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ネギミ姉さんブロンズクラス昇進

連日投稿

これからお仕事行きます。

慌ただしい、正月が過ぎ、春が来た。

そして、ネギミ姉さんがブロンズクラスに昇進した。


楽屋に入ってくると

「今日からよろしくね」

俺達に頭を下げる。

今まですっぴんだった姉さんが、うっすらと化粧をしている。

かわいい妖精から、美人妖精に変わっていた。

アイアンクラスの時は、前座部屋で洋服から着物に着替えていたが、今日は既に着物姿。

ベジ家の玉ねぎ紋(玉ねぎを半分に割った切口みたいな紋)を染め抜いた黒紋付き。

もちろん羽織も着ている。羽織紐はピンク色。そういうところが乙女チック。


「これ少ないけど」

懐から祝儀袋を出す。

「姉さん、ありがとうございます」

肉丸が両手を出して受け取る。

デビ助も俺も畳に正座して頭を下げる。

「姉さん、ありがとうございます。ブロンズクラスおめでとうございます」

「もう、やめてよ。でもーーーありがとう」

うれしそうに微笑む。

前にも言ったが、前座から2つ目に上がるのが1番嬉しい。

前世で2つ目に上がる直前、師匠をしくじって破門になった奴を知っている。


楽屋に、次から次へと師匠達がやってくる。

すると、姉さんが正座をして

「このたび、ブロンズクラスになりました。よろしくお願いします」

と、言って、手拭いを差し出す。


ブロンズクラスになると、自分がデザインした手拭いを作ることが出来る。

俺も前世で作ったなぁ。若かったから、とにかく目立つデザインがいいと、黒地に白抜きでカモノハシのイラストを書いて「古典も新作も両生類」って文字を入れた。

周りから「こんなけったいな手拭い使えるか」と評判が悪かったことを思い出す。


ネギミ姉さんの手拭いは白地に赤い水玉模様。いわゆる豆絞り。こういうシンプルな手拭いの方が、使いやすい。


姉さんから、手拭いを手渡された師匠達はあらかじめ用意していた。祝儀袋を取り出すと

「おめでとう」

と言って姉さんに手渡す。

「ありがとうございます」


この祝儀袋は、これから楽屋に来る師匠や色物の先生、みんなからもらえる。

塵も積もれば、山となる。結構な稼ぎになる。

え、ご祝儀の相場はいくらか?

下賤なことを聞くんじゃありません。でもちょっとだけ教えちゃう。

この異世界では3000ギル。銀貨3枚だ。

もちろん、売れっ子でお金があれば、それ以上祝儀を包む人もいるが、普通はこの位が相場だ。


俺が前世でも同じ位。

ここで貯めたお金は普通は着物を買ったり帯を買ったりするのだが、俺はイースター島に行くため全額使った。

だって、モアイの石像、この目で見たかったんだもん。

だから、楽屋では「鬼助(俺の2つ目の芸名)は変わり者だ」と噂されたものだ。


さあ、寄席が始まって、5本目が新ブロンズクラスの出番。

開口一番と違って、客席はもう既に温まっている。

ネギミ姉さんの出囃子「ネギ味噌音頭」が陽気に鳴り響く。

「ネギ、味噌、ネギ、味噌、ドドンガドン!ご飯のお供にチントンシャン」


「お先に勉強させていただきます」

ちょっと緊張した姉さんが、楽屋に挨拶をする。

手拭いに扇子で人と言う文字を3回書いて飲み込んだ。

「よし!」

気合一発、高座に上がる。


客席には半分ぐらいお客さんが埋まっている。

「ベジ家ネギミです。この芝居からブロンズクラスになりました」

大きな拍手が鳴り響く。

「頑張れよ」

「ネギミちゃん、可愛い!」

「待ってました、ネギミちゃん」

応援の声が飛ぶ。


「私、この日のために落語が上手くなるよう体を鍛えていたんです。扇子にバネを付けてお蕎麦を食べる仕草を何度も稽古して」

そう言うと、本当に扇子にバネと錘が付いているように顔をしかめて扇子をあげたり下げたり


「これがホントの養成(妖精)ギブス」

ドット客がが笑う。


ブロンズクラスになれば、落語前のマクラ(ネタに関係ない面白話)が許される。

こうやって、客を自分の懐に入れる。

今のつかみのギャグも姉さん、必死に考えたんだろうなぁ。


「昔から恩を受けたら、恩を返す。これはどんな種族でも、当たり前のことでございまして」

さあ、姉さんネタに入ったぞ。何やるんだろう?


「ああー博打であり金みんなすっちまった。大家に家賃払わねぇと追い出されるんだ。どうしたらいいかなぁ」

「こんばんは」

「誰だ?こんな時に。誰だ」

「エンジェルです」

「エン汁?そんな味噌汁頼んでないよ」

「違います。エンジェルです」

「ヘンゼルとグレーテル?一体誰だい?」

ガラッと戸を開ける

「エンジェルです」

「なんだい、小さな天使さんじゃねーか?何しに来たんだい」

「恩返しに来ました」


おお、これは「天札」だ。前世では天使じゃなくて、たぬきが恩返しに来るんだけどね。


「俺は天使なんか助けちゃいないぜ」

「そんなことありません。私がクモの巣に引っかかっているときに助けてくれたじゃありませんか?」

そう言うと、ネギミが背中の透明な羽根を4枚バタバタと動かす。


「あれ?天使だったの。俺はでっかいトンボかと思ったよ」

ここで客席に小さな笑い。なるほど、妖精の姿を利用したわけか。


「だから恩返しに来ました。何か困った事はありませんか?」

可愛らしく、小首をかしげる。右のほっぺたに人差し指を添える。

おいおい、妖精と言うよりも、小悪魔?

客席のおっさん達が前のめりになってきたぞ。


「困ったこともあるよ。家賃払わなきゃいけないんだけど、金がないんだ。天使ちゃん、お金貸してくれない?」

「ごめんなさい。私もお金持ってないんです。でもお金に化けることは出来ます」

「天使は化けることが出来るのかい?」

「昔から、悪魔は7化け、天使は8化けって言うでしょ。出来ますよ」

「そりゃいいや。それじゃあ金貨に負けてくれるかい?」

「お安い御用。行きますよ、エンジェルエンジェルるるるるる、ポン!」

畳の上に金貨が1枚コロコロ。

姉さんが座布団の上で丸くなる。そして両手をぐるぐる回す。なるほど金貨の転がった仕草か。誰に習ったんだろう?


「本当だ、金貨に化けたねえ、しかし本物か?」

そう言って、手拭いを4つ畳みにすると齧る仕草。

「きゃー痛い、お尻齧じらないで」

そうそう言うと、自分のお尻を撫でる姉さん。そしてオーバーアクションで客席を睨みつける。

大きな笑い声が起きる。


こうなったら、もう姉さんのペースだ。俺は楽屋の障子の隙間から客席を見る。

黒くて太いオーラが、何本も立ち上がって揺れている。

アイアンクラスの時に、1度も受けたことのない姉さんが、化けた。


姉さんの一門ベジ家は古典落語の王道と呼ばれている。

「落語は笑わせればいいってもんじゃない。きっちり筋を通せば笑うんだ」

「笑いは一度だけで良い」

代々、そんな教えが弟子に伝わる。

だから姉さんはアイアンクラスのくせに、笑いを取った。俺を怒った。


姉さんの落語は続く。


金貨になって、大家のところに連れて行かれ

「それじゃあ、今月の家賃です」

「あの貧乏人のギル公がちゃんと家賃を持ってくるなんて怪しいね。このお金偽物じゃないか」

そう言って、大家が金貨を噛んだりひねったり。

そのたびに、姉さんが口を押さえ膝立ちになったり、お尻を撫でたり、体をひねったり。

客席の笑はどんどん大きくなる。

客席のオーラが、波のように高座に寄せては返す。


さあ、いよいよ終盤。

「ただ今、戻りました」

「おいおい、戻って来て大丈夫なのか?」

「はい、大家さんが散々確かめて、金庫の中に放り込まれました。だから、大家が寝ている隙に、金庫から逃げ出してきたの。その時、横に金貨があったのでついでに持って帰ってきちゃった、てへ❤️」

客席のオーラの波がどんと持ち上がる。お客さんの頭上30センチのビックウェーブ。


へえー、こんな風に見えるんだ。


普段は1番下っ端だから、他人の高座をなかなか見ることはできない。

でも、今は肉丸もデビ助も障子の隙間から姉さんを見ている。

楽屋の師匠達も、腕を組んでじっと聞いている。

いつもざわついている楽屋が静まり返っている。


2年間、新しいアイアンクラスが入って来なかったため、長い間楽屋で働いていた姉さんの鬱憤を吹き飛ばす「天札」


「金貨が金貨を持って来ちゃいけねぇ」

オチを言って姉さんが頭を下げる。


客席に響き渡る大きな拍手。ブロンズクラスお祝いの祝儀の拍手じゃない。

面白い落語を聞いたと言う客の感謝の拍手だ。


客席で揺れる黒いオーラが一瞬、青く見えた。

あれ?目の錯覚かな?


高座を降りてきた姉さんが高座返しをするために立っていた俺にすれ違いざま言った。


「小鬼、私だって、出来るんだよ」


ネギミ姉さん、まだ俺の「からぬけ」根に持っていたんですね。


ちょっと2つ目に、なりたての意気込みみたいの書きたくなって。

しかし、まだまだ本当に書きたい事にたどり着けないよ。

早くアイアンクラス卒業しないと。

これからちょっと巻きで行きますよ。

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