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調子に乗りました!

連日投稿!

書けるうちに。

高座から降りるとウードンが怖い顔で睨んでいる。

「兄さん、お先に勉強させていただきました」

「おい、誰に習ったんだよ」

「えっ?」


そこで俺は気がついた。

オーラを検証したいために、アイアンクラス成りたての奴がやる芸じゃなかった。

「調子に乗るなよ」

ドスの効いた声で言うと高座にさっさと上がっていく。


楽屋ではデビ助がツルピカ師匠の着替えに付いていた。

すぐに正座して頭を下げる。

「師匠、お先に勉強させていただきました」

「ガハハハ、兄ちゃん面白い落語やるね」

「ありがとうございます」

「赤鬼師匠から教わったのかい?」

「からぬけ」は教わったが、こんなやり方は教わってない。

客の様子を見ながら、アドリブでやったのだ。

客のオーラは、どうやったら、どう変化するのか?

しかし、シルバークラスの落語家だってめったに出来ないことを俺が自分で考えてやりましたとは言えない。

「はい、師匠から教えてもらった通りにやりました」


すいません、自分の身を守るためです。ごめんね、赤鬼。

「そうかい、赤鬼師匠も面白いこと教えるね」

「ありがとうございます」

それ以上は聞いてこない。ほっとして廊下の奥にある前座部屋に行く。扇子と手拭いを自分の鞄に仕舞うためだ。


「小鬼、本当に赤鬼師匠から習ったのかい?」

ネギミ姉さんが下から俺を睨む。

いつも間にか姉さんが後ろに立っていた。


「ーーーはい」

「私は3年前、赤鬼師匠から『からぬけ』習ったけど、あんな風には教えてもらってないよ」

「いや、師匠が『アイアンクラスでもお客さんを笑ってもらえるように考えてやれ』

と言われたんで」

「じゃあ何かい?あの牛やアナゴの仕草はお前が考えたのかい?」

「ーーーはい」

ネギミ姉さんが腕を組む。4枚の羽根がゆっくり動く。


「いいかい?お前はまだ楽屋に入ったばかりなんだ。そういう事はブロンズクラスに上がってからやりな。アイアンクラスは料金の他なんだ。客を笑わせなくたっていいんだよ」

ハハハ、前世の頃と一緒だ。

「すいませんでした。もうやりません」

「余計な敵作るんじゃないよ」

そう言うと、前座部屋を出て行った。


ああ、やっちまったよ。

でもネギミ姉さんがわかったのは、牛やアナゴの大げさな仕草だけ。

声のトーン、間の取り方、そして緊張と緩和。客を操るテクニック。

もっと大事な事はわからなかったのね。まぁしょうがない。


落語家は上がった階段の景色しか見えない。まだアイアンクラスの階段しか上がってないネギミには100段以上、上にいる俺の景色は見えない。

これから頑張るんだよ、ネギミちゃん。


楽屋に戻るとツルピカ師匠のお後に上がるアニマル亭フーミン師匠が入って来た。

カバ人族の師匠だ。フーミンと言うよりムーミンそっくり。

「ご苦労様です」

「はい、ご苦労さん」

カバンを受け取り、コートをハンガーにかける。

さあ、今から一番下っ端としてコマネズミのように働きますよ。

「おい、小鬼、フーミン師匠は冷たいお茶だ」

はいはい、わかってますよ。デビ助兄さん。


昼席が終わり、ビルド亭の楽屋口から帰ろうと扉を開けると

「おい、小鬼、ちょっとお茶でも飲んでいかねーか?」

肉丸のチャウチャウみたいな顔が待っていた。

「あ、ありがとうございます」

「聞いたよ、お前内弟子じゃないんだってな?」

内弟子とは師匠の家に住み込んで働く弟子の事だ。


「はい、師匠が『家が狭いから通いで良い』って言われて」

「うらやましいなぁ。俺は住み込みだし、夜は師匠がやっているスナックでこき使われて自由がないのよ」

「今日は戻らなくていいんですか?」

「ああ、師匠が夜仕事でいないから、店も休み。久しぶりの休日だよ」

そう言うと、とっとと歩き出しビルド亭近くの「ポパイ食堂」に入る。


「兄さん、お茶じゃないんですか?」

「お茶もするけど、まずは腹ごしらえだよ」

なるほど、だからこんなに太っているのね。

蔦で覆われた扉を開けると、1番奥の4人掛けのテーブルに座る。

「好きなもの食べていいぜ。あ、お姉さん、注文いいかなぁ」

長い金髪の髪をなびかせて、きれいなエルフのお姉さんが近づいてきた。

「俺は、ハンバーグ定食とナポリタン。それと、チーズグラタンね。アイスコーヒーは食べた後に持ってきて」

食べ過ぎだろう?肉丸が肉肉肉丸になっちゃうよ

「お前も好きなもの注文しろよ」

「ありがとうございます。それじゃあ俺もナポリタンとコーヒーください」

肉丸ってここの常連さんなのかな?エルフのお姉さん、全く表情を変えずに注文とったよ。普通こんなに1人で食うなんてびっくりするよね。

太っているから、汗かきなのか出されたおしぼりで、顔を拭きまくる。


「しかし、今日の『からぬけ』最高だったな」

「えっ?」

「小鬼、ネギミ姉さんに怒られたろう」

なんで知っているんだ、この肉の塊が?

「お前の『からぬけ』聞いて姉さん青い顔していたよ」

金髪の妖精が青い顔?アメコミのモンスターかよ?


「どうしてですか?」

「そりゃ、アイアンクラス成りたてのお前があんなに受けるんだから、そりゃ驚くよ」

「そうなんですか?」

「お前はわかってないなぁ。ネギミ姉さん、もうすぐブロンズクラスになるって噂もあるんだ」

「ええ、そうなんですか?」

「今まで楽屋に入ってくる奴が2年間いなかった。だから姉さんもう5年もアイアンクラスなんだよ」

そりゃ長い。前世の前座でも4年で2つ目になれる。

「だから、姉さん、俺たちに『今度入ってくる新入りいじめるんじゃないよ』ってわざわざ釘を刺したからな」

なるほど、だから、最初に会ったときに

「クビになるんじゃないよ」

って言ったのか。俺がクビになったら、ブロンズクラスがまた遠のくもんなぁ。


「お待ちどおさま」

美人エルフのお姉さんが、両手のお盆いっぱいに料理を運ん出来た。

「まぁ話は食った後からだ」

テーブルに置かれたハンバーグ定食、ナポリタン、チーズグラタンを舐めますように見ると、メガネを外す。

「湯気で曇って、料理が見えなくなっちゃうからな」


割り箸を割ると、大きなハンバーグにかぶりつく。すぐに白飯。

しばらく噛んでいたかと思うと、全部飲み込んでないのにナポリタンをすすり込む。

そして、スープがわりに、チーズグラタンをスプーンで流し込む。


肉丸君、今若いからいいけど、50過ぎたら絶対糖尿病になるからね。その時後悔しても遅いよ。


俺もフォークでナポリタンを食べてみた。異世界なのに何故か懐かしい昭和の味。

「どうだ、小鬼、ここイケてるだろう」

確かに、イケてるけど、あんた味よりも量じゃないの?


俺がナポリタンを食べる終わると同時に肉丸も3皿食べ終えた。

口の周りのソースとケチャップをおしぼりで拭く。白いおしぼりが茶色、赤、黄色に染まっていく。

今度生まれ変わっても、絶対肉丸のおしぼりになりたくない。

「ふうー」

満足げにため息をつくと

「お姉さん、アイスコーヒーお願い」


テーブルにアイスコーヒーと俺のホットが運ばれてきた。

ガムシロップをたっぷり入れて、ストローでかき混ぜる。

「ズズズズズズーー」

半分ほど、一気に飲むと


「ネギミ姉さんは今まで高座で1度も受けたことがないんだ」

肉丸が悲しそうにそうつぶやいた。

「だからお前が受けているのを見てショックを受けたんだよ」


えーと、なんて答えればいいんだろう?

前座の頃ってなんで受けないか?

わからないんだよなぁ。


おかげさまで500人以上の人に読んでもらっています。

小説家になろう。でも、異世界で落語って珍しいよね。

投稿の期間が空いても、続けますのでご心配なく

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