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第10章「サプライズ」

エネルギアチャンピオンシップまで残り一週間となった今日のケイのクラスの朝のホームルームはいつもの担任ではなく、ロイの号令で始まった。今日はエネルギア実技実習の授業はなく、午前で授業は終わる日である。それにも関わらずロイがホームルームとは珍しい、そしてピリピリした雰囲気だとみんな感じていた。そんな中フィオナは隣のケイに小さな声でささやいた。


「ケイ…今日なんか変じゃない?」

「たしかに…なんでホームルームがロイ?」


そして大体の連絡事項を話すと、ロイは最後にと話を切り出した。


「…最後にだが、今日は特別な日だ。あそこに余った机とイスがあるな。ケイ!おまえ、そこ机とイスを自分の席の後ろのスペースに置け!」

「は?まぁわかりました。」


そうケイが返事をした後、クラスメイト達も反応する。


「え、何だ?転校生だと?!この時期に?!」

「何何!?イケメンかしら!」

「いや絶対かわいいこだろ!!」


そんな騒ぐクラスメイトにロイは真剣な表情で静かにするように命令する。


「静粛に!いいか?今日1日だけだが、授業に参加することになった方がいらっしゃってる。体験授業ってやつだ。最後に言わせてもらう。おまえら絶対騒ぐなよ!いいな!それではどうぞお入りください。」


ロイはそう言うと、ケイのよく知る人物が教室に入ってきた。白いワンピースに金髪のポニーテール、そしてトレードマークの麦わら帽子を手に持った、シルファがそこにいた。


「はじめまして!シルファ=トラモントです。サプライズできちゃいました。今日1日仲良くしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします!!」


ペコッとお辞儀した瞬間、まるで世界が一瞬止まったかのような空気となった。だがこれは現実だとわかった途端、クラスはまるで賑やかな動物園であるかのように悲鳴のような声がとびかった。


「シル……姫様?!なんでここに?!?!」

「ひ、ひ、姫様ぁぁああーー!?!?!!」

「なぁああー?!?!」

「俺生きててよかったぁああ!!」

「超超超ぉーー!可愛いぃーー!」

「もう俺死んでもいいや!!」


ある生徒は泣き、違う生徒は気絶していた。そんな

空気の中、ロイは大声で再び静かにするように命令する。


「おまえら静かにしろ!!姫様の目の前でみっともない真似すんじゃねー!!今日は1限がエネルギア理論、2限はエネルギア歴史、3限エネルギア科学、4限は美術だな?姫様、それではあの空いている席にお座り下さい。」

「は、はい!」


シルファは返事をして、窓際の一番後ろのケイの後ろの席に座る。最後にロイは忠告を伝えた。


「一応忠告しておくが、特に野郎ども!よく聞け!万が一姫様が嫌がることをしたらどうなるかはわかってるよな?!?サンセットホープズ全員でおまえら1人残さず殺しにいくだろうから覚えておけよ。それさえ守れば、俺からは特にこれ以上いうことはない。姫様をよろしく頼む。よし!解散!」


朝のホームが終わり、シルファの周りには人が群がっていた。噂を聞き付けた他のクラスの生徒まで、一目見ようと教室に入ってきた。しかし幸いなことに朝のホームルームが長引いたため、すぐ後に一限の始まるチャイムがなり、生徒は戻っていった。


「ふふ!よろしくお願いしますね!ケイ!」

「とんでもないことになったな…姫様、学校では敬語で話させていただきますからね。」


そうして1限、2限、3限と授業が進んでいった。いつもケイは座学の授業は寝るのだが、今日は緊張でそれどころではなかった。姫様が後ろの席に座っているとかどんな状況だよ、そう感じてたのはケイだけではなかった。フィオナは故障した機械のように固まっていた。そんな中シルファは先生から当てられた質問にスマートにすらすら答えていく。さすが姫様だけあって、教養面は完璧のようだ。それから3限の授業も無事終わり、最後は美術室に移動である。授業後の休憩時間にパニックになったことをケイは思い出し、フィオナ、タイガ、そして何人かのクラスメイトに呼びかけ、一緒に美術室に行くことになった。そしてなんとか美術室に到着したのだった。席は移動教室でも一緒のため、またシルファの前の席である。美術の授業が始まり、先生は指示を出す。


「今日のテーマだが、美しい景色だ。それを絵で表現してくれ。まぁ作品の回収とか特にないから自由に描いてくれ。」


課題がわかり、ケイは呟く。


「美しい景色…」


そんな悩むケイの姿にシルファとフィオナは気になるのだった。


「あ、あの……ケイは何を描くのでしょうか?」

「内緒です。だけど、絵は趣味でよく描いてるので得意ですよ。」

「意外な特技よね。あんたが絵上手いなんて。」

「フィオナの絵も期待して下さい!姫様!色んな意味でですが!」

「な!ケイ!ちょっとそれどういう意味?!」

「さぁな!そうだ!姫様!この3人でよかったらだれが一番うまいか勝負しませんか?作品が完成するまではお互い覗くのなしで!いかがですか?」

「ふふふ!いいですね!楽しみにしてますね!ケイ、フィオナ!」

「み、みてなさい!ケイ!」


シルファに慣れてきたのかフィオナも緊張がほぐれ、少しずつ話せるようになってきた。遠く離れた席にいるタイガが悔しそうな顔をしているのは気のせいだろう。それから三人は作品を完成させ、勝負するのだった。


「ケイ!私は完成したわ!自信作よ!」

「俺も今できたところだ!姫様はいかがですか?」

「私ももうできました!大丈夫です!」

「じゃみせ合いましょ!まずは私から行かせて下さい、姫様!ケイ、見なさい!これが芸術というものよ!」


フィオナは自信満々に二人に作品をみせたが、ケイは何の絵なのか全く理解できなかった。とりあえず青と黄色、緑で表現した芸術(?)のようだ。


「…な、なんかの食い物か?あ、アイスクリームだろ?俺もアイス好きだぜ!」

「おバカーー!!ムーンアイランドよ!トラモント王国からでもみえるでしょうが!あの小さい不思議な島の!」


ムーンアイランド、それは立ち入り禁止の神秘的な島だ。トラモント王国からでも晴れた日はみることはできる。しかし不思議な力をもった住人がいるとか、一度島に踏み入れたら戻ってきたものはいないなどの噂があるため誰も近づこうとしない。ケイはボソっと呟く。


「…ムーンアイランドか。」

「ケイ?どうかしましたか?」

「いえ!なんでもありませんよ。」

「これが月と海、島なのわかるでしょうが!ケイは芸術というものがわかっていないわね。」

「まじでフィオナにだけは言われたくねーよ!」

「ふふふ!私はこの絵すきですよ!!神秘的で!」

「ずるいですよ!姫様!絶対思ってないですよね?」


ケイがそんなことをシルファに言った後、今度はシルファの作品の発表になるのだった。フィオナはシルファに尋ねる。


「次は姫様の作品を拝見してもよろしいでしょうか?」

「はい!あまり自信ありませんが、これが私の絵です!」


そう言って姫様が2人に見せた作品はカーラ橋から見た夕陽と美しい海を描いた風景だった。まさにそれは芸術だった。フィオナは驚きのあまり、言葉が何もでてこなかった。そんな中ケイが予想外の一言を口にした。


「…こんな偶然あるんだな。」

『え?』


シルファとフィオナは同時に驚きの声をあげる。


「ほら。これが俺の絵だ。」


そう言ってケイが見せたのはシルファと同じくカーラ橋から見える夕陽と美しい海を描いた作品だった。シルファに負けじと劣らずプロ級の作品である。ただし一点だけ違う箇所がある。シルファはまさかと思いケイに確認する。


「あ、あの!この橋の上で笑っている人、もしかして…!!」

「はい!」


ケイはカーラ橋で笑う美しい少女を描いていた。麦わら帽子に白いワンピース、長い金髪のポニーテールが特徴のその少女はまさにシルファその人だった。フィオナは顔を赤くしてケイに怒りをぶつける。


「ケ、ケイ!!あ、あんたね~!!!」

「カーラ橋で初めてお会いした時の姫様です。自分の記憶に基づいてるので想像に近いかもしれませんが。」

「嬉しいです……あ、あの!これ後で頂けませんか?!」

「はい!もちろんいいですよ!」

「た、宝物にしますね!」

「わ、私を無視すんなー!!」



なぜかフィオナはぶち切れていたが、その理由がケイにはわからなかった。ケイは姫様が喜んでくれたからとりあえずよしとしようそう思ったのだった。

それから4限の美術が無事終わり、帰りのホームルームの時間となる。ロイはクラスのみんなに感謝の言葉を伝える。


「今日は大きな問題も特になく、1日を無事に終えることができた。感謝する。最後に姫様、何か一言、彼らにメッセージをお願いできますか?」

「はい…今日は1日皆さんが本当に優しく接して下さったおかげで、人生で最初で最後の学校生活を楽しく過ごすことができました。この1日は私にとって…私にとって本当にかけがえのないものとなりました。本当に…です…あれ?涙がとまりません…」


どうして切ない気持ちになったのか、シルファは気づく。クラスメイトと別れるのが寂しかったのだ。そんな中、涙が自然と溢れていた。そのシルファを見てクラスメイト達は声をかける。


「姫様!私も楽しかったですよー!」

「また学校遊びに来て下さい!!」

「今度は一緒に放課後遊びましょ!」

「姫様ぁ!今度勉強教えて下さい!」 

「姫様ぁぁ!今度は是非とも僕とデー…」

「おい!タイガ!いわせねーよ!?」

「今度は姫様より上手な絵を書いてみせます!」


シルファはその言葉に感動し目を見開く。そして最後に笑顔でクラスメイト達に感謝の言葉を伝える。


「皆さん…はい!!いつかまた皆さんにお会いできることを楽しみにしてます!!今日は本当にありがとうございました!」


美しい涙を流しながらも今日1日の中で最高の笑顔でシルファはお別れの挨拶をしたのだった。


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