7話「のろけ話」
翌日、詩織は登校時に周囲を何度も注意深く窺うもの大輝の姿は見当たらなかった。
「どうしたの、そんなにキョロキョロしちゃって」
隣を歩いていた梨奈が訪ねる。
……変に思われないように気を付けたつもりだったけど、やっぱり変だったかあ。
ため息を吐きながら正直に昨日の事を話そうとした時だった。
「もしかして潤先輩と一緒にいるのを誰かに見られたとか? 」
「そ、そんなんじゃないよ」
梨奈の問いにドギマギしながら答える。実際そこに関しては誤解なのだが同時にそれも不安要素といえば不安要素だなと感じた。
……でも、大輝先輩の事は気のせいかもしれないからここはそういう事にした方が良いかなあ。
「ごめん、実はそうなんだよ」
「嘘を吐くなんて悲しいなー」
梨奈が冗談交じりに言う。
「でも梨奈だって昨日急に1人で帰って……そもそも梨奈が残ってくれていたらあんな状況にはならなかったんだよ」
「確かにそうなったら私達と先輩の3人で帰っていたかな」
「それはそれで厳しいね……」
梨奈の返しも一理あると納得を示す。
「それで、どうすれば良いのかな」
「堂々としていれば良いと思うよ。先輩としてテニスの特訓に付き合って貰っただけなんだから」
……どうしよう、莉奈はワタシがテニス見た後帰って貰っただけだと思ってるんだ。
さらりと言う梨奈の反応を見て詩織は悟り思い切って告げる。
「それが、それだけじゃなくて……お家まで送って貰ったの」
「え、詩織の両親共働きだよね……と言う事は」
「そこまでは行ってないよ、途中でお母さんが帰って来たから……」
「先輩もぐいぐい来るんだね、もしかして詩織に気があるんじゃないの? 」
「そうかな……てそうじゃなくて、どうすればいいのかな」
話が脱線しそうだったので元に戻す。すると莉奈は顎に手を当てた。
「うーん、難しいなあ。でもそれなら先輩が優しいってだけに出来るかも」
「本当? 」
「詩織から言い出したことじゃないんでしょ? それなら大丈夫だよ」
「良かった」
安堵のため息を漏らすと莉奈が鼻で笑う。
「いずれは結ばれたいって思っているのに今からそんなんじゃ先輩にも呆れられちゃうよ」
「そ、それは……」
何も言い返せなかった。
……莉奈の言う通りだよ、一緒に遊んで家に帰った位でこんな調子じゃ付き合う事になったとしたら先輩に呆れられちゃうかも。頑張らないと。
詩織は両手で頬を叩く。
「よーし、ワタシは先輩に家に送ってもらったぞ~文句がある奴は何でも来ーい」
「その意気だよ」
気合を入れた詩織を見て莉奈は微笑んだ。
~~
詩織達は学校に着くと教室には向かわずに部室へと向かう。放課後の部活は無くなったとはいえ朝練は健在なのだ。
2人は到着するや否や着替えを済ませジャージ姿になるとコートの整備をしボールを出し練習準備を整えると翔子や他の1年生と共に先輩達を迎え練習を開始する。それから1時間後、部員は皆肩で息をしながら足を引きずり部室へと戻る。
「ぜえ……どうしちゃったの聡子先輩……はあ……今日の練習、過去一キツかったかも」
翔子が息を切らしながら小声で詩織と莉奈に尋ねる。
「分からない、しばらく朝練しか出来ないからかな」
「そうだね、だから先輩あんなに張り切っていたのかも」
と莉奈の意見に詩織が同調した時だった。
「詩織、ちょっといい? 」
ふと、詩織は背後から声をかけられ振り返るとそこには噂となっていた聡子の姿があった。
「良いですけど。先輩、どうしたんですか? 」
「私とシングルで一戦交えて欲しいのよ」
「先輩とですか? 勝てる訳ありませんよ」
「良いからやりましょう」
乗り気でない詩織に対して聡子はピシャリと言うとテニスコートへと向かった。
~~
放課後、詩織はいつものようにバス停を目掛けて歩いていた。しかし、その顔は沈んでいる。
「ドンマイ、元気出しなよ。聡子先輩強いんだから仕方ないよ」
そんな詩織に梨奈が何度目かの励ましの言葉をかける。
「でもあそこまでボコボコにされるなんて、せっかく潤先輩に特訓して貰えたのに……」
「まあそう簡単に1年の差は埋まらな……でもどうして先輩は詩織に試合申し込んだんだろうね」
「分からない、昨日は何ともなかったのにどうしてだろう」
2人で考えるも聡子の態度の変化に関して意見は出なかった。そうこうしているうちにバス停へと辿り着く。既にバスは出てしまったようで昨日のように列はなく潤の姿もなかった。
「はあ、先輩に元気を貰いたかったのになあ」
ため息と共に詩織はベンチに腰掛けバスを待った。