アウェーの高座
6日ぶりに投稿します。
まじで忙しかったのよ。
毎日雨だけど、やっと涼しくなったね。
今日は祝日だけど、俺は仕事に行ってきます。
だから、何の仕事だよ?
座布団に座り頭を下げる。
「パチパチパチ」
おざなりな拍手。拍手もしない客もいる。今のヤングの芸で満足してぼーっとしているのか?
「ヘブン亭小鬼です。先日、ブロンズクラスになったばかりです」
数人のお客さんが小さな拍手をしてくれた。
まあ、昇進御褒美みたいなものさ
「僕は自分で作った落語をやりたいと思っています。ですので、今日も僕の新作落語を聞いてください」
そう言うと、前に座った古典落語大好きな爺さんの客が
「チッ」
と、舌打ち下した。
その客だけじゃない、半分近くの客が手にしたチラシを眺め始めた。
新作落語お呼びじゃない。とっとと早くやって終わってくれよ。
そんな雰囲気が客席に充満する。
客席の黒いオーラは、ピクリとも動かずに、客に張り付いたまま。
(アウェーだねえ)
何か楽しくなってきたぜ。
「今のビルド亭の楽屋で働くアイアンクラスは3人おります。見習いも2人待機してるそうです。でも、いつまでもこの状況が続くわけではありません。皆さんもご存知、少子高齢化が進ん出来てます。今、シルバークラスの落語家は50人いるそうです。
でも、落語家は定年はないし、師匠方は皆さんお元気で死にません…」
ここで数名の客がくすっと笑う。でも、客を覆っているオーラは、ピクリと動いただけ。
「月日が経てば、アイアンクラスも昇進してブロンズクラスからシルバークラス。
どんどんアイアンクラスがいなくなる。新しく入門者が来れば良いのですが…
皆さんご存知、今の時代、少子高齢化。子供が生まれて来ない。そうなると入門してくる若い人がいなくなる…」
実は異世界も前世と一緒。満腹亭のガゼットさんが言っていた
「最近は大学に入ってくる若い奴らが少なくなった。昔は昼時になれば学生が行列を作っていたのになあ。俺が爺いになったら、学生がいなくなって、この店閉めなきゃいけないかもなぁ」
だから、前世で作ったこの新作落語も行けると踏んだ。
「でも、楽屋仕事をするアイアンクラスは必要です。開口1番をしゃべったり、師匠の着物の着替えについたり、お茶を出したり。でも若い入門者がいない。
そうなると、落語ギルドも考えます。
『暇な人材をアイアンクラスで雇おう』
ですから、今日の話は落語界の近未来のお話です」
何人かの客がピクリと反応する。
「近未来の落語界」に興味を持ったのだ。
「どうしたんだろうなぁ、ゲジさん、今日めでたい事があるから、一杯ご馳走するって、この店で待っててくれと言ったのに、一体何があったんじゃ?」
「おお、ゴリさん、待たせてすまなかった」
「めでたい事って一体なんじゃ?」
「実は、老老人材センターから手紙が来てな…」
そう言いながら、手拭いを持つ手を思いっきり、小刻みに震わせる。
その奇妙な動きに客が引きつけられる。
「どれどれ?何、『コリン街にお住まいのゲジ様、明日からビルド亭のアイアンクラスを命じる』
おいおい、その年で落語家になるのか?」
「わしは、若い頃落語家になりたかった。でも、親が『そんなヤクザな商売はダメだ』と言われて成れなかった。それが80過ぎてアイアンクロスといえども、落語家になれたんじゃ。めでたい日じゃ」
「でも、ゲジさんは素人落語選手権で優勝とかしてるじゃろ。その辺のアイアンクラスには負けないんじゃないか?」
「アイアンクラスなんて、敵じゃないわ。わしの目標は「打倒、フラワ亭ヤングじゃ」
「あの有名なブロンズクラスの名人か?無謀じゃのう」
ここで客席に笑いが起こる。ヤングファンの客も贔屓の落語家が名人と言われて気を良くしたのかクスクス笑っている。
客席のオーラがゆっくり揺れる。
ここで最近分かった客のオーラと、落語家のオーラの違いを説明しよう。
簡単に言えば、落語家のオーラとは、お客さんに自分の落語を伝える力。
喜び、恐怖、緊張、悲しみ、登場人物の様々な感情を伝える。
その事によって、お客さんが笑い、泣き、感動する。
攻めのオーラ。
そしてお客さんのオーラとは、その落語を聞いて、揺さぶられる感情の出力だ。
つまらない落語を聞けば、感情は動かないから、オーラも動かない。
腹の底から笑えば、オーラは立ち昇り、大きく揺れる。
だから、お客さんから大量のオーラが立ち昇っても、何かスキルを発動しているわけじゃない。
お客さんは、お金を払って、楽しみに落語を聞きに来た。
日ごろの憂さ晴らし。仕事で疲れた日々を落語で癒そうとしている。だから、寄席に来るのだ。
そんなお客さんの期待に応えて、落語で凝り固まったオーラをほぐしてあげる。
落語スピリチュアルマッサージ。
お客さんが元気になれば、オーラも大量に噴出する。
受けのオーラ。
まあ、ざっくりだけど、そんなふうに俺は捉えている。
もう一考察。
時々、黒いオーラの中に赤いオーラが出現する時がある。色の違いはなんだ?
俺が思うには、笑の質。
「くだらないから笑う」「仕方ないから笑う」「雰囲気で笑う」など低レベルな笑いが黒。
「面白いから笑う」「意表を突かれて笑う」は中レベルは赤。
「腹の底から笑う」「涙を流して笑う」は高レベルは黄色。
そして、一人ひとりの客の笑いが重なり合うと、客単体の笑いから、客席全体の笑いに変化する。そんな時もオーラの色が変化するんじゃないか?と俺は考えている。
つい余計な事を考えてしまった。
落語に戻りましょう。
「でも、その年で夢が叶うとは、めでたいな。それじゃ、落語家になれた事を祝って、乾杯じゃ。今日はわしの奢り。どんどん飲んでくれよ、ゲジさん」
さぁ、次の日の昼前に、ビルド亭の前では、1人のシルバークラスが
「冗談じゃねーや、落語ギルドから電話があって『今日新しいアイアンクラスが楽屋に行くから面倒見てやってください、パスタ亭そば吉師匠』って、なんで俺が面倒見なくちゃいけねえんだ」
客席がどっと笑う。
思った通り、マニアックな客。
知られていない「そば吉」の名前を出しただけで、落語マニアの琴線に触れた。
不思議なもので、落語マニアと言うのは、普通のギャグじゃ笑わないが、落語や落語家に関するギャグだけハードルが低い。
この事は前世で既に確認済みだ。
さあ、落語続けるよ。
「『アイアンクラスの面倒なんてブロンズクラスが見りゃいいじゃねーか』って言ったら『今ブロンズクラスは18人しかいませんが、シルバークラスは650人もいるじゃありませんか?どうせ寄席にも出られない、仕事もないんでしょう?
引き受けてくれたら時給500ギル払いますよ』『なんだとシルバークラスが500ギルーーーーよろしくお願いします』
何せ今、シルバークラスが沢山いるから、寄席にも出られない、仕事もない、そんな奴らで溢れ返っているんだ。
それに今時、落語家になろうなんて奴はどっかの大学の落研だよ。仕事教えれば若いからすぐに飲み込んで、放っておいたって働いてくれる。
後は昼寝してれば良いんだ。楽な仕事だよ」
「さてと、ビルド亭の楽屋に着いたよ」
「ガラガラ(戸を開ける仕草) おはようーー?」
「なんだい、真っ暗じゃねーか?まだ来てねーのかふざけやがって」
その時でございます。
「しまった、昨日飲み過ぎて寝坊した……ええーっと楽屋は?ここじゃ、おはようございます」
「やっときやがったか」
戸を開ける仕草 目の前にヨボヨボのじいさんが立っている。
「誰だ?じいさん、ここは楽屋だ。客だったら、客席に周りな」
「いいえ、私ここでいいんです」
「あのなぁ、楽屋は芸人しか入れないんだよ」
「今日からアイアンクラスになりました、ゲジ助、86歳、趣味は人情話でございます」
クスクスとヤングファンのおばさまが笑っている。
「お前みたいな爺いがアイアンクラス?嘘つきやがれ」
「本当でございます。老老人材センターから手紙ももらっておりますから」
そう言いながら、手紙に見立てた、手ぬぐいを思いっきりぷるぷる震わせる。
古典落語ファンの爺さんもニコニコし始めた。
「震えすぎなんだよ」
「すいません、血圧が186ありますので」
「そんな血圧高くて、楽屋で働けるのか?手紙見せてみろ」
「はい、どうぞ」
「何何?コリン街のゲジ助様、明日からビルド亭のアイアンクラスを命じる……時給1200ギルーーーなんで俺より時給が高いんだよ?」
「年功序列」
ワハハハハハ
大きな笑い声が客席を包む。
固まっていた客席の黒いオーラが大きく揺れる。
そして、柔らかくなったオーラから何本ものの黒い筋が立ち上る。
アウェーの客にいきなりギャグをぶつけても、跳ね返されるだけ。
徐々に、雰囲気を柔らかくして、客を崩すのだ。
さあ、やっと受ける体制が出来ました。
さぁ、これから少しずつギアを上げていくぜ!
落語の部分は、客に向かって喋っている部分と小鬼の頭で思っている部分を分けて書いていますが
みんなわかるかな?
それと仕草の部分も、書かないと、どんな動きをしているかわからないよね?
落語って頭で想像する部分が多いから大変だよ。




