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44話 「バラバラ殺人」

 詩織は家の前にいる大輝に気付かれないようにとサッと窓から遠ざかると思わずベッドに倒れ込む。


『大輝先輩がバラバラ殺人の犯人かも』


 ふと詩織の脳裏にそんな言葉が浮かび上がる。


 ……いっそ、今から電柱の前に行って要件を聞いてみようかな。大輝先輩なら分かってくれるかも。


 淡い期待を抱いてベッドから起き上がった時だった。


「すみません、宅急便です」


 階下から声が響く。家には詩織一人、せっかくの決心が薄れてしまわないうちにと勢いよく立ち上がると下に向かう。


「いつもご苦労様です……今日は随分と大きな箱ですね」


 人一人入るのではないかと思う程に大きな箱を前に誰が何を頼んだんだろうと考えるも心当たりは浮かばず、観念して宛名を確認するも電柱…宛名の箇所には何も書かれていなかった。


「あの……これは誰宛の荷物ですか? 」

「強いていうなら……俺宛かな! 」


 さらりと宅配のお兄さんが答えるも意味が分からず動かないでいると、彼はふと見慣れない物を取り出し詩織の首に押し当てる。


 バチィッ!


 激しい音が家中に響き渡るとともに詩織は意識を失った。


 〜〜

 ふわっと何かが浮いた感触と共に詩織は意識を取り戻す。どうやら口にテープを貼られ手と足も縛られてしまっているというのが分かった。詳しい状況を確認しようと目を開ける。


「……う」


 瞬間、彼女の動悸が激しくなる。辺りは真っ暗だったのであった。


「おっと、気が付いたか。暴れるなよ。暴れるとうっかり落としてそのままお陀仏だ。ずっと前から目をつけていたんだ。ようやく手に入った。大好きだよ詩織ちゃん、家に帰ったら楽しく解体してあげるからね」


 詩織が目覚めたのを察した男が言う。彼女は男が持って来た箱の中に入れられていたのだった。


 ……嘘、この人がバラバラ殺人の犯人? お父さん、お母さん、助けて。


 胸が押しつぶされそうになる恐怖の中、彼女は祈る。しかし、同時に宅配便のお兄さんが荷物を持っている姿を誰が引き留めるのだろうという諦めもあった。

 ガラリと扉が開けられる。このまま疑いもなく車に詰め込まれて家に連れてかれてそこで……


 恐ろしい想像が浮かんだ時だった。


「あれ、その荷物、持って帰るんですか? 」


 遠くにどこか懐かしい声が響いた。


「ええ、まあ……配達先を間違えてしまったみたいで」

「なるほど、それでは手伝いましょうか? 随分と重いものが入っているようですし」


 ……あ、この声。大輝先輩だ。

 確かに外にいた大輝なら例えば家に入る前と後の箱の持ち方などで異変に気がつくかも知れない。

 仄かな期待を抱いたのも束の間……


「いえ、結構です。仕事ですから」


 そう男が答えると


「そうですか」


 とあっさり引き下がってしまった。

 ……箱の中に人がいるなんて誰も想像しないよね。きっと他の被害者もこうやって連れ去られたんだろうなあ、でも相手は何か武器を持っているみたいだし大輝先輩を巻き込まなくて良かったかも。

 暗闇の恐怖から息が荒くなり薄れ行く意識の中ぼんやりと考えると同時にドンと車の中に置かれた感触が背中に広がる。


 その直後……。


 バキッ!


「ぐっ……何を」


 激しい音とともに男が苦悶の声を上げる。


「ちっ……急所を外したか」

「一体これはどういうことですか? 」

「それはこっちが聞きたいな、その箱の中身について」

「ふっ……お見通しというわけか。それならば生かしておくわけにはいかない……なっ! 」


 男がそう言った途端、グラりと詩織の身体が傾き浮いた感覚に襲われる。恐らく男が箱ごと車から引きずり落としたのだろう。

 ……ああ、落ちる。このまま死んじゃうのかな。

 詩織は手足の自由が聞かず受け身も取れないことから打ち所によっては死を覚悟するもそれは想像していたよりも柔らかいものだった。


「ははっ、やっぱりそうするしかないよなあ! 」


 男の勝ち誇った声、そして……


 バチィッ!


「ぐっ! 」


 閃光が弾けるような音とともに大輝の声が響く。それを聞いて詩織は何が起きたのかを悟った。男は詩織を囮にしたのだ。大輝なら彼女を助けると読んで。そして読み通り彼女を助けた彼は両手が塞がっているところを先程、彼女に使われたものと同じ機械により仕留められた。

 ……ごめんなさい、大輝先輩。ワタシのせいで。

 箱の中で涙を流す。しかし、彼女の認識と現実は異なっていたようだ。


「な、なぜ」


 男が驚きの声をあげると同時に優しく地面に降ろされたのを感じる。

 そして次の瞬間……


 ドカッ!


 激しい一撃が当たる音ともにドサリと倒れる音。


 ……もしかして大輝先輩には効かなかった?


 そう喜んだのも束の間、遅れて側にいた大輝が呻き声を上げ倒れる音がした。

 程なくして車のエンジン音が近づき、続いてブレーキ音、そして……


「おい、こりゃ一体何があった? 」


 男性の慌てた声と同時にドアを車の開け閉めする音が脳内に響き渡る。

 ……今、大輝先輩を助けられるのはワタシしかいない。

 詩織は決心すると身体に力を込め、ひたすらに動いた。

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