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真夜中の打ち上げ

あまりに暑いので休み休み書いてます。

俺も夏休み取ろうかな?

満腹亭に着いたときには、夜10時半を過ぎていた。

店ののれんは既に仕舞われていた。

でも、まだ店に明かりが灯っている。

ガゼットさんが一人で後片付けをしているんだろうか?

「お疲れ様です」

ガラガラと戸を開ける

「おう、おかえり」

カウンターの中にいたガゼットさんが、鋭い角を振り上げ俺を見た。さすがドラゴン族、隙がない。

「晩飯食べたのか?」

晩飯?そうか、まだ食べていなかった。

ブロンズクラス勉強会の後に打ち上げがあると聞いていたので、昼飯を食べたきり何も食べてない。結局その打ち上げも面倒事に巻き込まれそうだったのでドタキャンしてきた。

「何も食べてないんですよ」

「お茶漬けぐらいだったら、すぐに作ってやるぜ」

「ありがとうございます」

満腹亭に来て、ホっとしたのか、腹の虫がグーと鳴った。

カウンターに座ろうと近づくと奥に突っ伏していた塊がモゾリと動いた。

頭の上に輪っかがくるくる回っている。

酒で濁った赤い目で、俺をにらむと

「どうだったんだよ、勉強会は?」

パスタ亭そば吉がなんでいるの?


すると、ガゼットさんが

「小鬼が心配だから、帰ってくるまでここにいる」って言い張って、結局は酔っ払って寝ちゃったんだよ」

痛い子を見るようにそば吉を見つめる。

「別に心配じゃねーよ。でもヤングの野郎にいじめられて、泣きながら帰ってきたら慰めてやろうかと思ってさ」

「兄さん、優しいですね」

「優しくなんかねーよ。ただ、どんな具合だったか知りたくてよ」

興味なさそうに空になった。グラスを見ると

「もう1杯焼酎おかわりちょうだい」

「ずいぶん飲んでるんだから、もうやめときな」

「たいして飲んじゃいねえよ、お願いだから、もう1杯」

「しょうがねぇなぁ」

空のグラスをカウンターから取り上げると氷を入れて焼酎と水を注ぐ。

「ほら、あんまり飲み過ぎるなよ」

カウンターに置かれたグラスを一気に半分ほど飲むと

「それで小鬼、何だったんだ?」

「まぁまぁ小鬼も腹が減っているんだから、少しは食わせてやれよ」

丼に飯をよそい、ほぐした焼き鮭と手で揉んだのをたっぷりとかけ、上にわさびを乗せてお湯を注ぐ。

「さぁ、食べな。熱いから気をつけてな」

俺は湯気を立てている丼に両手を合わせた。

「ありがとうございます。いただきます」

箸を手に取ると丼を掻き込んだ。

脂が乗った鮭のしょっぱさが、わさびのツンとくる辛さと、混じり合い食べれば食べるほど腹が減る。

「あぁ、めちゃくちゃうまいです」

「そんなに急いで食うと火傷するぞ」

ガゼットさんが瓶ビールの栓を抜き、コップに注いで、俺の前に置いてくれた。

「ゆっくり食いな、夜は長いんだ」


あっという間にお茶漬けを食べ終わり、コップのビールを一気に飲み干す。

「フー落ち着きました…」

「落ち着いたら教えてくれよ。ブロンズクラス勉強会何位だったんだよ?」

さっきからジレていたそば吉がすかさず聞いてきた。

「…… 2位でした」

「ええ、だってお前が1番下だろ。1位はきっとヤングだけど、2位は人気急上昇のおこんじゃないのかよ」

「確かにおこん姉さんもすごく受けてましたけど、わずかの差で、俺が2位に滑り込んだんです」

わずかな差じゃなかったけどね。

圧倒的な差で、おこんに勝ち、わずかな差で、ヤングに負けたなんて言ったら、そば吉の嫉妬の炎に油を差す事になっちまう。

「勝負は、時の運ってか?」

半分残っていた焼酎を一気に飲み干す。

「お代わり」

「おいおい、もうやめときなよ」

「何言ってんのよ、小鬼がはじめての勉強会で2位だぜ。祝杯あげてあげなきゃ。」

別にあげて欲しくないんですけど…。

「どうせ1位はヤングだろう。あいつ何やったんだ」

「イクイク太夫やりましたよ」

「けぇ、あいつの得意ネタじゃねーか。それでお前何やった?」

「自分で作った新作やりました」

「新作?何番目に上がったんだよ」

「それが1番最後です」

「はあ?お前がトリ?1番の下っ端が?」

納得いかないと首を振る、そば吉。

お前だってブロンズクラス勉強会出た事あるだろ?

「順番はくじ引きって知ってるでしょ?」

「そりゃ知ってるけど、よりによってお前がトリとはな…」

なんか、こいつ、無性に腹が立つ。

「それでお前の新作受けたのかよ?」

「ええ、いいお客さんだったんで、受けました」

「けぇ、客に感謝するんだな」

そう言うと、そば吉が自分の席を立って、俺の隣に座る。

そして、俺の肩に手を回して

「でも、最後にお前の新作が受けて2番目だろう?ヤングのやつ面白くなかったんじゃねーのか」

俺の目を覗き込むようにそば吉がニヤニヤしながら見つめる。

「僕が終わって、楽屋に戻ると『新作なんて邪道だ』って言われました」

「邪道?ははは、そりゃいいや。ヤングのやつ、よっぽど腹が立ったんだろうな」

うれしそうに焼酎を飲む。

「あいつは、自分より受けたりすると、絶対嫌味を言うのさ。俺もそれでよく絡まれたぜ」

まるで俺とお前は同期の桜と言わんばかりに、俺の背中を手で叩く。

酔っ払ってるから痛いんだよ、この堕天使。

「それでどうなったんだよ?」

「打ち上げに行こうとしつこく誘われました」

「ははーん、酔って、またお前に絡もうってんだな。ほんとにあの悪魔野郎はしつこいんだ」

そう言って、また俺の背中を手で叩く。

おいおい、悪魔だけじゃなくて、お前もしつこいよ。

「それで断ったのかよ?」

「どうしたものかと困っていたら、パラミさんが助けてくれて帰る事ができたんです」

「え、パラミさん?落語ギルドの事務員じゃねーか?そうか、パラミさんがね……でも小鬼、勘違いするなよ、パラミは俺に惚れてるからな」

この堕天使の頭の中は、お花畑で埋まっているのだろうか?


「でもよ、はじめての勉強会で2番目ってすごいじゃねーか」

ガゼットさんもカウンターから出てきて、俺の隣に座る。

手に持ったビール瓶を持ち上げて

「さぁ、飲みなよ。今日は俺のおごりだ」

「ありがとうございます」

コップに波波とビールが注がれる。


「ありがとうございます」

そう言うと、そば吉が空になったグラスを俺のコップの横に置く。

「おい、お前は奢りじゃねーからな」

ドラゴンの目つきが厳しくなる。

「そんな事言わないで、ビールぐらいご馳走してくださいよ」

急に、媚を売った口調でお願いするそば吉。

「仕事がなくて、金がないんですよ」

「言っとくけど、つけは効かねーからな」

ドラゴンの目つきがいっそう厳しくなる。

「わかってますよ、今日はまだ金がありますから」

そば吉が悲しそうに、つぶやいた。

「兄さん、やっぱりブロンズクラスになると仕事がないんですか?」

「ああ、トーキンは落語家が多いからな。みんな仕事の奪い合いだよ」

「それじゃあ仕事がない兄さん達はどうしてるんです?」

「そうだなぁ……隠れてアルバイトをしてる奴もいるけど、トーキン離れて稼いでる奴もいるよ」

「旅で稼いでいる?」

「何もトーキンだけに寄席があるわけじゃねーや。ジャパック王国のでかい街に行きゃあ、寄席もあるし、小さな街でも落語会をやっている。そんな場所に自分を売り込むんだ」

「どうやって売り込むんですか?」

「だからさぁ、田舎の奴らにとっちゃ「トーキンのビルド亭に出ています」と聞けば「是非うちの落語会に出てください」なんてお願いされちゃうのよ。そうなりゃ、泊まる所も飯もタダ。毎日打ち上げで酒が飲めて、美人の落語ファンのお姉ちゃんから「そば吉さんのお嫁さんになりたい」なんて言いよられたりするんだよ、ガハハハ」

やっぱり、こいつの頭の中はお花畑、それも欲望の曼珠沙華が狂い咲き。

でも、旅に出ると言うのは魅力的だ。

実はうっすらと俺も考えていた。

このままトーキンで新作で目立てばヤングみたいなうざったい野郎に邪魔される。

だったら、そんな野郎がいない所に行ってみたい。

それに、せっかく異世界に転生したんだ。

まだまだ若い花の20代。前世の60歳糖尿病じいさんじゃないんだ。

いろんな街を見てみたい。そして俺の知らない落語に出会ってみたい。そして素敵な恋をしてみたい。

よし、俺も旅をするぞ!


「小鬼、お前、今日勉強会で稼いだんだろう?少し金貸してくれねーか?」

そば吉が両手で俺を拝んでいる。

ああ、こいつ早く縁を切るためにも旅に出よう。

そう決めた俺であった。

文字数は少ないけど、継続は力なり。

投稿して、読者が増えれば、頑張って書こうと言う気になるね。

いよいよトーキンから旅立つよ。

まだまだ先は長い長い。

早く書かないと死んじゃうかもね?

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