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ブロンズクラス初高座

1日お休みしての投稿です。

これから夜仕事が始まったので、連日投稿は無理だけど、読んでくれると嬉しいよ。

夜席の開演前にビルド亭の楽屋に入る。

「おはよう」

元気よくご挨拶。

既に着物に着替えていたイワシ、ノンタン、ピカイチが

「小鬼兄さん、ブロンズクラスおめでとうございます」

にっこり笑って挨拶してくれた。

今じゃかわいい後輩たち。


「それじゃあ、僕も着替えるかな?」

赤鬼から、もう「僕」じゃなくて「俺」で良いと言われたが、楽屋での風習はなかなか変えられない。まぁそのうちおいおいとね。


もうアイアンクラスの部屋には行かない。

楽屋の隅で黒紋付きに着替える。

赤鬼からブロンズクラスのお祝いで金貨3枚ご祝儀でもらった。

そして自分で稼いで、貯めたお金から金貨2枚、合計金貨5枚で買った黒紋付き。

着物と羽織に白くヘブン亭の紋を染め抜いた。

ヘブン亭の紋は丸に天。丸の中に天と言う文字が染め抜かれている。


ブロンズクラスの象徴である羽織を着る。

羽織紐は水色。

これは、イワシ達、アイアンクラスの皆んながお祝いで俺にくれた。


「兄さん、よく似合いますよ」

早速、ノンタンが大きなお目々をくるくるさせて褒めてくれる。

しかし、いつ見ても、ノンタンは中華街のお面みたいな顔だなぁ。


「ありがとう。今日からお世話になるからよろしくな」

そう言って、用意していた祝儀袋を3人に手渡す。

「ありがとうございます、小鬼兄さん」

みんな、心の底からニコニコ顔。落語家はご祝儀が大好きな生き物です。

これは前世でも、異世界でも変わりません。


「おはようさん」

可愛らしい声がして、この芝居のブロンズクラスが楽屋に入ってきた。

肩まで金髪を伸ばした可愛い妖精さん、ネギミ姉さんだ。

「小鬼、思ったより早くブロンズクラスになれてよかったね。私なんか6年かかったんだからね」

姉さんがほっぺを膨らませて怒ったふり。これがとってもチャーミング。

ブロンズクラスになって、こんな技も覚えたんだ。


「これからもよろしくお願いします。」

「相変わらず真面目だね。ほら、おめでとう。」

ネギミ姉さんが斜めがけのショルダーバックから祝儀袋を取り出した。

俺は正座して、両手で受け取る。

「ありがとうございます」


「それじゃあ、私も着替えるか」

そう言うとネギミ姉さんは楽屋の階段を上っていく。

女流落語家は2階の色物さんの楽屋で着替える。


さあ、ビルド亭夜の部開演!

開口一番はイワシの「転失気」

昔、お寺ではオナラの事を転失気と言った。その事を知らないくせに知ったかぶりする旦那と、丁稚の定吉が大騒ぎする落語らしい話。


2番目に上がったのはネギミ姉さん。

ネタは「ホゲ丸提灯」

前世では大きなお店の飯炊きは権助と言うが異世界ではホゲ丸。

このホゲ丸と旦那が女房とお妾さんの家を夜行ったり来たりしてるうちに夜が明けると言うオチだ。

ネギミ姉さんはこの女房とお妾さんの演じ訳がはっきりしていて面白い。

女房は意地悪く、お妾さんは可愛らしく。

女流だからこそ出来る芸。

姉さん、腕あげたなぁ。

客席に笑い声が起きる。


3番目はベテラン、ヨルダ3世先生。手品の大御所。御年78歳。高座に立っているだけで、奇跡。

だからほとんど手品はやりません。上がると、最近、歳をとって困った事をぼそぼそとつぶやく。でもその巧みな話術で客を笑わせる。

最後にトランプを出して、お客さんに1枚引かせ、そのカードと同じ数とマークを書いた大きな紙をポケットから出して終了。

客席がわーー!と盛り上がる。


そして、いよいよ俺の番だ。

ネギミ姉さんが、まだ帰らずに太鼓のそばに立っている。

楽屋の座布団には、この後出るシルバークラスの師匠たち。

肉々楼ピチピチ師匠とベジ家キュウリン師匠。

どちらも若手のシルバークラス。

毒舌のピチピチ師匠が

「小鬼兄さん、勉強させて貰いますよ、ウフフ」

とパンパンに膨らんだ、白いほっぺをぷるぷるさせてプレッシャーをかける。

白熊族の今売り出し中の師匠だ。


古典落語の王道、ベジ家キュウリン師匠は

「好きにやりな」

キリン族のひょろっと、長い首を傾けながら、興味なさそうにつぶやく。


「勉強させていただきます」

正座して頭を下げる。

俺の出囃子「鬼踊り」が鳴り響く。

「ドンガラ、鬼鬼、テテンガ、ドン」

俺は眩い高座に飛び出した。


座布団に座り、頭を上げる。

夜席がまだ始まったばかりなので、40人位のお客さん。

これが7時を過ぎれば、仕事帰りの人たちが入ってくるから、100人ぐらいに増える。

でも、今はお客さんの数など関係ない。


「この芝居からブロンズクラスになりましたヘブン亭小鬼です」

挨拶をすると、パラパラと拍手が湧き起こった。


最初は初高座は「からぬけ」をオーバーアクションでやろうと思っていたが、もういきなり新作落語をぶちかましてやる。


俺は堂々と宣言する。

「僕は新作落語がやりたくて、落語家になりました。ですので、今日は僕が作った落語を聞いてもらいたいと思います」

すると、客が

「おや?」という感じで固まった。

この異世界で、新作落語をやる落語家はめったにない。

客席のオーラがぼんやりと、黒くお客さんを包んでいるだけ。1本も立ち上っていない。


「皆さんも、寄席が終わった後に、何か美味しいものを食べて帰ろう?と思っている方も多いと思いますが、ジャパックの人はお寿司が好きな方が沢山いらっしゃいます」

ちゃんとした下調べはしてある。

この異世界のジャパック王国は、時代で言えば、前世の昭和の終わりから平成の中頃。知識も文化も食べ物もモラルも大体前世の日本とおんなじ。

もちろん、お寿司もあるし、回転寿司が繁盛している。

アイアンクラスの時に、食いしん坊の肉丸と安い回転寿司で散々食べまくった。

だからきっとこの新作も通用すると踏んだわけだ。


「でも、お寿司と言えば、海沿いの街においしいお寿司屋さんがあると皆さんわかっていると思いますが、もしすごい山奥にお寿司屋さんがあったらどうなるか?

僕はすごい山奥の出身なんで、今日は「山奥寿司」と言うお話を聞いていただきます」


これが大事。いきなり新作落語やったらお客さんが戸惑ってしまう。

だから、まず、自分が新作落語をやると言う事をきちんとお客さんに伝える

そして、どんな新作落語をやるのか説明する。

これは前世で学んだ事だ。


俺がまだ2つ目の頃、やはり古典落語全盛で新作落語をやる人間は滅多にいなかった。

それなのに、いきなり高座に上がって、自分の作ったわけのわからない新作を振り回して、どれだけお客さんを置き去りにしてきたか。


全く笑わない客を「俺の新作について来れない馬鹿な客だ」と人のせいにして全く反省しなかった。

そのうちに

「鬼助(俺の前世2つ目の名前)が上がると、客が変になるから、もうあいつを寄席に出さないでくれ」

と沢山の苦情が殺到し、俺は寄席出入り止めになった事がある。


そして、真打になって、また寄席に出るチャンスが巡ってきた。

その時、同じ轍を踏まないように、いつも寄席に出ている師匠たちの芸を横から盗み見て研究したものだ。


そこでわかった事が1つ

「客を安心させる事」

客を不安にさせると、絶対に笑わない。だから、古典落語でも、これからどんな話をするのかマクラでちゃんと説明する。


お客さんに自分の落語がちゃんと伝わるか?その場を整えるのが大事なのだ。


さぁ、俺が作った新作落語「山奥寿司」のはじまり、はじまり。

いよいよ、ブロンズクラスで「新作落語編」が始まったよ。

皆さん、落語を聞いたことがないと思うけど、できるだけわかりやすく簡潔に書きます。

YouTubeに新作落語、いろいろな落語家さんがアップしてるから暇な時見てね

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