老人前座じじ太郎その1
2日ぶりの投稿です。
また暑くなってきたね。東京は
今日も夕方からお仕事。
あープールに行きたいなぁ。
アウェイの客もだんだんとほぐれてきた。
しかし、気負う事なく落語を続ける。
「しょうがねぇなぁ、こんな爺い技術、がアイアンクラスなんて。早く楽屋に入れ」
「あなた見た事ないんですけれども、あなたもアイアンクラス?」
「ふざけた事言うんじゃねーよ。俺はブロンズクラス。ヘブン亭そば吉って言うんだ」
「そば吉……蕎麦だけに芸が客に食われる」
「芸人同士、そういうギャグ言うのは1番嫌われるんだよ」
膝立ちになってゲジ助の頭を平手で叩く仕草。
客がワッと笑う。
これも一種の楽屋ネタ。
でも、既に今日の客は「楽屋ネタがお好き」と言う情報は得ている。
その日によって、お客さんは変わる。これが寄席の恐ろしい所。
10日間の寄席興行、トリが同じ師匠でも客はいつも変わる。
同じネタをやっても、びっくりするぐらい受ける日もあれば、全く受けない日もある。
同じギャグが、昨日あんなに受けたのに、今日は完璧にスルー。
それと、気をつけなければいけないのが
「兄さん、今日のお客さんは何でも笑う、良い客ですよ」
なんて先に上がった後輩が言っても信用してはいけない。
(だったら、俺も大丈夫)
油断して上がって、ギャグが滑って滑りまくり、がっくり肩を落として高座を下りた時もある。
信じられるのは、自分だけ。
だから、前世では俺は常に高座が上がる時は
「まあ、受けないだろう」
平常心よりネガティブな気持ちで上がる事が多い。
そして、いつものギャグを振りながら、客の様子を見て反応を伺う。
そして、どこで受けたのか、そのギャグを足がかりにして、アドリブでギャグを重ねていく。
「笑い」と言う断崖絶壁にハーケンを打ち込みながら、一歩一歩登っていく、新作落語クライミング。
ハーケンを打ち込む場所を間違えたら、高座時間が終わるまで、そこでじっととどまるか、ハーケンが抜けて、地獄の底へまっしぐら。滑落大怪我。
ハーケンの打ち込む場所だけじゃない。客席に吹いてる風、客席の温度、お客さんが男性女性、その比率。
一流クライマーがその日の天気を読むように、一流の落語家はその日の客席の状況を把握する
さっき、「パスタ亭そば吉」と初めて名前を出した時、思いの他受けたので、これはいけると、もう1本ギャグを打ち込んだ。
さっきまでのアウェイ感が少しずつ薄れてきた。
「もういいから、楽屋に入れ。アイアンクラスなら芸名つけなきゃいけないなぁ…」
「ああ、心配いりません。もう芸名つけてきました」
「なんて言うんだい?」
「フラワ亭白薔薇と呼んでください」
「なんでいきなりゴールドクラスの名前なんだよ。それにまだ白薔薇師匠生きてるだろ」
「でも、もうお年だから、いつ死ぬかもしれませんよ」
「お前の方が年上なんだよ」
小さな笑い。
でも思ったより受けない。
そこで、すかさずアドリブ。
「ああ、最近物忘れが激しくて。ボケて来たのかしら?」
客がどっと笑う
笑いにリズムが出てきた。
自分で作る新作落語はどこでギャグを入れるのか、自分で決める事ができる。
そして、そのギャグが外れた時でも、フォローのギャグを入れる事ができる。
古典落語はそうはいかない。
習った通りにやるので、古典のギャグが、外れても次のストーリーに進む。
お客さんファーストじゃなく、落語ファースト。
「お前は爺だから、マウン亭じじ太郎だ」
「ええーじじ太郎?そんなアイアンクラスみたいな名前は嫌じゃ」
「お前はアイアンクラスなんだよ」
客が笑う。笑う。
「あぁそうでした。最近物忘れがひどくて」
アドリブのギャグを重ねる。
客がどっと笑う。
客の温まり具合を見て、ギャグを重ねる。客席に起こった火に風を送る。
「それじゃあ、じじ太郎、着物持ってきたろうな」
「はいはい、自慢の着物を持って参りました。そば吉さん、見てください。良い着物でしょう。」
「へー、立派じゃねーか、正絹の黒紋付き………お前はバカか?どうしてアイアンクラスが黒紋付き着るんだよ?」
「死んだ婆さんが『おじいさんは、黒紋付きが似合うから、明日、着てくださいね』って昨日夢枕に立ったんです。婆さんの立ってのお願いで……」
「だめに決まってるだろ。高座返しが黒紋付きっておかしいだろう」
「……せっかくのおばあさんの願いをーーー天国の婆さん、そば吉を呪い殺してくれ」
「やめろーー!」
客がどっと笑う。笑う 笑う 笑う 笑う
俺の事を知らない客もヤング贔屓の爺さんも、新作落語は嫌いなおばさんも、ゲラゲラと声を上げて笑っている。
さあ、客を高座の上にあげた。俺新作落語に入ってきた。
俺の作った老人前座じじ太郎の仮想現実にログインしたのだ。
「わかったよ、黒紋付き着ていいよ、今日だけだぞ」
「ありがとうございます、それでは早速…」
着物を着ようとして、右肩を抑えてうずくまるじじ太郎
「おい、大丈夫か?」
「すいません。そば吉さん、肩が上がらないんで着せてください」
「おい、嘘だろ?シルバークラスがアイアンクラスの着替えにつくのかよ」
「歳なんで介護お願いします」
「介護が必要なやつがアイアンクラスできるのかよ?しょうがねぇなぁ。じじ太郎背中を向けろ」
背中を向けると、胸を張って
「はい!よろしく」
「偉そうなんだよ。名人かと思ったじゃねーか」
「それじゃあ働いてもらうぞ」
「何をやったらいいんで?」
「俺にお茶入れろ」
「……なんで、てめえみたいな若造にお茶を入れるんだ」
ドスの効いた声で怒鳴る
「それがアイアンクラスの仕事なんだよ」
「そうでした……物忘れが激しくて」
客が笑う。笑う 笑う
客の頭の中には、よぼよぼのじいさんが、楽屋で働く姿が見えているはずだ。
「自分でお茶を入れるなんて久しぶりですよ。えーとまずお茶葉は……この茶筒に入っているのね。まず蓋を開けて……急須の中に、このお茶葉を……」
そう言いながら、左手を震わせて茶筒を振る。右手に持った急須もブルブル震わせる。そして、両手を交差させるように高座一杯オーバーアクションで震わせまくる。
わははは ワハハハハハ
客は大受け
仕草の笑い。言葉を使わなくても笑わせる事ができる。
客席のオーラは、筋ではなく、ドーム状に全体に膨れ上がる。
ヤングちゃん、スキル「高座共有」ができるのが自分だけだと思うなよ。
「ポットからお湯を注がなきゃ」
そう言うと、左手に急須を持つ仕草。右手にポット。
客をじらすように、ゆっくりと震えながら両手を近づける。
その仕草を、客は、息を詰めて見つめる。
(まさか熱湯がじじ太郎の手にかかるんじゃないだろうな??)
「アチイイーー!」
お約束通りに、熱湯が手にかかり、飛び上がるじじ太郎。
ドカン!と大きな笑い
緊張と緩和。
客の感情を操る。スキル「感情操作」
「何やってんだじじ太郎。俺に変われ。あぁ、こんなにお茶葉まみれにしやがって……」
高座にばらまかれたお茶葉を両手に集める仕草。
「いいか、急須に沢山入れなくていいんだ。少しお茶葉を入れてお湯を注ぐ。少し蒸らして………」
急須を揺らして、湯のみに入れる仕草。
その湯のみをお盆の上に乗せ
「さぁ、俺の所に持って来い」
「ありがとうございます。では、今、熱いお茶を持っていきますよ」
と言いながら、膝立ちになり、フラフラと揺れるじじ太郎。
「最近膝が悪くて、まっすぐ歩けないんですよ。おとっとと……」
熱いお茶が入った湯のみをお盆に乗せ、ぎくしゃくと歩くじじ太郎。
客はいつ転ぶかとヒヤヒヤ。
「どうしてもまっすぐ歩こうとすると、体が揺れちゃうんだよね。ーーーー風もないのに体が揺れております」
ドドーン
このセリフで客席に笑い声が弾けた。
「風もないのに体が揺れております」
このセリフは、寄席の定番紙切り(1枚の紙からハサミで注文のの品を切る。例えばパンダの注文ならパンダの図案を一筆書きのように切り取る芸)の名人ハサミ家チョキ楽師匠が高座で必ず言うセリフ。
今日のお客は落語マニア、という事は、寄席にもよく来ているはずだ。だから今日の出演者ではないけれど、寄席にいつも出ている有名人チョキ楽師匠のフレーズをアドリブで入れてみた。
大正解。
しかし、なんで次から次へとアドリブを客に合わせて言う事ができるのか?
それは、前世、新作、落語の天才と言われた鬼笑亭鬼切だからと言うしかない。
詳しくはまた後で説明するよ。
ゆらゆら揺れていた爺太郎が、いきなりこける。
「きゃああー!」
「危ない!」
とっさにお盆を受け取るそば吉。
「何やってるんだじじ太郎、俺がそばになきゃ、お茶こぼしていたぞ」
そう言って、受け取ったお盆を父太郎に差し出す。
「あぁーーびっくりした」
そう言うと、お盆の上の湯のみをゆっくり飲むじじ太郎
「……なんでお前が飲むんだよ」
ドドドーーン
笑い笑い笑い笑い笑笑笑笑
客席をを覆っていた黒いオーラが膨らみ渦巻く。その渦に赤い閃光が走る。
高座共有と感情操作 2つのスキルの合わせ技。
見ているかいヤング?スキルは重ねる事によって、効果倍増するんだよ。
なかなか最初から読み返せないので、芸名が後半微妙に間違ってます。
なるべくチェックしたいと思いますが、教えていただけると助かるよ。
今1000人以上の方に読んでもらっています。
でも、感想とか何もないんだよね。
きっと皆さん、そっと見守ってくれてるんだね。
その無関心が嬉しいです




