ギルドカード更新
2日ぶりに投稿だよ。
寄席が終わり、トーキン落語ギルドに向かう。
「おはようございます」
大きな声でご挨拶。
「待っていたよ、小鬼君」
手前の机に座っていた、サブマスターのエリックさんが立ち上がり、僕を手招きした。
そして、1番奥にある大きな机に座った女性の前に連れて行く。
流れるような綺麗な銀髪。すっきりした鼻筋、金色の大きな瞳。ぽってりとした赤い唇。その唇の右下に、ほくろが1つ。色っぽい。
ほっそりした体型なのに、胸が大きく飛び出している。もしやこれが伝説のロケットおっぱい?
頭の上には銀色の輪っかがくるくる回っている。
超弩級の美魔女セクシー天使降臨!
「あなたが、小鬼君ね。私がギルドマスターのアンジェラよ」
俺は思わず見とれて、ぼーっとしちまった。
「おやおや、若いのにおばさん好き?」
そう言うと、片目でウィンク。
恋の矢が俺のハートにズキュン!
「マスター、からかうのは後にしてくださいよ」
エリックさんが俺の背中をドンと叩く。
「ほら、しゃっきりしろ」
やっと俺の目が覚めた。俺は1番下っ端のアイアンクラス。夢見るのはまだ早い。
「す、すいません。ヘブン家小鬼です。よろしくお願いします」
アンジェラマスターがニコリと笑うと
「赤鬼師匠の弟子になるなんて、見る目があるじゃない。しっかり修行するのよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、ギルドカード更新して」
そう言うと、自分の机の1番上の引き出しから四角い箱を取り出した。
大きさはお弁当箱位。銀色で、表面に色々な模様が彫り込まれている。
大小の○に△、その中に古代文字らしい記号がびっしり。それらをつなぐ何本もの直線。
黄金の夜明け団の薔薇十字徽章みたい。
え、なんで黄金の夜明け団を知ってるの?
こう見えても、前世、大学生の頃、タロットカードに凝っていた事があって、いろいろ研究したのよ。魔術、オカルト、UFO大好き、月刊ムー愛読者。
その上、俺の兄貴は、某大学の教授で、海の女神様や悪魔払いに詳しい異端の先生で
世界中を飛び回って研究していた。そんな兄貴にも酒のつまみに教えてもらった。
その不思議な箱をエリックさんに手渡す。
「それじゃあ、小鬼、ギルドカード更新しよう」
俺の肩を叩くと、美魔女天使の前から引き剥がす。
自分の机に座ると、銀色の箱を置く。
「さぁ、ギルドカード出して」
俺はポケットに入れていたカードをエリックさんに手渡す。
箱の短い面にカードの差し込み口があり、その中に俺のカードを差し込む。
すると
「ウィーン」
微かな音がして箱が青白く輝く。
すると、俺のカードが箱の中に引っ張り込まれた。
「win win win win…」
2分ほどでカードが出てきた。そのカードを引っ張り出すと
「どれどれ?」
エリックさんが先に見る。
「フムフム」とうなずくと俺に手渡す。
早速見てみよう。
名前 ヘブン家小鬼
年齢 19歳
職業 落語家 アイアンクラス
MP 6
スキル 言霊Lv2
高座度胸 Lv4
落語技術 Lv1
国籍 ジャパック王国
名前がポテトンと言う俺の本名(まあ、適当に考えたのだが)が消えて芸名になっている。
これは納得できる。前世でも落語家になったら本名なんて、めったに会わない友達位か病院でしか呼ばれない。
普段は「鬼切」「師匠」「兄さん」「おい」この4つで事足りる。
年齢が19歳と言う事は、異世界に来て2年が経ったと言う事だ。ここまで来るのが長かったのか短かったのか、今はわからない。でもまだ19歳。若いって素晴らしい。
職業が落語家。そしてまだ前座なので、アイアンクラス。きっと2つ目になれば、ブロンズクラスと変更されるのであろう。
これで、この異世界で、落語家として認められましたよ、神様。やっと第一関門突破。
魔力MPが5
以前オーラ感知玉で測った時は4だったから、1上がったって事かな?でも3ヶ月で1って大丈夫なのであろうか?
言霊レベル2
自分の落語をお客さんに伝える大事なスキル。楽屋に入ったばかりの時はレベル1だから、これも1つレベルが上がった。開口一番を30回やったおかげです。
そして高座度胸 これが一気にレベル4
からぬけでお客さんを笑わせたから?それとも前世の経験が少し加わたのか?
自分では、ネギミ姉さんに怒られたので、あれ以降、おとなしく落語をやっていたのだが、この銀色の箱は、騙されないのかな?
落語技術レベル1
はい、すいません。異世界でも、仕草も目線も全部自分勝手にやってます。教えてもらっても覚えられないんだよね。
それに俺、こうしなさいと言われると、どうしても違うふうにやりたくなっちゃう天邪鬼。もう落語技術は期待しません。
「まあ、アイアンクラスじゃぁ普通だな」
エリックさんが興味なさそうに言う。
「しかし、高座度胸だけはあるのか?1人でトーキンまで来たから、度胸はあるんだな」
「普通はどのくらいですか?」
「まあ、3ヶ月ならレベル2ってところか?」
そうなると俺はその2倍レベルが上と言う事だ。これからどうなるか楽しみ。
「まぁアイアンクラスならスキルもこのくらいだけど、ブロンズクラス、シルバークラスになるに従ってスキルも増える。どんなスキルが手に入るか努力次第だからな。」
そうか、俺がまだ知らないスキルがまだまだたくさんある。一体どんなスキルが手に入るか楽しみだな。
前世の落語家時代は、なんとなく経験でわかっていた事が、異世界ではきちんとスキルで表示される。まさしくファンタジー。
「よし、これで終わり。ギルドカードは大事だから無くすんじゃないよ」
「分りました」
「そうだ、師匠にはちゃんと報告しとけよ」
気づかなかった。そうか、これで俺も落語家と言う職業になれたわけだ。
「ありがとうございます」
お礼を言って、俺は落語ギルドを後にした。
トーテム街の師匠の家に着いた時には真っ暗になっていた。
「おはようございます」
夜でも、落語家の挨拶は「おはようございます」
家の中は真っ暗で返事がない。
いつもの居酒屋に行っているのだろう。
家から15分ほど歩いた場所にある商店街の片隅に、その居酒屋はあった。
表にかかった木の看板には「馬角家」と書いてある。
曇ったガラスの格子戸を開けると
「いらっしゃい」
元気な声で迎えてくれる。
白くてモコモコの髪の毛。両脇からホルンみたいな形の角がニョッキリと生えている。小さなつぶらな瞳。
羊人族の女将さん、メーアンさんだ。
「あら、小鬼じゃないかい?どうしたんだい」
「師匠来てますか?」
「ああ、いるよ」
すると、カウンターの中にいた大将、馬人族のバッファさんが長い首で、カウンターの奥を指す。
「なんだ、小鬼?どうした」
焼酎のお湯割りで真っ赤になった赤鬼が振り返って俺を見る。
「実は今、ギルドカード更新したんです」
「ホー見せてみろ」
俺は師匠の横に行くと、ギルドカードを差し出した。
「どれどれ?職業欄にちゃんと落語家って出ているじゃねーか。高座度胸がレベル4?何かの間違いじゃねーか?」
さすがにそこ指摘しますよね。
「僕もよくわからないんです。普通に高座上がっていたんですが」
すると、師匠が俺をにらむ。
「お前、俺に習ったって嘘ついて変な「からぬけ」やったらしいじゃねーか」
あれ、なんで知ってるの?
「この前、ツルピカさんがこの店に飲みに来たんだよ。その時『師匠の弟子の小鬼、面白い「からぬけ」やりますね』って言われたんだ。それで俺はピーン時た。(あの野郎、勝手に教えてもいねえ事やりやがったな) ってな」
まさか、ツルピカ師匠もこの店の常連だったとは気づかなかった。
「すいません。高座に上がったら、緊張して訳わからなくなっちゃって。自分もよく覚えてないんです」
嘘です。確信犯です。でも「自分で考えてやりました」なんて言えません。だって俺は落語経験のない素人と言う設定ですから。
「実はこの異世界に生まれ変わる前は芸歴37年の落語家でした」
なんて言ったら
「こいつは頭がおかしい!破門だ」
と言う事になる。
「覚えてないだと?本当か?」
疑いのまなざし。
「本当です」
ここは力技で押し切る。
「わかったよ。でも、お前を見てると、なんか場慣れしててるんだよな。時々俺の先輩じゃねーか?なんて思う事もあるんだ」
おや?赤鬼師匠、感が鋭いいのね。
「まぁまぁ、立ち話もなんだから、小鬼も座りな」
メーアンさんが空いている隣の席を進めてくれた。
「でもさぁ、やっと、職業欄に落語家って載ったんだから、めでたいじゃないか。
ほら、一杯やりなよ」
俺の手にグラスを持たせて、ビールを注いでくれた。
「すいません、俺酒飲めないんで」
本当はお酒大好きです。その上、若返ったから肝臓も毒が抜けて肝機能正常値。
でも、師匠の前で、酒を飲むとろくな事は無い。
前世で嫌と言うほど知ってます。
「落語家が何野暮な事言ってるんだよ。「酒なくて、何の己の花見かな」って言うじゃない、ねぇ師匠?」
いやいや、お花見じゃないんですけど。
すると、赤鬼が
「1口位なら飲めるだろ。祝い酒だ」
そう言うと、自分のお湯割りをぐびりぐびりと飲み干した。
今、祝い酒って言ったよね?話の矛先が変わったので、俺もその流れに乗る。
「ありがとうございます」
そう言うと、グラスに口をつけ、すするようにビールを飲む。
「ぐぐぐぐ、グビ、グググビ」
半分ほど飲むと、グラスをカウンターに置き
「ふうーーー」
と、大きく息を吐き
「師匠、これからもよろしくお願いします」
すると、赤鬼が
「仕方ねぇなぁ。小鬼、調子に乗るなよ」
「はい、あーーー目が回る」
そのままカウンターに突っ伏した。
「おやおや、本当にお酒に弱いんだね、小鬼は」
メーアンさんが呆れて、俺の肩を叩く。
いやー酒に弱いふりをするのも大変だよ。
でも、まぁこれでピンチをしのいだ。
アイアンクラスの時は、もうおとなしくしてましょう。
心に誓った俺でした。
前座のうちは、とにかく師匠をしくじらないように!




