から進行が進んでいき、とうとうフィオナの番となる。
(司会)「エントリーナンバー7番!1年C組フィオナ=トキハさんです!」
そうしてステージの外から登場したフィオナは、純白のウェディングドレス姿だった。いつもの活発な明るい感じではなく、お淑やかで上品かつ柔らかさのある美しさに歓声があがる。
(シルファ)「フィオナさん……綺麗!!」
(ケイ)「フィオナ!なんかいつもの印象と違うな!綺麗だ!」
ケイがフィオナを褒めるとシルファは胸に痛みを感じた。その原因をシルファはわかっていた。嫉妬である。その結果シルファはケイの服を軽くつまみ、顔を赤くしながら目を反らして呟いた。
(シルファ)「あの時の気持ち……ずっと変わりませんから。」
ケイはその言葉を聞いて、ドキっとした。心臓の鼓動が早くなる。顔が赤くなりとてもシルファの顔を見れなかった。
(ケイ)「……て、照れるんだが。」
(シルファ)「じ、自分でも今の言葉、恥ずかしいです……」
そんな恥ずかしい会話をしていると結果が発表され始めた。司会の声が体育館に響き渡る。
(司会)「それでは結果発表いたします!今年度のアマネセル学園ミスコングランプリはこの人、フィオナ=トキハさんですー!」
おお!という歓声と共にフィオナは手をふっていた。幸いなことにケイとシルファがいたことには気がついていなかったようだ。
(ケイ)「ほ、本当に優勝しちまったな!あいつ!」
(シルファ)「そ、そうですね!すごいです!!」
(ケイ)「今度は俺の番だな……」
(シルファ)「えっ?!」
(ケイ)「ああ!シルファに言ってなかったな。俺このあとのステージパフォーマンスに参加するんだ。しかも大トリだぜ。笑っちゃうよな。ははは!」
(シルファ)「そ、そうなんですか?!みたいです!何パフォーマンスするんですか?!」
(ケイ)「ははは!それは内緒だ!ハードル上がるからあんまり期待しないでくれよ……。あ、そういえばシルファはこのあとどうする?」
(シルファ)「えっと……そうですね!とりあえず1年C組の皆さんに挨拶してきます!たしか唐揚げやってましたよね。少しお話したらステージ見にいきますね!」
(ケイ)「そうか!わかった!出店前まで送るよ!」
こうしてケイとシルファは体育館をあとにしたのだった。
シルファを出店まで送り、その後、外のステージに到着したケイはウルと合流していた。
(ウル)「ケイ!例のアレは練習してきたかい?」
(ケイ)「ああ!まぁな!期待していいぜ!」
(ウル)「了解!楽しみにしとくよ。」
時刻は17時半、まもなくステージパフォーマンスが開幕する時刻となった。そんな中シルファは出店前でみんなに挨拶をした後、ステージへ向かう途中ミスコンが終わり、戻ってきたフィオナとたまたま遭遇していた。
(シルファ)「フィオナさん!ミスコン優勝おめでとうございます!すごく綺麗でした!」
(フィオナ)「見てくださったんですね!ありがとうございます!姫様もステージパフォーマンス見にいくんですか?」
(シルファ)「はい!さきほどたまたまケイに会いまして教えてもらいました!」
(フィオナ)「あ、会ってたんですね!でもケイが何やるか誰もわからないのですが大丈夫ですか?しょーもないものかもしれませんよ?」
(シルファ)「ふふ!それはそれでちょっと見てみたいです!!」
ステージが見える広場についたが、とんでもない人の数だった。この人数の前で恥とか絶対嫌だ、そう思いながらフィオナはシルファの隣の席に座る。
(フィオナ)「この中でパフォーマンスとか絶対嫌だわ……」
(シルファ)「た、たしかに緊張しちゃいますね!これは……」
そしてとうとうステージパフォーマンスがはじまった。司会は聞き覚えのある声だった。
(タイガ)「さぁ!皆さんお待たせしました!ステージパフォーマンスの時間です!司会は私タイガ=シルバーがさせていただきます!皆さん!盛り上がっていきましょぉぉー!」
歓声が上がり、進行が進んでいく。今年のパフォーマンスはレベルが高かった。そのほとんどのはエネルギアを利用したものでオリジナリティーに溢れていた。
(シルファ)「わぁぁ!みんな凄いですね!フィオナさん!次で最後!ケイですよね!?」
(フィオナ)「そうですね!!ケイ大丈夫かしら……」
フィオナはケイがなんだかちょっと可哀想に思え、そう呟く。そんな中タイガがアナウンスする。
(タイガ)「皆さん!次で最後のパフォーマンスとなります!大トリを飾るのはこの人達!1年A組ウル=グレイシヤ選手と1年C組ケイ=リュウセイ選手です!一体どんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか?司会の私にもわかりません!それではカーテンオープン!!」
(フィオナ)「ケイとウルですって?!」
フィオナが驚いている中、ステージのカーテンが開いていく。そこで見たのは信じられない光景だった。ケイは黒いスーツにいつもおろした前髪をあげてきめている。そして手にはバイオリンを持っていた。意外にも落ち着いているようだった。一方ウルも同じく服装できまっていた。どうやらピアノを弾くらしい。そしてこのビジュアルのいい二人がいつもと違う姿をしていたことに女子の悲鳴が会場に響き渡る。フィオナとシルファもいつもと違うケイの姿に見とれていた。
(シルファ)「ケ、ケイ!!いつもと違うです!それにバ、バイオリン持ってます!フィオナさん!」
(フィオナ)「な、何よ!あいつきめちゃって!そ、それにバ、バイオリンできるなんて聞いてないわよ!ど、どうせショボい演奏で失敗するに決まってるわ!」
(タイガ)「な、なんとケイ選手とウル選手のパフォーマンスはバイオリンとピアノのようです。い、いったいどんなパフォーマンスが始まるのか楽しみです!」
日が完全に落ちたこの時間、夜空には満月と星が広がっていた。そんな中ケイとウルは観客に向けて話し始める。
(ウル)「皆さん!こんばんは!ウル=グレイシヤです!今日はケイとセッションで演奏させていただきます!よろしくお願いします!」
(ケイ)「今日演奏させていただく曲は『満月の彼方へ』という映画の主題歌です。それでは聞いて下さい『月の雫』。」
その曲名を聞いてシルファは目を見開いた。まさかという反応だった。
(シルファ)「『月の雫』、亡くなった母が一番好きだった曲……どうして……?」
(フィオナ)「……えっ?」
それから演奏が始まりシルファとフィオナは言葉を失っていた。ウルのピアノ、そしてケイのバイオリン演奏はプロ級の腕だった。他の出場者のとは次元が違うクオリティだった。優雅さかつ切なさを感じるさせるメロディー、そして真剣な横顔。その立ち振舞いから演奏まですべてが美しく幻想的だった。
(シルファ)「……美しいですね。」
そんなことを呟くシルファの横顔みて、フィオナは驚愕する。シルファの目には涙が溢れていた。そしてフィオナはその表情を見て気づいてしまった。シルファがケイに本気で恋をしていると。
ケイ達の演奏は無事にミスなく終わった。一瞬会場全体が静かになったが、それもつかの間だった。
(観客1)「す、スゴーい!!私感動しちゃったぁぁ!」
(観客2)「わ、私もぉ!感動して泣いちゃったじゃなーい!」
(観客3)「ち、ちくしょーー!おまえらぁぁー!なんでそんなにかっこいいんだよぉぉ?!」
(ウル)「どうやら大成功みたいだね!」
(ケイ)「ああ!ほっとしたよ。たまにはこういうの悪くないな。」
その後ケイ、ウルはしっかり最後にお辞儀をして、ステージから降りたのだった。一方タイガは司会に戻る。
(タイガ)「す、凄い感動的なパフォーマンスでした!ケイ選手、ウル選手ありがとうございました!そして以上をもちましてステージパフォーマンス全プログラム終了となります!皆さん!大きな拍手をお願いします!!」
拍手喝采がなりやまなかった。こうして無事にステージパフォーマンスは大成功で幕を閉じたのだった。
ステージパフォーマンスが終え、制服に着替えた彼が戻ってくるのがみえた。そんな中シルファとフィオナは少し緊張していた。気になる男の子のあんなかっこいいパフォーマンスをみたら当たり前だった。
(ケイ)「お!フィオナ!シ、姫様と一緒だったんだな。あとミスコン優勝おめでとう!すごいな!」
(フィオナ)「あ、あんたのほうが凄いじゃない……びっくりしたわよ!」
(シルファ)「あ、あの!私感動しました……!!ケイかっこよかったです!!」
(ケイ)「ありがとう、姫様!一週間死ぬ気で練習したかいがあったよ。ははは!そういえばタイガは?」
(フィオナ)「まだ仕事よ!実行委員はこの後、片付けの仕事もあるみたいよ。大変ね……」
(ケイ)「そうか。このあと打ち上げをまたどうかと思ったんだがな。」
(フィオナ)「え、いきたいわ!!この後いきましょうよ!姫様もいきませんか?楽しいですよ!タイガも呼べば後からくるはずよ!」
(シルファ)「わ、私ですか?いいんですか?」
(ケイ)「俺は大歓迎ですよ!姫様!」
(シルファ)「で、でしたら酒場というところに行ってみたいです!!」
(フィオナ)「かしこまりました!ケイ!夕陽処、4人で予約の電話してくれる?」
(ケイ)「ああ!個室頼んでみるよ!あとタイガにも連絡しとく!」
こうして3人は打ち上げにいくことになったのだった。




