第18章「激闘の果て」
ベスト4をかけた試合が今始まります。よろしくお願いします!
「さぁ!4回戦第3試合がまもなく始まろうとしています!一勝一敗で迎えたこの試合、勝った方がベスト4となります!それでは選手を紹介したいと思います!まずはチームグローリーよりウル=グレイシヤ選手です!1年生最強とも言われますがその力はいったいどれほどのものか楽しみです!それに迎え撃つのはチームネクサスよりケイ=リュウセイ選手です!ケイ選手は無名ながらもなんと2年生最強と名高いルナ=セレスティア選手を破っています!どちらが勝つか誰にもわからない一戦になりそうです!そして闘技フィールドも修理が終わり、両者の準備も整ったようですね!それでは試合を始めていきたいと思います!最終試合スタートです!」
会場が最高潮に盛り上がる中、司会はいつも以上に長い選手紹介をする。そしてとうとう始まりの合図が出されるのだった。
「この時を待ってたよ!行くぞ!ケイ!!」
「ああ!決着をつけるぞ!!ウル!!」
ウルは空中のわずかな水分を凍結していき、空中にエネルギアでできた鋭利な氷柱を無数に精製する。
「無限のつららか!!」
「インフィニティセリオン!!」
「だったらこっちは!!」
無数の氷柱がケイに向かって襲う。それに対してケイは両足にルーチェをまとい、上方に高く跳躍した。チームネクサス側のベンチでフィオナとタイガが叫ぶ。
「ケイ!!あんたの一撃をウルに見せてやりなさい!!」
「ケイ!!俺達に夢を見せてくれ!!」
まさかの大ジャンプにウルは警戒した表情で呟く。
「何をするつもりだ?!」
「今度はこっちの番だ!!いくぞ!!ウル!!貫け!!流星群ーー!!」
ケイは空中で体制を変え、逆さになりながら右拳を下に向ける。足を強化していたルーチェは今度は右腕に集まる。そして体をドリルのように旋回しながら尋常ではないスピードで地上にいるウルに向かって落下していく。
「な、何!?くっ!アイスシールド!!!」
ウルは上方に氷の楯を造形し、ケイの攻撃を防ごうと試みたが落下速度にエネルギアを込めたケイの一撃の破壊力は楯の防御力を上回った。
「ぐぁああー!!」
ベンチのフィオナとタイガはよくやったと言う声音でケイに声援を送る。
「やったわ!!勝てるわよーー!!ケイ!」
「その調子だぁぁーー!!ガンガン攻めろぉぉーー!!」
一方審査員席に座るロイとアイリスも今の一撃を見て、その感想を言う。
「空中からの落下速度まで加わった一撃だ!あれを完璧に防ぐことは難しいだろうな。」
「しかしあのケイって子、戦い慣れしてるわよね。どこで覚えたのかしら。」
しかしそんな一撃を喰らったにも関わらず、ウルは素早く立ち上がるのだった。まだまだこれからといった様子だ。
「さすがだね!ケイ!そうでなくては面白くない!ではこれはどうかな?!フロストバインド!!」
「くそっ!!足が氷っていく!!」
「さっき技を受けたとき空気中の水分を君の足にまとわせたのさ!これはお返しだ!ギガグラシエー!!」
エネルギアを帯びた巨大な氷河の塊がケイに直撃した。普通の人間なら一発で気絶する破壊力であった。
「ぐぁああー!!」
「ケ、ケイーー?!」
シルファが心配した様子でケイの名前を呼ぶ。そしてこれで決まりかと誰もが思ったが、そうはならなかった。ケイはゆっくり立ち上がる。
「……き、効いたぜ……」
「そうは見えないんだけど!」
今の攻撃を耐えたことにアイリスは驚きの声をあげる。普通から勝負が決まるであろう威力だったからだ。
「あ、あれに耐えた?!」
「なるほどな……!肉体強化のエネルギアを防御に利用し、ダメージを最小限に抑えたわけか。」
ロイが今の一連を分析した後、シルファ、タイガ、フィオナは精一杯の声援を送る。
「負けないで!!ケイなら絶対勝てます!!」
「いいぞ!!反撃だ!いけー!!」
「こんなピンチ、あんたは何度も乗り越えてきたはずよーー!勝ってーー!!ケイーー!!」
フィールドに立つケイはウルを見て心の中でさすがだと思いながら、笑顔を浮かべる。最高のライバルとの試合をまるで楽しんでいるかのように。
「ウル!やっぱり強いな!おまえ!だがな小細工では俺は倒せないぜ!真っ向から来い!いくぞ!黄金に輝けぇぇー!!ルミナスフィストぉぉー!」
「そうみたいだね!こっちも全力で迎え撃つ!!グラキアリスセイバーぁぁー!」
そう叫びながら、高速移動術でお互い接近し必殺技が何度もぶつかり合う。拳と剣の衝突で会場には衝撃音が伝わる。まさにインファイター同士の勝負である。10分にも及ぶ互角の打ち合いで流れを掴んだのはケイだった。頭上から降りかかる剣の太刀筋を完全に見切り、真剣白羽刃りを成功させたのだ。
「見切ったぁぁぁー!」
「な、何?!だが!両腕がふさがっている以上攻撃はできまい!!」
「それはどうかな!!ルミナスシュートぉぉー!」
ケイは右足にエネルギアをまてい、体をうまくひねりウルに凄まじい蹴りを入れる。激しいスピードで実技実習場の壁に衝突する。
「ぐはっっ!!」
チームネクサス側のベンチではフィオナとタイガがガッツポーズをしながら立ち上がる。
「ナイス判断よ!!ケイ!!」
「やったぜ!今のは効いたはずだ!まともにくらいやがったからな!」
他方のチームグローリー側のベンチでは、いつもは冷静なグレンとアランが珍しく熱くなっていた。
「まさか蹴りの攻撃もあるとはね!さすがに強いな!!ケイ!」
「ああ!今まで接近戦は拳での攻撃しか見たことがなかったからな!だまされたぜ!だがウルは負けん……覚悟が違うからな!」
足に震えがありながらも、ウルは笑みを浮かべながら立ち上がる。まだ何かある、そう直感で感じたケイはすぐにウルの次の行動に集中した。
「……この俺がここまで追い詰められるのはいつぶりだ?楽しいよ!ケイ!最高だ!こんな戦いを俺はずっと求めてた……」
「追い詰められてる割には負ける気はしない、そんな顔に俺にはみえるがな……」
あと一撃……そんなことを思いながらタイガとフィオナはケイに向かって叫ぶ。
「ウルのやつ!ふらふらだ!行けぇぇーー!!ケイーー!!」
「ケイ!あと一撃!!トドメよーー!!」
タイガとフィオナのフィールドまで響くケイへの声援をバックに集中するケイをウルは落ち着いた様子で見て、宣言する。
「……君の攻撃はもう当たらないよ。」
「なんだと?!」
「ブリザードフィールド!展開!!」
実技実習場に激しい吹雪が襲った。運営側は観客が巻き込まれないよう瞬時に特殊なエネルギアのバリアを生み出す。闘技フィールドは吹雪のフィールドに変わった。審査員席のサンセットホープズはウルの切り札を見て、各々声をあげる。
「何?!あれは?!ジョーカーわかる?!」
「すまんアイリス!!初めてみる技だ!!俺もわからない!、」
「……あの技!まさか!!もし俺の予想が正しければケイはやばい!」
ロイは目を見開き、そう呟く。何か知っている様子のロイにシルファは尋ねる。
「ロイ!あ、あれは何ですか?!」
「歴史書で読んで知っただけだが、氷の英雄が得意だった秘技と手順が似てるのです!」
ウルはケイを見つめる。その顔は勝利を確信した表情だった。
「……来る!」
「アブソリュートゼロワールド!!」
そうウルが叫んだ瞬間、ウルは無数の自身の姿の氷の人形を生み出す。そしてケイに襲いかかる。ケイは避けようと動こうとするが、体が言うことをきかなかった。
「な、何?!体が重い!!動かないだと!!なぜだ?!」
思うように体が動かないケイを見て、シルファ、タイガ、フィオナは動揺する。何が起こっているのか理解不能な現象に焦った表情で呟く。
「ど、どうして?!」
「フィオナっ!!ケイのやつどうしたっていうんだ!!」
「わ、わからないわ!!何がおきたっていうの……?」
一方チームグローリー側ではグレンが笑みを浮かべていた。ウルの勝ち、そんな自信のある笑みだった。
「あれを発動して、ウルが負ける姿は僕には想像できないかな……」
そしてウルは何が起こったのかケイに向かって伝える。
「この世界の中では君のように氷の耐性がない人間は運動能力が低下していき、やがてゼロになる。まるで時が止まったかのように……行け!分身ども!切り裂け!グラキアリスセイバーぁぁーー!」
「がぁぁぁぁー!!」
ケイはウルが生み出した分身の一撃を何度も喰らう。ケイの意識が徐々に薄れていき悲鳴すらもうでなくなっていた。やっと解放されたがもう立つ体力はなかった。
「どうやら俺の勝ちのようだね。」
審査員席でもウルの勝ちだと確信していた。英雄の技を使える学生などみたことがなかったからだ。アクアとジョーカーはウルを見て言う。
「英雄の技ですって?!まだ16歳で!」
「アイツは天才だな。格が違う。」
「ケイ……ここまでなのか。」
最後のロイの言うとおり、会場にいる観客もケイの勝利は絶望的だと感じていた。しかしそんな中、希望を捨てなかったものが3人だけいた。フィオナ、タイガ、そしてシルファである。気づけば3人は立ちあがり叫んでいた。
「ケイ!あきらめんなぁぁぁーー!!俺たちがついているぞぉぉーー!」
「あんたがこれまでしてきた努力は決して無駄じゃない!!あんたの頑張りを他の人が認めなくても私だけは認めるわ!だから勝ちなさい!!ケイーー!!!」
「ケイ!あの時、約束してくれたこと本当に嬉しかったです!……だから私はあなたに騎士になるという夢を叶えてほしいです!!……だから、だから!勝ってーー!!ケイーーー!!!」
ケイは意識朦朧の中、ゆっくり立ち上がる。そして感謝の気持ちを伝えた。
「……みんな……!ありがと。みんなの声援がなかったら俺あきらめてた……でも目が覚めたよ。俺はあきらめない。フィオナ、タイガ、そして姫様のためにも俺は……俺は負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁーー!!」
ケイの中で力が溢れた。これまでにないくらいに。その輝きは1回戦の時以上だった。溢れたエネルギアを一気に爆発させ、全身に黄金のオーラをまとう。太陽の光のように輝く赤い髪をゆらめかせながら。その姿は美しく神秘的だった。
「この輝き……!一回戦の時の比ではない!なんだ?!この力は!!」
目の前のケイの異常なエネルギアの高まり、ウルは恐怖を覚える。そしてシルファ、フィオナ、タイガは各々ケイの名を呼んだ後、同時に叫ぶ。
『行けぇぇー!!!』
ケイはそんな声援を受け取り、溢れる力を爆発させウルに宣言する。
「うぉぉぉーー!!いくぞ!ウル!!」
「!!」
ケイはアブソリュートゼロワールドの影響をルーチェのオーラで打ち消し、高速移動術と足腰へのエネルギア強化を組み合わせ、瞬間移動を起こす。無数の氷の人形を一瞬で粉々にしていく。残りは本体のウルだけである。
「ば、バカな!!強引にアブソリュートゼロワールドの影響を自身の膨大なエネルギアで跳ね返しただとぉぉ!?」
「俺だけじゃねぇぇー!みんなの想いを背負ってんだ!これはフィオナ、タイガ、そして姫様の3人の想いが乗った一撃だ!いくぞぉぉー!キングダムフィストぉぉぉーーー!!」
ケイは瞬間移動を決め、ウルの腹部に3人の想いがこもった一撃を決めたのだった。そしてウルはもう意識がないにも関わらず、実技実習場の壁にとんでもないスピードで直撃したのだった。あまりの破壊力で闘技フィールドは原型をとどめておらず、実技実習場の壁は半壊していた。少しの沈黙の後、司会は勝者の名をアナウンスする。
「き、き、決まりましたぁぁぁーー!!なんと、なんとケイ選手!大逆転勝利です!!2年生最強のルナ選手だけでなく1年生最強のウル選手にも勝ちましたぁぁぁーー!!これでチームネクサス!!ベスト4進出ですーー!!」
観客席では大喝采と共に、拍手で溢れ変える。
「すげえぞ!!チームネクサス!」
「最後まであきらめない姿に感動したわ!」
「ケイ!ウル!どっちもかっこいいわよーー!」
そんな観客席からの沢山の賞賛の声が会場に響きわたる中、ベンチではフィオナとタイガは感動で涙を流してた。
「ケ、ケイがあのウルにかったのよね!ねえ!タイガ!!」
「あ、ああ!勝っちまった!!俺感動で涙止まらないぜ!」
それからふらふらになりながらベンチへ歩いてくるケイをフィオナとタイガは走って迎え3人で抱き合う。
「……勝ったぜ……なぁフィオナ、タイガ。」
「ケ、ケイ……!わぁぁーん」
「フィオナ、泣くなよーー!ケイ!相変わらず無茶しやがって!でも俺たちはおまえを信じてたぞ!」
「ああ……フィオナ、タイガ、そして姫様の声が最後力になって勝てたよ。ありが……」
そういってケイは気絶したのだった。そして審査員席から3人が抱き合う光景をみていたサンセットホープズはつぶやく。
「……尊いものだな。あの光景は。」
「……ロイ、やめて。下品なことばかり言ってた自分が惨めになるわ。」
「ケイってやつなんであの力をだせたんだろうな。あとタイガってやつもそうだった。」
最後のジョーカーの疑問にずっと静かだったゼファーがアイリスの方をみて言う。
「……想いが力に変わるか……似てないか?アイリスに。」
「……光系統のエネルギアね……」
アイリスの答えにロイとアクアは反応する。
「ま、まさか!おまえと同じあの?!」
「そう。歴史に名を残した英雄はだいたい光系統だわ。私のと少し違う光系統だけど、あの神秘的なオーラ間違いないわ。」
「それも二人ね。一億人に一人と言われるのに。」
「スカウトだけどチームネクサスは私が面倒みてもいいかしら。」
そんな会話をしているのをシルファは全く聞いていなかった。3人が抱き合い泣いて喜ぶ姿から目が話せなかった。そして素直に羨ましいと思った。自分もあの輪に入りたい、そんな感情を生まれてはじめて持ったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!次もお楽しみにしてて下さい。