第16章「熱戦の幕開け」
「これでトドメだー!!はあああー!」
タイガは初戦の試合で負けたことを全く気にしていなかった。そしてケイが一回戦で力を使い果たし絶対絶命の中、チームネクサスは奮闘するのだった。苦戦はあったものの、タイガとフィオナの2人だけで2、3回戦を勝ち抜いたのだった。
「よし!タイガも勝ったわ!これで4回戦進出よ!」
「よっしゃぁぁー!姫様とイチャイチャしてる奴には負けねーぜ、オラぁー!!」
「だ、だからイチャイチャしてないって…まぁとりあえず今でベスト8か!どうやら1年生チームで残ったのは俺らとチームグローリーだけのようだな。」
「そうね!次はいよいよチームグローリーね!控え室でオーダー決めましょ!」
彼らは控え室に戻り、ランチを食べながら次の作戦会議を始めた。最初に切り出したのはフィオナである。
「私1番でいかせて欲しいのだけどいいかしら?さっきタイガは戦ったばかりで少し疲れているはずよ。」
「じゃ俺は2番でいいか?俺の今の力じゃウルに勝つのはきつい!フィオナ!ケイが3番でいいか?」
「そうね!私もこの順番に賛成よ!ケイ最後頼んだわよ!」
「ああ!休ませてもらった分、最後は任せてくれ!」
「これで決まりね!次もう試合ね!闘技フィールドへ向かいましょ!」
「おう!しかしはえーな!30分前に戦ったっていうのによー!」
「もう8チームしか残ってないからな…ローテーションも早くなるさ。フィオナ!タイガ!とりあえず絶対次勝とうぜ!」
実技実習場へ入ると、観客席は異様に盛り上がった。1年最強のチームグローリーと快進撃を続ける今大会ダークホースのチームネクサスの一戦だ。注目をされて当然だ。そしてベンチにケイとタイガが座る一方でフィオナは慣れた足取りで闘技フィールドに立った。対戦相手はグレンのようだ。
「やっぱりグレン=マックス!あなたのようね!」
「フィオナ=トキハか!こっちの予想ではタイガだったんだけどね!まぁ関係ないさ!勝つのは僕さ!」
両者向かい合い、挨拶が終わったところで司会は試合開始のアナウンスをする。
「4回戦第1試合、両者準備が整ったようです!これで勝てばベスト4へリーチとなる一戦です!それでは試合スタートです!」
今回は水平に広がる草原フィールドだった。先手を仕掛けたのはグレンだった。グレンは空中の空気をまるで蹴るかのように上空へ上昇した。
「飛んだ?!」
「僕は空気を操る力を持っている!これは空気を蹴って飛んでいるのさ!いくよ!エアシュート!!」
グレンは空気を圧縮し球状に形を変え、それを足で蹴を入れたのだった。とんでもないスピードで上空からの空気弾が、フィオナを襲う。
「くっ!こっちも反撃よ!!エクレールアロー!!」
電撃をまとった矢が上空からふりかかる空気弾に見事に命中して爆発が起きた。その攻防が5分ほどつづいた。
「全部ドンピシャであてるとはやるね!これだけじゃ決まらなそうだね。」
「命中率には自信あるの。だけどまずはあの飛行能力を止めなければ勝ち目なさそうね!空気の流れを乱せば、コントロールを失うはず!」
苦戦するフィオナにベンチにいるケイはアドバイスを送る。フィオナに絶対勝ってほしい、そんな必死な声だった。
「フィオナ!!フィールドだ!タイガを思い出せ!」
その助言でフィオナは辺りを見渡す。そして何か閃いたかのように呟く。
「…なるほど!!いいアドバイスね!ケイ!おかげでいいこと思いついたわ!唸れ!!エクレールアロー!!」
そうしてフィオナは地面に向けて矢を放つ。激しい爆音とともに砂や岩が空中に舞う。その結果空気に乱れが生じグレンは地上に落下したのだった。
「何っ!ぐわぁぁ!」
「どんどんいくわよ!エクレールアロー3連弾!!」
「くっ!」
グレンはなんとか避けたが、大ダメージを与えたのだった。しかしまだ笑みを浮かべていた。グレンはフィオナを真っ直ぐみて宣言する。
「い、今ので決めたかったね!今度はこちらからいかせてもらう。」
グレンは目の前の空気を握り、思いっきり自分のほうへ引っ張ったのだ。すると空気の流れができ、フィオナはグレンに向かって飛ばされていったのだった。それを見てベンチのタイガは叫ぶ。
「ヤバい!フィオナ逃げろーー!!」
逃げようとするフィオナだったが、体勢バランスを崩れた状態だったため、グレンへ引き寄せられていく。
「行くぞ!エアスラッシュ3連弾!!」
「きゃゃゃー!」
今度は空気の斬撃がフィオナに3連続で炸裂し、形勢逆転だった。それでもフィオナはゆっくり立ち上がった。
「そ…んな使い方もできるのね。」
ボロボロになりながらも立ち上がるフィオナをみてケイは心配した表情で声援を送る。
「フ、フィオナ大丈夫か!?なんとかしろぉー!!」
ケイの声を聞き、フィオナは考える。どうすれば目の前の強敵を倒せるかと。
「これで終わりかい?早いけどこの勝負、僕の勝ちのようだね。」
「……それはどうかしらね!」
そしてフィオナは弓に矢をこめる。それを見たグレンはまたしても余裕の表情をみせた。
「何をするかと思えば、さっきと変わらないじゃないか!それじゃ僕には当たらないよ!」
「……」
今までは矢にのみ込めていたエネルギアを今度は弓と矢に両方にこめる。さっきより力強さを感じられた。そしてフィオナは叫ぶ。
「いくわよ!!これが私の切り札よ!ターミガンアローぉぉ!」
矢を放つとグレンに凄まじい威力で矢が襲ったが、グレンは回避できた。
「たしかに威力は凄いね!でも攻撃は直線的だ!回避は簡単…な、何?!?!」
たしかにグレンは回避したはずだった。しかし先ほどの矢が背後から再び襲いかかる。まるで雷を帯びた鳥のようにグレンを追跡する。
「なんだ!?あれ!!!」
初めてみる技にタイガは驚きの声をあげる。
「逃げても無駄よ!!この矢は対象を無限に追跡するわ!」
矢とグレンの距離が徐々に縮まり、とうとう命中するのだった。
「がぁぁあ!!」
グレンに直撃したことに、ベンチのケイは喜びの声をあげる。これでフィオナの勝ちだ、そんな気持ちだった。
「直撃!!やった!フィオナの勝ちだ!」
「わ…私の勝ちね!」
グレンに矢が命中し膝をつく。だが意識はまだあるようだ。グレンは膝を震わせながら、なんとか立ち上がった。審査員席に座るサンセットホープズのメンバーはそのグレンのあきらめない姿に感心する。ロイは静かに呟く。
「いやまだだ…!」
「あの精神力!タフだな!ロイの言う通りまだわからないぜ!この試合!」
「へぇ……いつものジョーカーなら決まったとかいいそうなのにね!それにしてもー!彼もハンサムねー!!」
最後にアクアがふざけたコメントをしたが、誰も聞いていなかった。シルファとサンセットホープズの視線はフィールドの二人に集まっていた。
「ま、まだだぁー!!僕は勝つんだぁ!!」
そんな中グレンは空気を操り、巨大な竜巻を生み出す。どうやらこの技が切り札のようだ。
「これが僕のとっておき!サイクロンスマッシュだぁぁ!!」
「何ですって?!くっ!さっきので足が!!逃げられない?!きゃあああー!!」
疲れが限界に達していたフィオナは避けることができなかった。竜巻にのまれた瞬間、フィオナはとんでもない高さまでとばされ、落下してくる。墜落した後、フィオナは意識朦朧で自力では立てなかった。
「決着ぅーー!4回戦第1試合!グレン選手大逆転勝利です!!!素晴らしい試合でした!」
自分の勝利を確認し、グレンはホッとする。ギリギリの勝利にまさかこれほど苦戦するとはと思うのだった。
「か、勝った…」
チームグローリーのベンチではアランとウルがグレンよくやったといった表情をしながら勝利の味をかみしめていた。
「…よし!!」
「この1勝は大きいな!」
一方チームネクサスは倒れたフィオナを心配して迎えにいく。
「フィオナぁ!!タイガ!フィオナを運ぶぞ!」
「ああ!!」
それから肩を借りながらフィオナはベンチへ戻っていく。
「ケイ、タイガ!ご…ごめん。わ、私が足引っ張っちゃった。私のせいで!!ごめんね…!!」
ベンチに座るとフィオナはこらえていた涙が止まらなかった。それからすぐ涙をみられたくないのか隣に座るケイの胸に頭をうずめるのであった。そんな中ケイはフィオナの頭を撫でながら言いたいことを伝えた。
「フィオナ…おまえはリーダーとしてここまでよく引っ張ってくれたよ!おまえがいなかったらそもそもここに立ててないから本当に感謝してるんだぜ!だから今の戦いは気にすんな。元気だせ。俺とタイガがおまえの分まで勝ってくるから!」
「…うん。ありがと…」
「タイガ!次はおまえだな!勝つぞ!」
「ああ!死んでも負けねーよ!」
タイガの目が真剣な目つきに変わり、闘技フィールドへ向かう。さっきまでと明らかに必死さが違った。
「よう…アラン。悪いんだけどよ。今日だけは絶対勝たせてもらうぞ。女の涙を見ちまったからな。」
「…ふんっ!やってみるんだな。」
両者の準備が完了し、司会は試合開始のアナウンスをする。
「両者準備ができたみたいですね!それでは4回戦第2試合スタートです!」
こうしてタイガとアランの戦いの幕が開けたのだった。




