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異世界で落語家になるには?

地方仕事で忙しくやっと更新。

お待たせしました。って待ってないか?

「そのージェネラルって偉いんですか?」

そば吉さんはフフフッと薄ら笑い。

「そりゃ、偉いよ。寄席の経営者だもん。売れてる師匠だって逆らえば出してもらえないからな」

なる程、でも逆らうって何するの?例えば出番少ないからもっと増やせ!とか出演料が少ないから倍にしろ!とか?ジェネラルに直談判?

「そ、そんな事言えるか。まあ皆んなジェネラルに気にいってもらいたいの。お前みたいな素人は分かんないんだよ。芸人の苦労が」

いや、俺も現世でジェネラル、いや席亭に嫌われて寄席出入り止めになった事があるからわかるんだけど。

「すいません、生意気言って」

ここは一旦引き下がる。


「おう、そんな事よりどうやったら落語家になれるか教えてやれよ」

ガゼットさん、ナイストス!

そば吉さん、コップを掴むと俺を見つめる。

「そりゃまず自分が弟子になりたい師匠を探すんだな。その師匠の芸に惚れ込むって言うかな。そして決めたら弟子入りをお願いするんだな」

はいはい、現世でも弟子になるにはその方法が王道だよね。他には

①落語教室を開いている落語家がそのまま生徒を弟子にする。

②可愛いから落語家になれば売れて師匠がウハウハになれそうだからスカウトする。③お父さんが落語家、おじいちゃんが落語家だからなりました。

④何をやっても上手く行かず人生に絶望した42歳が偶然見たテレビで出っ歯の落語家が捨て犬を拾った話をしているのを聴いて「僕も拾ってもらおう」と家に押しかけ

「弟子にしてくれないなら自殺します」と師匠を脅して入門する。

まあ、俺の経験で知ってるのはこの4つだな。


そば吉さんコップの魔王をグビリと飲む。

「それで、お前、知ってる落語家いるのか?」

「知っていると言うか、村の図書館でよく読んでたのは「マウン亭青空落語全集」ですけど」

「おいおい、青空師匠は、長い落語の歴史の中でもたった3人しかいないゴットクラスの一人、カザーム朝落語中興の祖と言われている大名人だぞ。落語家なら誰でも知ってるさ。そうじゃなくて実際見た事がある人だよ」

「僕、まだ落語見た事無いんです」

それよりもカザーム朝って何時代だよ?

「まあ、山奥で暮らしてたからしょうがないか」

「なあ、一度、ビルド亭連れてってやってくれよ」

ガゼットさんがそば吉さんのコップに魔王をドブドブ注ぐ。

「ポテトンは日曜日休みなんだ」

そば吉さん、コップの酒を口を付けて啜ると上目遣いで俺を見る

「しかたねえなあ。それじゃ今度の日曜日連れてってやるよ」

「ありがとうございます」

俺はペコリと頭を下げた。

そして下を向いたままニヤリと笑う。

(これで第一関門突破だぜ)

 

待ちに待った日曜日、俺はテクテク、ビルド街まで歩いて行く。トーキンは俺がいた東京をズーーとコンパクトにした感じかな?

コリン街を西に向かって歩き、お役所が立ち並ぶオーチュ街を過ぎると石造りのビルが沢山見えてくる。ビルと言っても高くて5階。広い石畳の道の両側にズラリと並んでいる。

そしてそのビルの合間の細い路地には洋服屋や居酒屋、そして真っ赤な唇の看板?ケバい怪しげな店もチラホラ。

そば吉さんがから教えてもらった通り、大きな交差点を渡り、一本目の道を左に曲がると賑やかな通りに出た。

居酒屋、ホルモン屋、イタリアンみたいな店?とにかく飲食店がひしめいて、まだお昼前だと言うのに大勢の人が楽しそうに飲んでいる。

日曜日だから昼酒OK?


そしてその雑踏の中にビルド亭が建っていた。

レンガ造りの2階建て。屋根はお城の天守閣みたい。赤いレンガには緑の蔓が絡まって歴史ある教会だなあ。

でも正面上に「本日の出演者」と書かれ、芸人の名前を書いた木の板がズラリと並んでいる。

その下にガラスの引き戸があり、どうやたらここが入り口らしい。

その前に、着物姿の堕天使、そば吉さんが立っていた。

「おう、ポテトンこっちだ」

大きく手招きする。

「そば吉さん、お待たせしました」

「待ってないよ。まだ開演前だしね。ようこそ、ビルド亭へ」

酔ってない堕天使は優しい。

そう言うと、入り口隣のチケット売り場のおばちゃん(ツンと澄ました狐族、目が吊り上がってます)に

「学生料金にしてあげてよ、ノリコ姐さん」

「なんだい、そば吉の知り合いかい?だったら招待券にしてあげようか?」

「いや、ちゃんと払いますよ」

懐から銀貨2枚を取り出すと差し出した。

「ふーん、義理堅いね」

「いや、もしかしたらこいつ後輩になるかもしれないんで」

「ええ、この子、落語家志望かい?」

「いや、なりたいと言うだけで生で落語見た事ないんですよ。田舎の子でーー」

「そうかい、まあ無理だと思うけどーーゆっくり見てきな」

無理って何が無理なのよ。落語家入門試験があるのかな?だったら俺楽勝だよ。死ぬ前の芸歴37年ですから。


細長い紙切れに「ビルド亭満員御礼」と印刷してあり今日の日付スタンプを狐目おばちゃんがトンと押してくれた。

そば吉さんが俺の肩を抱くと

「それじゃ、昼夜入れ替え無しだから好きなだけ見てれば良いさ。俺は出番終わったら帰るけどな」

そう言うと

「それじゃ、またな」

俺の背を押した。


木の扉を押すとビルド亭が見渡せる。

客席は薄暗い。壁にグルリと提灯がぶら下がっている。

中は木で床は石造り。左右に板敷の桟敷席があって、座布団が載った座椅子が並べてある。

真ん中は椅子席だ。両端に椅子が3列づつ、真ん中は5列。縦に20席並んでいる。

桟敷も合わせれば300人は入れそうだ。

全体的に古臭い。俺の感覚だと昭和レトロ。


まだ緞帳は降りていた。

灰色の厚手の布で金糸で太陽が描かれているが長年の汚れなのか燻んでいる。

まあ、これも言い方を変えれば「歴史を感じる」と言うものだ。

俺は後ろから3番目の左通路側の席に座る。

入り口に置いてあったパンフレットを見る。

昼夜、ズラリと芸人の名前が載っている。

昼席20人、夜席20人 合計40人の芸人が出るわけだ。


俺が現世の頃も同じ位の芸人が一軒の寄席に出ていた。

そして現世で寄席は都内に4軒あった。

そのうち落語東京連合の芸人が月替わりに出られる寄席は2〜3軒。

と言う事は寄席に出られる芸人は20人から30人。


しかし俺が所属していた落語東京連合だけで300人の芸人がいる。その中で落語家真打220人。

と言う事は190人以上の真打落語家が寄席に出られず自宅待機。

これが俺が生きていた時代の現実である。

そしてその寄席に出られない流派や一門もある。

みんなの中で「寄席って落語家さんが順番に出られるんじゃないの?」

大きな間違いだよ。まさしく寄席は弱肉強食なのだ!


そんな事をボーと考えていたら太鼓がなった。

聞いた事がないリズムだがこれが現世の二番太鼓だろう。

一番太鼓は寄席の開場と共になるからもうすでに打ち終わってたはずだ。現世通りの寄席のしきたりならね。

寄席の開演を知らせる太鼓が二番太鼓。お芝居だったら開演のベルだな。

やがて三味線の音色が響き太鼓の陽気なリズムが聞こえて来たよ。

さあビルド亭が始まるよ〜!


飛行機の中で書いてみたよ。

案外集中して書けるね!

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― 新着の感想 ―
読んでて吹き出してしまいました。 ④はピンポイントで『なまはげ落語』の方以外いないじゃないですか(笑)
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