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5話「海での特訓」

 詩織が一歩踏み出す度にバス停のベンチに座っている潤との距離が(わず)かに縮まる。

 ……う、うう、緊張する。学校から出るときにもう一度髪をとかしてお化粧(けしょう)とかして来れば良かったなあ。

 思わず後ずさりしたくなるのを莉奈の手に(はば)まれる。


「あら、どうしたのかしら」

「どうしたって……一つ、後のバスで帰ろうよ」

「ええ~」


 そう莉奈は意地悪く笑いながら一歩一歩バス停との距離を詰めて行く。遂に距離は3メートル程となった。

 ……やっぱり格好良いなあ。

 ベンチからなるバス待ちの列の最後尾に並ぶとこっそりと彼の顔を盗み見て見とれる。

 ……結局ワタシはこうして見ているだけで幸せなんだよ。

 そう自分に言い聞かせた時だった。

 ふと彼が顔を上げて目が合う。


「……! 」


 それを見て詩織は思わず目を逸らしてしまった。

 ……何やってんのワタシのバカ!

 僥倖(ぎょうこう)を不意にした自らを責めるも時すでに遅し……のはずだったのだが、意外にも潤は立ち上がると何を思ったか詩織の元へと歩いてきた。

 ……う、嘘。岡田先輩がこっちにきた! ?


「君が、詩織……であってるよな」

「は、はい……何か」


 突然の潤の接近に詩織はしどろもどろになりながらも答える。


「そっか、それで相談ってなんだ」

「相談? 」


 潤の問いに目をぱちぱちさせると彼は続ける。


「オレに相談があるんじゃないのか? 大輝から聞いたぞ」

「大輝先輩……ですか? 」


 詩織は脳裏(のうり)に今朝告白をしてきた眼鏡をかけた先輩の事を思い浮かべる。

 ……大輝先輩ってあの人だよね? どうしよう、先輩と仲が良かったのかな?


「先輩は、大輝先輩と仲が良いんですか? 」

「いや、最近は全然だったな」


 彼はきっぱりと否定し続ける。


「だからビックリしたんだよ、突然オレに話しかけて来たばかりか『女子テニス部の(かみ)(しば)ってる詩織って子が相談に乗って欲しいって言っているから乗ってやって欲しい』なんて言い出してさ」

「そう、でしたか」


『本当に詩織の事が好きなら協力してあげて下さい』と莉奈が言った事を思い浮かべる。

 ……本当にワタシの事が好きだったのかな。

 詩織は見ず知らずの人と言う事で大輝の告白を即決で断ってしまった事に改めて申し訳なく思った。


「それで相談って? 」

「ああ……ええっとですね……その……」


 潤が詩織に顔をぐいっと近付ける、その様子を見て彼女はまたもや視線をそらしてしまう。

 ……相談何て急に言われても、どうして教えてくれないの~

 こういうのを欲張りと言うのか先程の感謝はどこへやら、詩織は僅かに大輝への恨みが頭を過ると莉奈が担いできたラケットを必死に叩いているのを見て唾を飲み込んだ。


「実は、テニスが全然上手くならなくて……隣の莉奈もですけど、先輩達も凄い上手で、ワタシも潤先輩みたいに上手くなるにはどうすれば良いでしょうか? 」

「なるほどなあ」


 話を聞いた潤は腕を組みしばらく考える素振りをしてそれからポンと手を叩いた。


「それなら実践あるのみだ。ちょっと海の方に行こう」


 潤はそう言うと詩織の手を掴み海へと向かっていく。彼女はなされるがまま彼について行った。


 ~~

 海近くの閑散(かんさん)とした無料駐車場に詩織と潤はテニスラケットを手にそれぞれ木と壁を背後に向き合っていた。


「それじゃあ、制服で動きにくいと思うけど見せてくれ」


 そう言うと潤はポンと球を放つ。

 ……先輩の前で変な所は見せられない。


「えい! 」


 慌てて大振りになった詩織の一撃は(むな)しく空を切った。


「ち、違うんです。先輩! 今のは、ワタシじゃなくて……」


 慌ててボールを拾い潤に手渡しながら詩織は言う。


「オーケーオーケー大丈夫だよ、次行ってみよう」


 潤はミスをした詩織に優しくそう言うと再び特訓を再開した。


 ~~

 数十分後、テニスラケットを仕舞うと彼は言う。


「凄いじゃないか詩織、これなら来年には聡子(さとこ)も超えられるんじゃないか」

「聡子先輩って……そんな、部長を超えるなんて無理ですよ」

「そんな事はないさ、センスあると思う。遅くなったら大変だ、さあ、帰ろう」


 潤はそう言うと詩織の手を掴みバス停へと向かった。

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