落語バトル編 フラワー亭ヤング登場
10日ぶりの投稿。
お待たせしました。
もうみんな忘れちゃったかな
やっと落語バトルが始まります
これからものんびりと書き続けていきますよ
ビルド亭のお披露目が終わって、3日目。
トーキン落語ギルドから電話があった。
言い忘れていたが、この異世界でも電話がある。魔石で動く携帯電話。
スマホ程色々出来る訳じゃないが、通話の他にメールや簡単な情報発信が出来る。
この異世界でTwitterにあたるのが「ギガース」
個人営業の落語家にとってありがたい。落語会のお知らせをしたり、仕事の依頼を受けたりする事が出来る。
でも、俺は今までアイアンクラスだったから、「ギガース」にはまだ手を出してない。
それに、仕事をもらう時は、楽屋で先輩から
「今度、俺の勉強会があるんだけど、アイアンクラスで出てくれない?」
と、直接頼まれていた。
「もしもし、小鬼かい?エリックだけど」
ギルドのサブマスターが何のようだろう?
「今度、オーチュー街で落語会があるんだけど、出てくれないか?」
ブロンズクラスになって、初めての仕事。
「ありがとうございます。いつあるんですか?」
「3日後なんだよ。夜なんだけど、オーチュー街のロマノフ亭でブロンズクラスの勉強会があるんだ。出演予定だった肉丸君がお腹壊して入院してね…」
おいおい、肉丸、入院って何食べたんだ?腐った肉1トン食べたのかな?
「大丈夫です。それで誰が出るんですか?」
「ドンブラ亭デビ助とアニマル亭おこん、それとフラワー亭ヤングだよ」
デビ助は大酒飲みの神経質な悪魔。一緒にアイアンクラスをやっていたから知っている。
おこん姉さんもビルド亭の楽屋で、何度か会ったことがある。
狐族だが黒髪のショートカット、古典、落語一筋の真面目な姉さん。
もう1人のフラワ亭ヤング?どこかで聞いた名前。
すれ違いでまだ会った事がない。
まあ、同じブロンズクラス。気にすることもないか。
それよりも初めての仕事がうれしい。
「それじゃあ場所は知ってるよね。午後7時開演だから6時まで入ってね」
そう言うと、エリックさんは電話を切った。
いくらくれるのか?教えてはくれない。
まぁ、前世でも2つ目の成り立ては、出演料はいくらですか?なんて聞けないものだ。
仕事をもらえるだけありがたい。3000円だろうと5000円だろうと喜んで引き受ける。
出演料が100,000円以下なら引き受けません、なんて言えるのは、真打になって売れてからだ。
3日後の夕方、ロマノフ亭に向かう。
満腹亭のあるコリン街の左隣り。歩いて30分。オーチュー街はお役所の建物がたくさんある。
その中のビルの1階がロマノフ亭だ。突き出した軒先から赤い提灯がずらりと並んでいる。「ロマノフ亭」と書かれた3本の幟がビル風に揺れている。
建物と建物の間の狭い路地。そこを進んで、1番奥に楽屋口がある。
スチールでできた扉を開けると、細い廊下。その突き当たりが楽屋だ。
「おはようございます」
1番下っ端の俺は、畳に正座すると頭を下げた。
「待っていたわ、小鬼君」
落語ギルドの事務員、パラミさんが立派な角でお出迎え。
トナカイ族で温厚な瞳に茶色の巻毛。スラットした体型だが、凹凸が少ない。
「よろしくお願いします」
「もうすぐ、他のメンバーも来るか、好きなところに座っていて」
俺は邪魔にならないように、楽屋の隅に鞄をおろして正座した。
「ごめんなさいね、急なお願いで」
パラミさんも俺の前に正座する。
「うれしいです。披露目が終わってから、仕事がなくて」
普通、ブロンズクラスのお披露目が寄席で終われば、自分の故郷に帰り、そこで友達や家族の知り合いを呼んで、お披露目落語会を開く。
そもそも俺には、故郷は無いし、家族も居ない。
さて、そろそろ勉強会でも開こうか?と考えていた。
「それでブロンズクラス勉強会ってどんな会ですか?」
噂では聞いていた。
「順番に上がってもらって、お客さんのアンケートで「誰が1番良かったか?」投票してもらうの。まあ「素人の言うことなんて聞かなくてもいい」って人もいるけど、私はお客さんの声も大事だと思うわ」
ふーん、ちょっとした落語選手権みたいなものか?
「でも1位に選ばれたからって、賞金が出るわけじゃないし、抜擢でシルバークラスになれるわけじゃないの。でも競い合うって大事なことだと思うわ」
俺は前世でわが道を行くタイプだったので、新作が好きなお客さんには評判が良かったが、古典落語が好きな客にはとことん嫌われた。
さぁ、異世界では俺の新作落語どんな評価を受けるかちょっと楽しみだな。
「おはようございます」
陰気な声で楽屋に入ってきたのはデビ助。
小さな黒い羽根を折りたたんで、顔面蒼白。もうすでに気の小さい悪魔は緊張してるみたいだ。
「デビ助兄さん、今日よろしくお願いします」
「肉丸兄貴の代わりか?お手柔らかに頼むぜ、小鬼」
そういうと鞄から小瓶を取り出して、キャップを外す。
「ちょっとデビ助、高座前のお酒は禁止!」
パラミさんに怒られる。
「いや、ちょっと景気づけにーー」
「だめって言ってるでしょ。昔と違うのよ。酒臭い息で高座に上がったら、落語ギルドに苦情が来るんだから」
うらめしそうにパラミさんを見ると、おとなしく小瓶を鞄に戻した。
「おはようございまーーす」
鈴を転がすような可愛い声。黒髪に、茶色い耳が飛び出した、おこん姉さん登場。
「あら、おこんちゃん、最近きれいになったんじゃない?」
パラミさんのヨイショがいきなり炸裂!
「もう、パラミさん上手いんだから」
おこん姉さん、まんざらでもなく、ニコニコ笑い。
「あら、肉丸の代わり、小鬼?聞いてるわよ。新作面白いんだって?」
「いえ、そんなことありませんよ」
一応謙遜する俺。
「ふふふ、私の古典落語邪魔しないでね」
早速、先制パンチ。
「おはよーース」
ドスの利いた声で、小太りの男が現れた。
背中には大きな黒い蝙蝠みたいな羽根。丸い顔にニコリと笑った細い目。でも、どこか邪悪なものを感じる。
頭の上の2本の触覚が、眉毛の上まで垂れ下がっている。
フラワ亭ヤング。悪魔族。デビ助が使い走りの悪魔なら、さしづめ、こいつは幹部級?
「ヤング兄さん、おはようございます」
「兄さん、今日よろしくお願いします」
すぐにデビ助とおこんが正座して頭を下げる。
「おう、よろしく!」
同じブロンズクラスなのに、偉そうなやっちゃなぁ。
「ヤング兄さん、はじめまして。ヘブン家小鬼です」
ヤングの細い目がギラりと光る。黒目がちの邪悪なブラックホール。
「お前が、小鬼か?つまらない新作落語で、受けてるからって調子乗るなよ」
いやーうれしいほどの塩対応。
「ほらほら、みんな揃ったから順番決めるわよ」
パラミさんが4本の割り箸を握って差し出す。
「さあ、引いてちょうだい」
俺はよくわからず、最後に残った1本を弾く。
割り箸には「4」の数字。
「それじゃあ決まったわね。最初はデビ助、次はおこん、中入りでヤング、最後は小鬼ね」
俺がトリか?
「ちょっと待ってよ、パラミさん。ブロンズクラス成り立ての小鬼がトリなんて、お客さんに失礼じゃない」
「何言ってるの?ヤング、勉強会は芸歴に関係なく、クジで順番を決めるって言ってあるでしょ」
「だってこいつ、新作だよ。何やるかわかったもんじゃない。そんな奴がトリだなんて、客も嫌だろうし、俺たちも嫌だよな」
そう言ってデビ助とおこんを睨む。
「え、ええ、ヤング兄さんがそう言うなら…」
すぐに長いものに巻かれるデビ助。同じ悪魔族なので、頭が上がらないのかな?
「でも、兄さん、最後に上がってくれた方が、私たちの落語邪魔されなくていいんじゃないですか?」
おこんが媚びるような目でヤングを見つめる。
「それに兄さんの古典落語を先に聞いたら、お客さんも満足して「新作落語なんて聞かなくていいや」って帰るんじゃありませんか?」
「ハハハ、おこんの言う通りだな。今日は俺たち3人の落語会だ。くだらない新作落語は蚊帳の外。パラミさん、この順番で行こうよ」
おこんに持ち上げられて、気分を良くしたのかヤングも納得。
「それじゃあ、お客さんに知らせるわよ」
小さな黒板に
「一 ドンブラ亭デビ助
一 アニマル亭おこん
中入り
一 フラワ亭ヤング
一 ヘブン家小鬼
終了 」
と書いて手に持った。
「それじゃあ、開場するから着替えて頂戴。出囃子は交代で叩いてね」
パラミさんはそれだけ言うと、木戸口にそそくさと歩いて行く。
「それじゃあ、1番太鼓叩いてきます」
何も言われなくても、1番下が率先して働くのが落語界の掟。
「小鬼、1番太鼓ちゃんと叩けるのか?勝手に自分でアレンジするなよ」
ヤング兄さん、嫌味言わないと、死んじゃうのかしら?
思い出した。
そば吉の落語を「相変わらずつまらねぇ落語だな」とけなした人だ。
そうか、筋金入りの嫌われ者。
これは面白くなってきたぞ。
さて、さて、そんなヤング兄さんはどれほど落語がうまいのかな?
俺はワクワクしてきた。
訂正
マウン亭おこん→アニマル亭おこん
マウン亭デビ助→ドンブラ亭デビ助
一応俺の中に法則がありますので訂正します。
連日投稿は無理だけど、また今日からお付き合いしてね。




