イクイク太夫が行く!
2日ぶりの投稿です。
本当に毎日、死ぬほど暑くてぐったりだよね。
明日からまた忙しくなるので、5日ほどお休みします。
まぁ、時間ができたら投稿しますね。
ヤングのイクイク太夫が佳境に入る。
セイゾーが物思いにふけっているの心配した餅屋の親方が訳を聞きます。
「イクイク太夫の事が寝ても覚めても頭から離れないんです」
「しょうがねぇなぁ、じゃあちょっとリルドラに詳しい人に聞いて見るか?」
やって参りましたのが、リルドラ遊びが大好きな医者の源庵先生。
「何?そんなにイクイク太夫に会いたいのか?しかし、相手は天下の人気花魁。嫌だと言えば伯爵様だって会う事が出来ない」
「そりゃわかっています。でも1目会いたいんです」
「しょうがないなぁ。だったら金貨100枚貯めたら、会に行ける段取りをつけよう」
「本当ですか?絶対に貯めます。よろしくお願いします。」
金貨100枚と言ったら、今のお金で100万ギル。大金でございます。
餅屋の奉公人が貯められる金じゃない。
そう言えば、セイゾーが諦めると思って、わざと大金を吹っかけた。
しかし、真面目なセイゾーは
「金貨100枚あればイクイク太夫に会える」
朝から晩まで餅米紛れになって働く
「イクイク太夫に会える、イクイク太夫に会える」
ヤングが悪魔面を、真面目なセイゾーの仮面を被って純真な心を客に伝える。
一心不乱に餅を突くセイゾー。
セイゾーのその姿に客席のオーラが太くなり、何本も重なる。そして客席全体をドームのように覆う。
さすが、高座共有のスキルを持つだけはある。
落語の中に、客を引っ張り込んだ。
前世では、この事を「客を高座にあげる」と言う。
古典落語が出来た江戸時代の中に、お客さんをご招待するわけだ。
ディズニーランドに行ったお客さんが、ミッキーマウスの耳を頭につけて、ドナルドに抱きつくようなものだ。そう、ドナルドは本物のドナルドです。
いまいちわからないかな?俺、例え下手?
まあ、夢の世界にご案内!
「さあ、3年の月日が流れます」
「親方、やっと金貨100枚貯まりました。これでイクイク太夫に会えるんですよね」
「おいおい、本当に貯めやがった、ちょっと待ってろ」
それを聞いて、驚いたのが源庵先生
「何、本当に貯めたのか?もう諦めて忘れていると思った。そうか、それなら話だけでもしてみよう」
ルリドラで一番の大店、ウラミー屋に行って
「急な話で、無理だと思うが、イクイク太夫に是非会いたいと言う者がいてね。え、何をしている人か?餅屋のーーー、いや、田舎の醤油問屋の若旦那なんだ。錦絵でイクイク太夫を見て是非会いたいと言うんだがーー」
ウラミー屋の主人も
「気位の高い花魁でございますから、無理だと思いますがーー」
と言いながらイクイク太夫に伝えると
「丁度今夜は何もありませんでありんす。会ってもようござんす」
どういう気まぐれか、会ってくれる事になります。
急いで餅屋に戻った源庵先生。
「おい、セイゾー奇跡が起こった。今夜ならイクイク太夫に会えるぞ」
「ほ、本当ですか、先生!やったーー」
「こら、ワシに抱きついてどうする?さあ、今夜だけお前は田舎の醤油問屋の若旦那だ。バレないように色々とルリドラのしきたりを教えてやる。それから着物も着替えるんだ」
「親方に借りた上等な羽織着物を着まして源庵先生と一緒にウラミー屋へ。そしてセイゾーだけ2階の間に通される」
「ああ、イクイク太夫に会える、イクイク太夫に会える…」
そう言いながら、泣きそうな仕草をするヤング。両手で自分の黒い触覚を握り、頭を左右に振る。そして体も小刻みに震わせる。
やるじゃねーか、悪魔野郎。
普通なら、ここでは会える喜びで、笑う所を、泣く事によって、よりイクイク太夫への真剣な思いが客に伝わるように、演技するとは。
落語演出レベル14だけの事はある。
「わちきがイクイク太夫でありんす」
「ひえええーー」
奇声を発してのけ反るセイゾー
客がドッと笑う
上手いねえ、緊張と緩和。
笑の鉄則。
セイゾーが泣く仕草で客を緊張させ、奇声で一気に解放。
前世で爆笑王と言われた桂 枝雀師匠の最も得意とする落語技術。
それを2つ目クラスで操るとは、ヤングさん、さすが「自信覇気」を持っているだけの腕がある。
客席を覆っていたオーラの黒いドームの中に、赤い閃光が何本も煌めく。
「セイゾー様、今度いつ来てくんなまし?」
「今度?それはーーーー3年後です」
「まあ、あなたは醤油問屋の若旦那。なんでもっと早く来れないんであります?」
「ーーーー花魁、今まで嘘をついてすいません。実は俺、醤油問屋の若旦那なんかじゃありません。餅屋の奉公人です。錦絵で偶然、花魁の絵を見て惚れちまった。どうしても一目会いたくて、源庵先生に相談したら『金貨100枚貯めろ』と言われて3年間必死に働いて貯めたんです。だから、次に会うのは3年後なんです」
「まあ、嘘ばかりのルリドラで、そんな真で会いに来てくれた客は初めてでありす」
「だから花魁、必ず3年後来ますから、それまで待ってもらえませんか?」
「ーーーだったら、こうしましょう。あちきは1年後、年が明けますから、自由な身になるでありんす。そうしたら、あちきを主の女房にしておくれでありんす」
「え、主の女房?女房ってーーー俺のカミさんになってくれるんですか?」
「はい、ですから主はもうこのルリドラに来ては行けないでありんす」
「本当に1年後、俺のカミさんになってくれるんですか?」
「約束するでありんす」
そう言うと花魁が赤い紐をセイゾーの人差し指に巻きつけて硬く結ぶ
「さあ、これが証拠でありんす」
そう言うと花魁がセイゾーの手をグッと握り下から濡れた瞳で見上げる。
この色っぽい仕草を、小太り悪魔が恥ずかしげもなくやるのだが、客はもう夢の国、落語の世界にどっぷり浸かっているから
「よかった、よかった」
涙ぐんでいるおばちゃんがいる始末。
これが落語の凄い所だ。
ハゲ頭のおじいさんであれ、白髪のデブのおじさんであれ、綺麗な花魁になったり、真面目な職人になったり、たぬきになったり、殿様になったり、狐になったり、幽霊にでさえなる事が出来る。
そして何人もの登場人物をたった1人で演じ分ける。
世界でこんな芸能は落語だけだと思う。
たった1人で、ありとあらゆる物語を紡ぎ出す。
シェイクスピアであろうと、村上春樹であろうと、団鬼六であろうとーーー団鬼六先生は無理か?
俺が思うに落語は仮想現実の世界。
そこに客を引き摺り込む、いわばログイン出来たら、ソードオブオンラインの世界が待っているのだ。
今、ヤングの「イクイク太夫仮想現実」にロマノフ亭の客が全員、ログインしたのだ。
だから醜い嫌味悪魔が可憐な花魁に見えるんだよ。
「さあ、ルリドラから戻ったセイゾー、『後1年、後1年……』呪文のように唱えている」
「おいおい、どうしたんだいセイゾーの奴、ルリドラから戻って来ておかしくなっちまいやがった」
「どうせ、イクイク太夫に振られて気でも触れたんじゃねえか」
周りがいくら馬鹿にしようともセイゾー、朝から晩まで、必死に働きながら『後1年、後1年……」
そして1年後
「親方、大変です」
「どうしたんだ貞吉?」
「今、店の前に『後1年』が来ました」
「誰だい?『後1年』って」
「ごめんくださいましー」
「あああ、あなたはイクイク太夫!」
「こちらにセイゾー様はおいででありんすか?」
「ひええーセイゾー、『後1年』が来たぞーー」
「ーーーああ、花魁、本当に来てくれたんですね」
「主に嘘は言いません、あちきを女房にしてくんなますか?」
「くんなます、くんなます」
「これからセイゾーが独立しまして餅屋を開き、花魁の女房自ら餅を売って繁盛したと言う『イクイク餅』由来の一席でございます。
ロマノフ亭の客席のオーラがふくれ上がった。
黒いオーラが天井を押す。赤い閃光が太く立ち上る。
でかい拍手が鳴り響く。空気が揺れる。
客が仮想現実の世界から戻って来た。
頭を下げた悪魔がニヤっと笑う。
そしてドヤ顔で高座を降りて来た。
「勉強になったか?おこん」
おこん姉さんが固まっている。
あまりに大きな自分との差。
「勉強になりました」
おこん姉さんが悔しそうに頭を下げた。
「さあ、それじゃあみんなで打ち上げに行くか?今日は俺の奢りだ」
「何言ってるの?ヤング、まだ小鬼が居るじゃない?」
パラミさんがツッコミを入れてくれる。
「ああ、そうだった、すっかり忘れていたよ」
嫌味を言わないと死んじゃう悪魔。
いやーヤング君、凄いね!ブロンズクラスじゃ敵無しでしょう。
そりゃ、そば吉もいじめられる訳だ。
「それではお先、勉強させていただきます」
頭を下げて高座に向かう。
(さあ、久しぶりにちょっと本気出すかな?)
ってこれダメなフラグでしょう!
古典落語を異世界落語に変換するのちょっと大変です。
もう、古典落語そのまま書こうかな?
でもそうなると、異世界の設定がおかしくなるしーー!
がんばります。




