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39話「意外な好敵手! ? 」

 詩織はその後大輝と話せないまま教室を後にすると梨奈と別れ店番をするべくお化け屋敷が開かれている自分達の教室へと入る。


「お疲れ様〜」

「詩織ちゃん、後は任せたよ」


 机二つをくっつけた受付用の椅子に座っていたクラスメイトの咲が立ち上がり詩織に席を譲る。既に隣には詩織と同じ時間が担当である未来が腰掛けていた。


「お金受け取ってライトを渡すんだよね」


 机に置かれた棒状の懐中電灯とその横の金庫を見下ろしながら詩織が尋ねると咲が頷いた。


「じゃああとはお願いね」

「任せて」


 引き継ぎを済ませ足早に去る咲を見送ると未来に会釈をする。

 このようなぎこちない対応なのは詩織は未来とほとんど会話をしたことがなかったからだ。いつも眼鏡をかけていて勉強している真面目な子、位の認識だった。


「未来ちゃんは美術部だよね? 」

「うん」

「じゃあ絵を描くのが上手なんだ」

「ううん、工芸系。アクセサリーとかケーキの模型とか」

「すっごい! 器用なんだね」

「そんなことないよ。詩織ちゃんの方が凄いよ。手先が器用でも大輝先輩は私のことなんて見てくれないし……」

「え? 」


 思わぬ告白を受け詩織は未来が潤のことを好きなのを知ったが余りに唐突なため頭の中が真っ白になる。

 ……話を変えなきゃ!

 次に来る内容を察し慌てて話題を変えようと考えるも時既に遅し、先に未来が口を開いた。


「だからさ、私、大輝先輩のことが好きなの? 私と……大輝先輩が結ばれるように」


 ……ワタシが大輝先輩と未来ちゃんが付き合えるように協力?

 ドスンと胸に百科事典を乗せられたような苦しさが詩織を襲う。


「頭良いし優しいしメイド喫茶も頑張っていたし……この前ね、図書館で一緒になった時に勉強教えてくれたりもして……」


 ……もう聞きたくない。

 以前の詩織なら大輝はそんな立派な人間ではないと笑い飛ばしていたかもしれない。だが、今の詩織にはそれが出来なかった。代わりに今すぐこの場を離れるか叫び声を上げこの話を終わらせたいと思った。

 何か話題はないかと回らない頭で改めて未来を見つめる。先ほどまで真面目な印象しかなかった彼女は肌が綺麗で目もぱっちりとしていてオシャレを覚えたら見間違えるほどの美人になる予感がした。そして何より、真面目で勉強好きというところが大輝と合いそうだった。

 ……ワタシみたいな考えなしなお馬鹿さんと違ってお似合いカップルになるのかなあ。

 回らない頭で唯一出した答えは本来の目的とはかけ離れたもので詩織は思わず俯いてしまう。


「どうしたの? 大丈夫? 私、何か気に触ること言っちゃったかな? だとしたらごめん」


 ……加えてこんなに優しい。

 気がつくと目の前にある眼鏡越しの大きな瞳を見てぼんやりと考える。


「どうして……? 」

「え? 」

「どうしてワタシにそんなことを頼むの? 」


 思わず口から出たのはそんな疑問だった。


「それは……大輝先輩と仲が良いから。あと絶対詩織さんは大輝先輩のことを好きにならないでしょ? 」

「どうしてワタシが大輝先輩のことを好きにならないと思ったの? 」

「どうしてって……私も大輝先輩が詩織ちゃんに告白した時、聞こえたから。詩織ちゃんにとって潤先輩は『運命の人』なんでしょ? 何があったのかは分からないけどそういうの素敵だよね。私も憧れちゃう。もしかすると私の『運命の人』は大輝先輩なのかな? 今思うと図書館で出会ったのも運命で……」


 未来が大輝への想いを語り始めた時だった。


「すみません、良いですか? 」


 気がつくと手を繋いだ男女2人が詩織達の前に立っていた。


「いらっしゃいませ」


 天の助けとばかりに詩織は満面の笑みを浮かべて挨拶をし、未来が代金を受け取ったのを確認すると懐中電灯を手渡す。


「カップルさんですか? お気をつけて」


 詩織が言うと男女は照れ臭そうに教室のドアを開け中へと入った。


「それでさっきの話だけど」


 客がいなくなるや否や未来が詩織を見て話を再開しようと切り出すのを制する。


「ごめん、ワタシそういう紹介? みたいなのやったことなくて……あとほら、ワタシあまり頭良くないし。嘘の呼び出しとかしてもすぐ見破られちゃうかも」


 なんとか断ろうと試みて作り笑いを浮かべる。しかし未来は引かなかった。


「大丈夫、タダで協力してなんて言わないから。私も詩織ちゃんが潤先輩と結ばれるように協力する。それから、詩織ちゃんが不安なら私が大輝先輩の呼び出し文句とか全部考える。だから……どうかな? 」


 真剣な眼差しで未来は詩織を見つめる。内容としては詩織の負担は最小限で両者が結ばれる確率の高い良い取引で以前の詩織なら直ぐに飛びついていただろう。

 だが、今の詩織は直ぐに承諾することが出来なかった。


「…………」

「…………」


 沈黙が訪れる。この沈黙をどうすれば破れるのか考えたその時だった。


「おっ詩織じゃん」


 声がした方を振り向くと潤が笑顔を浮かべながらこちらに来るのが見えた。




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