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高座で実験と検証

連日投稿です。

今日は暑いね。


ビルド亭は、10日間興行なので、ブロンズクラスの俺の高座も10回ある。

アイアンクラスの時は、一芝居、3回か4回。

単純に高座の数が3倍近くなる。


初日が「山奥寿司」

2日目が「おばさん騎士団」


この話は、前世ではおばさんが自衛隊に入る「おばさん部隊」と言うネタだったが、異世界には自衛隊は無い。

そこで王国の騎士団に入る設定に変えて「おばさん騎士団」


わがままな、おばちゃんがダイエットのために騎士団に入り騒動を起こす。

1番の笑いどころは、騎士団の制服を着る時にを見栄を張って

「私ズボンのサイズSだから」

と言って、小さなズボンを、肉を揺すったり、お腹を引っ込めたりして、無理矢理はこうとする仕草で笑わせる。


お客さんが笑えば、太くて、黒いオーラが何本も立ち昇る。

笑が連続すると、オーラの帯が左右に揺れて、触れ合った瞬間、赤い閃光が走る。


一番の笑いどころ。

おばちゃんが、どうにかズボンがはけて、安心してほっと息をつく。

それを見た団長が

「すごい、下が細くて、上がまん丸。まるでりんご飴みたいな体型だ」

その瞬間、ドッと客が笑う。

笑いの振動で、客席が揺れた。

何本も重なり合った黒いオーラが太い流れのように立ち上がり、赤い数本の筋に、黄色い光の線が切り裂く。


なるほど、普通の笑いが黒だとすれば、爆笑が赤、そして客席が揺れるほどの大爆笑が黄色。


そして、オーラの動きは客の笑いエネルギーで変化する。

はじめは

「この落語家さんは面白いの?」

お客さんも不安だから、オーラも見えない。

客席は寒々としている。


しかし、だんだんと面白い事を言えば

「なんだ、この人、面白いじゃん」

小さな笑いが起こる。ここで初めてお客さんの体から黒いオーラがにじみ出る。

そして、だんだん笑わせる事によって

「ああ、この人の落語、笑っていいんだ」

安心して笑いのオーラ立ち昇る。客席の温度が上がる。


そうなれば、もうこっちのもの。

1度回りだした、笑いのエンジンは、加速していく。そして客席が熱を帯びる。

うなりを上げて、エンジンの回転数が上がり、客席に笑が疾走する。


笑の速度が、オーラの動きなら、笑の回転数、いわば質が色になる。


お座なりの笑いから、本当の笑い、そして予期せぬ笑い、最後は、身も心も委ねて、腹の底からの笑い。

笑のタコメーターの針が振り切れれば、黄色から、もっとまばゆい黄金色、そして白色になるのではないか?


そんな事を連日、実験しながら検証する。


3日目のネタは「マキシムド、呑兵衛」

おじいさんとおばあさんがやっている、冴えない居酒屋。全くお客さんが来ない。

それを心配した孫娘が、おばあちゃんを高級レストランに連れて行き

「同じようなサービスをしたら、きっと人気が出るから」

と、教えてくれる。

早速、教わった事をおばあちゃんが、おじいさんに教え、その通りにやって失敗すると言う、古典落語で言うオウム返し。


習った事をいい加減に覚えて失敗する。

古典落語には、このオウム返しの落語がたくさんある。

「天災」「子ほめ」「青菜」「鮑のし」

しかし、このオウム返しを、新しく自分で作ると言うのは大変に難しい。

なぜなら、仕込みの部分と笑を回収する部分が微妙に共通点がなくてはいけない。

「子ほめ」なら

「結構お若く見えますね、厄そこそこ」

厄とは42歳の事だ。

これが仕込みの部分。


そして、笑を回収するのが

「結構お若く見えますね、百そこそこ」

「百って俺はそんな爺じゃねーや」

ここで客が笑う。


厄と百、やく、ひゃく。音感が似ている。これが共通点。


その共通点が似通った言葉を探して、かつストーリーに当てはめなくてはいけない。

古典落語の連中は、こんな苦労は知らない。

だってすでに台本があるんだもん。自分で考えなくていい。

しかし、俺みたいな創作落語家は、自分で幾万と言う言語から探し出さなければいけない。

砂浜に落ちている針を拾うようなものだ。


それじゃあ、俺の作ったマキシム呑兵衛はどんなオウム返しか?


ビルの最上階にある高級レストランに連れて行かれた、おばあちゃんが

「まぁ窓から、ビルの明かりや、車のヘッドライトが綺麗ですね」と言うと

店員さんが「綺麗な夜景がご覧になれます」と言う。

孫娘が「おばあちゃん、これもサービスよ、覚えておいて」

さて、いろいろなサービスを教えてもらったが「全く同じように出来ないよ」と、おばあちゃんが愚痴をこぼす。

すると、孫娘がおばあちゃんを元気付けるように

「大体でいいのよ。似てればいいからやってみて」

このセリフが大事。


さぁ、おばあちゃんが自分の居酒屋に帰り、孫娘に言われたサービスを適当にやってみる。

店の常連のトメさんがやってくると

「お席にご案内いたします」

「何言ってるんだ、婆さん、カウンター席しかないじゃねーか」

「さあ、トメさん、ここに座って」

「おい、なんで便所の前なんだよ。臭いじゃねえか」

「こちらの窓から綺麗な夜景がご覧になれます」

「何が夜景だよ。隣は空き地で何もねえじゃねーか」

そう言いながら窓を開ける。

「ほら、真っ暗じゃねーか。あれ、なんかいるぞ?なんだ。あの野良犬。体中に豆電球がついてるじゃねーか」

「きれいな野犬がご覧になれます」

夜景と野犬。やけい、やけん、音感の共通点。


この言葉を探し、ストーリーに組み込むのがどれほど大変か。

ちょっと自分を褒めてあげたい。

実際、このマキシムド呑兵衛は、俺の後輩だけじゃなく先輩落語家もやっている。


このネタが一番受けた。

前半に仕込んだ言葉が、後半、怒涛のように回収され、笑いの渦が起こる。

最後、ビルド亭が震えるほど大爆笑が起きた。

「ガガガーン、ズドーーン、ビシビシ!」


50人の客から立ち上っていた黒くて太いオーラの帯が、すべて絡み合い、竜巻になると、ビルド亭の天井を突き破る。

赤い線光が重なり、黄色い線が稲妻のように何本も竜巻の中を走り抜けた。


高座が終わり、楽屋に戻ってくると

「お先に勉強させていただきました」

ペコリと頭を下げた。


しかし、楽屋にいた、ネギミもピチピチもキュウリンも何も言わない。

みんな押し黙ってる。

俺があまりに受けたんで、びっくりしているのだ。

普通だったら、ブロンズクラスの成り立てが、こんなに受けるなんてありえない。


「どっこいしょ」

太った体を持ち上げて、ピチピチ師匠が今一度、ネタ帳に目をやると

「ふー、お先ー」

そう言って、高座に消えていった。


俺は無言で素早く着替えると

「お先に失礼いたします」

そう言って、そそくさ楽屋を出た。


気まずい雰囲気には慣れている。

前世の2つ目時代の後半、何度も楽屋で経験している。

真打よりも、受ける2つ目、それも新作落語で。

落語家の世界は「出る杭は打たれる」じゃない。

「出る杭は、潰される」

だから、潰される前に、もっと太く硬く突き抜けなきゃいけない。


それに俺は考えなくちゃいけない事が山積みだ。

三日間、高座に上がってそれぞれ違うネタをやり、客席のオーラを見てわかった事がある。


お客さん1人につき、オーラの筋は1本。お客さんが10人いれば10本の筋が立ち昇る。

そして、10本の筋が規則正しく左右に揺れるわけじゃない。

人それぞれによって笑う感どころが違う。

右から左に揺れる人。前後ろに揺れる人。螺旋を描いて揺れる人。

様々な揺れ方によって、お客さん同士のオーラが触れ合い、重なり合う。

すると、その接触によって笑いの質が上がり、赤い閃光が走る。爆笑が起こるのだ。


異世界のオーラのあり様が前世の寄席の高座と重なって来た。

なるほど、前世で、俺が漠然と感じていた事が、この異世界では、はっきりオーラとして見えるんだ。


え、前世で漠然と感じていた事ってなんだよ?

それじゃあ、教えて差し上げましょう。

少し俺の書きたいところが表現できました。

でも、本当に書きたいところは、まだまだ先。

前回も言いましたが、6月21日から10日間近く投稿できないと思います。

もしかしたらするかもしれませんが、仕事が忙しいのでご理解ください。

ちょっと待ってよ、息抜きのつもりで書いたのに、ちょっと仕事みたいになってるなぁ。

でも、今800人の人が読んでるからとってもうれしいです。

最初は2人しか読んでいなかったのに。涙涙。

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