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ビルド亭開演!

ゴールデンウィークですね。

どこも人でいっぱい。

俺はなぜかゴールデンウィークも働いています。

だから更新は3日4日かかります。

 陽気な三味線と太鼓の音色で、開口一番が出てきた。

 異世界では、アイアンクラス、俺がいた現世では前座さん。

 茶色の地味な着物に白い帯。五分刈り頭にモフモフの茶色な耳。小さなお目目の太っちょさん。犬人族のお兄さんみたい。

 めくりに「ミート家肉丸」と書いてある。

 座布団に座り、頭を下げると

「昔からつけ焼き刃は、はげやすい、なんて事を言いましてー」

 いよいよ落語が始まったぞ。

「ご隠居さんいますか?」

「誰かと思ったらギル公じゃないかい、どうしたんだ?」

「実は、友達のところに子供が生まれまして。それで誕生祝いに祝儀を取られちゃったんで、取り返す良い方法はありませんかね?」

「取り返すなんてセコい事を言うんじゃない。子供を褒めてあげなさい」

「子供を褒める?どうやって褒めたらいいんです?」


 なるほど、これは「子ほめ」と言う落語だ。

 現世の時も前座さんが良く話す前座話。

 この「子ほめ」と言う話はオウム返しと言って習った事を間違える。落語の中では、オーソドックスな手法だ。

「青菜」「天災」など有名な古典落語が幾つもある。

 しかし、いざオウム返しの落語を作ろうと思うと、間違えるための仕込みを考えるのが難しい。

 例えば「番頭さんはお若く見える、厄(42歳)そこそこ」とお世辞を習っても間違えて「番頭さんは百そこそこ」と言って失敗する。

 この場合、厄と百、似ている音感を探すのが大変だぜ。ただ、似ているだけじゃない。そこに笑う要素がなければダメだ。

 だから、江戸時代にオウム返しの落語を作り上げた人は、正しく創作落語の天才だ。


 しかし、現世では、江戸時代の創作した落語家の事など誰も気に止めない。

 元からそこに古典落語の教科書があったように思っている。

「子ほめ」が書いてある落語の台本を覚えてやるだけ。それがたとえ先輩から3返稽古で教わっても台本がある事に変わりない。

 誰も「厄」の似ている音で笑いを取る「百」を探し当てる苦労などしてない。

 だから、時代が変わって、受けなくても「習った通りの伝統だから」それで笑って済ましてしまう。

 そんな奴らが苦労して0から落語を作っている俺を「くだらない」「あんなの落語じゃない」と馬鹿にするのは、おかど違ってもんだぜ。


 おっと、しまった。昔のつまらない事を思い出したら肉丸君の落語が終わってしまった。

 たいして、受ける事もなく前座が下がる。


 次に高座に上がってきたのは、切符を売ってくれたノリコ姉さんと同じ狐人族のお姉さん。おかっぱ頭の黒髪から茶色い尖った耳がピンと立っている。

 めくりには「アニマル亭おこん」・・・・狐だから?

 へー、異世界にも女流の落語家さんがいるんだ。


 俺が現世にいた頃は、30人ほど女性の落語家さんがいた。先輩が3人で、後はみんな後輩。

 俺が前座だった昭和の頃「落語の世界は、男の世界」と言われていた。

 その当時の寄席の客も「古典落語命」のガチガチの爺いやおっさんばかり。

 女性が落語をやるなんて、師匠も客も認めてない時代だった。

 だから、俺の先輩の姉さんたちは、とても苦労して真打ちになったのだ。

 今じゃ言えない、セクハラやパワハラ、モノハラはびこっておりました。

 落語漫画にあるような綺麗事じゃ決してありませんよ。

 今の時代だったら、少なくとも20人は訴えられるね。

 姉さんたちが、やっと真打になり寄席に出るようになったが、そのうち2人は結婚して子供が出来てやめてしまった。

 昔は育休とかなかったからね。女性に厳しい時代だったよ。

 だから、俺が生きていた頃は先輩の姉さん、1人が頑張って、その後に大勢の女優の落語家さんが生まれたわけだ。

 何でも先頭に立って、道を切り開くと言うのは大変なのさ。


 高座に上がった狐人族なのに、丸顔のおこんさん。2つ目、いやこの異世界では、ブロンズクラス。草色の着物に青い羽織が似合ってます。

「昔から小児(しょうに)は白き糸のごとしと申しまして、お子さんは真っ白な糸のようだったといいます」

 子供が出てくる話をするんだな。

「おっかあ、すまねえが羽織を出してくれ」

「お前さん羽織なんか着てどこへ出かけるんだい?」

「ミカエル様に行ってくるんだよ」

「ミカエル様って言ったら今年最初のファーストミカエル様じゃないかい?賑やかなんだろう。せっかくだから、エマちゃん連れてっおやりよ」

「馬鹿な事言うんじゃねーや。エマなんて連れてってみろ。あれ買ってくれ。これ買ってくれってうるさくてゆっくりお参りもできねーや」

 これもしかして?「初天神」って落語?「天神様」が「ミカエル様」って、神様、異世界の落語の設定大丈夫なの?


 おこんさん、一生懸命子供が屋台の団子を欲しがるところ、オーバーアクションで演じていますが、どこか空回り。お客さんも笑いと言うより失笑。


 次に出てきたのがいよいよ真打、シルバークラス。

 歳の頃は、40歳位のニコニコしたおじさん。金髪の坊ちゃん刈りで尖った耳がぴょんと真横に飛び出している。エルフ族の落語家だ。

 めくりには「ベジ家カボ蔵」と書いてある。

 座布団にゆっくり座ると、客席をぐるりと見回して

「落語をするにはお客さんが多すぎてもいけません。でも1人2人じゃ寂しすぎる。今日位がちょうどいいんでございます」

 今までおとなしかった、客席にわーっと笑い声が響く。

 へえーさす真打、シルバークラス。一瞬で客の心をつかんだね。

 改めて客席を見回すと、左右の桟敷席に5、6人。真ん中の椅子の席にはバラバラと30人位のお客さんが座っている。

 日曜日だと言うのに、まだ始まったばかりだから少ないのだろう。


 そもそも寄席と言うのは、お客さんで満席になるなんて滅多にない。平日だってやっているんだ。

 普通の人は働いているんだから客が少ないのは当たり前。

 俺が現世にいた頃は、夜席のトリに若手真打を抜擢して、応援している寄席もあったが、コロナが収まったばかりなので、夜出歩く人が少なく客席にお客さんが10人しかいなかった、なんてざらにある。

 だから、満員の客を笑わせるよりも、少ないお客さんをどう安心させて笑わせるか、

 これが難しいのさ。


 ガボ蔵師匠がゆっくりと喋りだす。

「昔と今で違う商売と言ったら、お蕎麦屋さんですな。今のお蕎麦屋さんはお店を構えてますが、昔のお蕎麦屋さんは屋台で売り歩いていたそうでございます」

 おっと、古典落語の代表作「時そば」ですか?

「そば〜〜う」

「お蕎麦屋さん、寒いね。何ができるんだい?」

「へえ、かけそば、月見そば、天ぷらそばもできますよ」

「急いでいるんだ、かけそばもらおうか」

 何が驚いたって、異世界にもお蕎麦屋さんありました。俺も早く食べてみたいなぁ

「蕎麦屋さん、お前さんの行灯変わってるね。ハートに矢が当たってなんて言うんだい。」

「へーー、ハートに矢が当たって『キューピッド』って言うんです」

 おい、おい、ここは的に矢が当たって当たり屋って言うところだろ。ハートに矢が当たってキューピット?これには思わず笑っちまったよ。


「へーお待ちどうさま」

「うまそうだね、まずは汁を飲ませてもらおうか。『ズズズーー』 おい、おごったね。出汁はゴロ節かい?」

「へーよくお分かりで」

 そばを食う仕草は一緒だけど、ゴロ節って何の節?だめだ、ツボにはまって笑ってしまう。

 さすがシルバークラス。異世界ギャグで結構面白い。

 それから、何人もの異世界落語家さんが高座に上がる。


 そして、いよいよ最後に、この芝居の昼トリ「マウン亭ゴリ朝」師匠の高座だ。

 黒紋付を着たデップリ太ったおじいちゃん。ごつい顔に、大きな鼻があぐらをかいている。どう見ても、この人ゴリラ族。


「一杯のお運びでありがとうございます。落語の方ではよくお酒の話が出て参ります。ある男が『俺は酒でしくじってばかりいるから、一年間禁酒する』そう言うと、友達が『だったら2年間禁酒する事にして、夜だけ飲むっていうのは』『それはいいね、だったら3年禁酒して朝晩飲もうか』これじゃぁ何にもなりませんで」

 お酒の話か?何するんだろう?


「あるところに酒好きの親子がおりまして。でも、酒で商売をしくじってしまいます。そこで親子で禁酒しようと誓いを立てるんでございますがー」

 おお、『親子酒』これも寄席でよく聞く落語だ。


「婆さん済まないか、寒いから一杯おくれよ」

「だめですよ。おじいさん、息子と飲まないって約束したじゃないですか」

「そんな事言わないで。私は歳で、もう楽しみが何もないんだ。お願いだ。一杯だけでいいからこの通り」

「しょうがありませんね。一杯だけですよ」

「しかし、おじいさん、一杯で済むわけにはいきません。もう1杯もう1杯」

 最後にはベロベロになって

「婆ぁあーーとっとと持ってこい」

 そこにせがれが帰って参りまして

「おと〜っちゃん、ただいま〜〜帰り〜ました」

「なんだ、せがれ。ぺろぺろ〜じゃないか」

「すいません、トミン屋の旦那に誘われたんで、つい」

「親子の〜約束を〜〜忘れる〜とは。こんな〜〜 奴にうちの……お店がゆずれますか?

 あれ、婆さん、せがれの顔見てください。4つにも5つにも見えますよ。こんなヒュドラみたいなせがれに店がずれますか?」

「ハハハ。おやじ、俺だってこんなにぐらぐら揺れる店なんていらねーや」

 えーと、オチは一緒なんだけど、ヒュドラってなんですか?

 異世界のダンジョンの最下層にいる首を全部一気に切り落とさないと再生してしまうと言うボスモンスターでしょうか?


 こんなおじいちゃんが、ヒュドラと言ったので、笑ってしまったが、この人の弟子になろうとは思わなかった。

 それから、夜席を最後まで見たが俺が望む、師匠は1人もいなかった。


「おいおい、そもそもどんな人に弟子入りしたいんだい?」

 みんなのツッコミが聞こえてるよ。


 しょうがないなぁ、俺が37年間落語家として過ごして、来世では、こんな人の弟子になりたいと思っう、そんな落語家の条件を教えてやるぜ。

やっと落語の話が書けるので長くなってしまいました。

でも、小説家になろう読んでる人で、落語なんかに興味ある人いないよね

なので、初心者にも少しはわかるように書いてみました。

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六十過ぎてますが、転スラ以来転生物にはまってなろう、カクヨム、アルファ読み漁っていますし落語大好きで、東北在住だけどコロナ前は2ヶ月に一度の頻度で東京行って寄席やホール落語に行ってました。よってたかっ…
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