新作落語家発見!
1日お休みして投稿します。
読み返すと、最初の思いつきで書いた設定が後半変わってるところがあるね。
なるべく読み返して訂正します。
ビルド亭、今日の代演は海ノ家クジ楼師匠に代わり、ドリーム亭清丸師匠。
初めて会う師匠だ。
トーキン落語ギルドにはシルバークラスが150人いる。
だから、3年楽屋で働いても会う事もない師匠達が沢山いる。
現世でもそうだった。
都内に4軒ある寄席だが、出演出来る真打は70人くらい。そして俺が所属していた東京落語連合には真打が230人いる。
席亭に選ばれなかった160人の落語家は寄席には出られない。
「寄席お休み」と言う「自宅待機」
その上、人気のある落語家は寄席を掛け持ちするので、なおさら寄席の出番が少なくなる。
寄席の出演枠は何人と決まっているので、その枠が同じ落語家で埋まれば、必然、出番がなくなるわけだ。
寄席の世界は、弱肉強食。
客に受けるものが残り、つまらない奴は去る。
そういう原理が、この異世界のビルト亭でもあるので、俺がまだ会った事のないシルバークラスが沢山いる。
清丸師匠も、その1人だ。
「おはよう!」
元気な声で清丸師匠が楽屋に入ってきた。
下ぶくれの顔につぶらな瞳。黒縁の大きなメガネに七三分け。どこか学校の先生に見える。
頭の上に白い大きな耳がぴょんと立つ。お尻には白いモフモフの丸い尾っぽがチョコン。兎人族の真面目そうなおじさんだ。
「俺の出番はこの後かい?」
座布団に座るとすぐに俺に聞いた。
案外、せっかちな人なんだな
「いえ、師匠。ヨルダ3世先生のお後です」
「そうか。わかった」
そう言うと、使い古した黒いビジネスカバンから手帳を取り出し、熱心にベージをめくる。
そして、黒縁のメガネをクイッと上に上げると
「小鬼だっけ?初めてだよな」
「はい、赤鬼の弟子です。よろしくお願いします」
「よろしく。お前の師匠も光之助さんの新作やっているんだろう?」
「はい、そうです」
「俺も新作落語だ。題名わからないと思うから、ちゃんと俺に聞けよ」
初めて、ビルド亭で、新作落語家に出会った。
さあ、いよいよ清丸師匠の出番だ。
渋い茶色の着物に黒い羽織。本寸法の形。
真っ白なぴょんとたった耳が良く似合う。
額に垂れた黒髪を、さっと掻き上げると出囃子に乗って高座に上がる。
客席には、バラバラと半分位のお客さん。
興味なさそうに手を叩く。
座布団に座ると
「えー、最近はトーキンでもバスは珍しくもありませんが、夜遅くの最終バスに乗り込むと、お客さんが誰もいなくて、運転手さんと2人きりなんて良くある話でございます」
バスが出てくる段階で、もうこれは古典落語じゃない。どんな話なんだろう?
「おい、運ちゃん、毎日同じコースをぐるぐると走って飽きないかい?」
「お客さん酔っ払っているんですか?運転手に話しかけちゃいけませんよ」
「おい、おい、固い事言うなよ。二人っきりじゃねーか?本音で語ろうぜ」
「本音ってね、別にお客さんに話す事なんかありませんよ」
「そんな事言うなよ。実は俺今日で定年退職っでな。さっきまで送別会で一杯やってたんだ」
「そうでしたか?それはお疲れ様でした。」
「何も知らねぇくせに、お疲れ様なんて言じゃないよ。俺は毎日毎日、満員電車に揺られて会社に行って働いて、週に1度の赤ちょうちんだけが楽しみな、そんな人生だった。課長に怒鳴られても頭を下げて。女房に無視されても、じっと耐えて。気がついたら定年退職。俺の人生もそう長くはない。。そう思うとさぁ、たまには引かれたレール以外のところを走り出してもいいんじゃねーかと思ってなぁ」
なんだ、この新作は?尾崎 豊の曲みたいだな。
「どういう事ですか?」
「だから、運ちゃんも、いつも同じコースをぐるぐる回るんじゃなくて、自分の行きたい道を進んでみたらどうだい?」
「自分の行きたい道って、そんな事したら会社に怒られますよ」
「おい、おい、会社に怒られるからって、自由を諦めていいのかい?」
「別に今、不自由じゃありませんから」
なんか、落語にしては、テーマが重いぞ。
お客さんがピクリとも笑ってない。障子路窓から覗くと、客席からオーラが1本も立ち上っていない。
「そう思ってるところが、既に会社に縛られているのさ。さぁ、運ちゃん俺と一緒に自由に羽ばたこう」
「ちょっと何するんですか?ハンドル勝手に握らないでくださいよ」
「運ちゃん、ちょっとハンドルを切るだけで、自由が待っているんだ。俺がその事を教えてやる。さぁ、羽ばたこうぜ」
「ちょっとやめてください。警察に連絡しますよ。ハンドルから手を離して」
「運ちゃん、客は俺だけだ。黙っていれば、誰にもバレない。どうだい?少しだけドライブしようじゃねーか」
「ーーーー本当に誰にも言わないんですか?実は毎日毎日同じコースで飽き飽きしていたんです。それじゃあちょっとだけコースを外れてもいいですかね」
「いいとも、運ちゃん。さぁ、自由への出発だ。」
なんだ、この無理のある設定は。それまで真面目だった運転手がなんで急に酔っ払いの言うことを聞くんだ。
そして、この話は、深夜の街をバスが猛スピードで走り回り、最後のオチが
「運ちゃん、ホラ朝日が昇ってきたぞ」
「お客さん、このまま朝日に向かって突っ走りましょう」
「良いねえ、運ちゃん、これから、俺達の新しい人生が始まるぜ、イケイケ運ちゃん」
「お客さん、フルスロットルで飛ばしますよ。そしてこのバスが朝日の中に消えて行ったと言う『バスドライバー』お馴染みの1席でございます」
馴染みじゃないのにお馴染みと言い切った。
そして、頭を下げた。
なんと客席で拍手が起きなかった。静まり返っている。
こんな事は今まで見たこともない。
お客さんは何が起こったのかさっぱりわからず、ポカンとしている。
俺には、客席の空気がカチンコチンに冷たく固まってるように見えた。
恐るべし、清丸師匠。氷の魔王。
楽屋に戻ってくると、清丸師匠が羽織を脱いで俺に渡す。
「お疲れ様でした」
「小鬼、今のネタ題名わかるか?」
最後に自分で言ったじゃない。
「バスドライバーですよね」
「残念でした。正解は『朝焼けの向こうに』 どうだい?ロマンチックな題名だろ」
いやいや、あなた「バスドライバー お馴染みの一席」って言いましたよ。
「良いか、新作落語っていうのはなぁ、客の意表を突くんだ」
いや、客をびっくりさせるのはありだけど、客がついて来れなきゃ、ただ独りよがりじゃないの?
でも、アイアンクラスの俺はそんな事は言えません。
「初めて、新作落語聞きました。すごいですね、自分で作ったんですか?」
すると、清丸は得意そうに髪を掻きあげ
「小鬼も新作やりたいのかい?だったら教えてやるよ」
おいおい、前世で300本以上新作落語を作って、三遊亭圓朝の再来とまで言われたこの俺に新作落語教えてやる?面白いこと言う兄ちゃんだ。
「本当ですか、ありがとうございます」
でも、今の俺が言えるのは、このセリフだけ。
「だったら、早くブロンズクラスになれよ。アイアンクラスじゃ新作落語出来ないからな」
おっしゃる通りです。アイアンクラスじゃ古典落語にちょっと手を加えただけで、ガミガミ文句を言われるからね。これは前世でも同じこと。
「はい、頑張ります」
しかし、この程度で威張るなんて、異世界じゃ新作落語のレベル低いのかね?
通りで、めったに寄席に出れないわけだ。
こりゃ早くブロンズクラスになって、真っ当な新作落語やらないと、異世界じゃ新作落語が消えちまうかもしれない。
ちょっと焦る俺でした。
新作落語をちょっと書いてみました。
読んでる皆さんは、もっときちんと台本通りの新作落語読みたいのかなあ?
あまり落語の部分が多くなると、落語全集みたいになるので、そのさじ加減が分かりません。
もし新作落語を読みたいな、三遊亭圓朝全集みたいにびっしり書きますよ。
でも、そうすると、俺の書きたいことがどんどん遠ざかるので、やっぱりかいつまんで書きます