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37話 「クイズ大会」

 2人が次の教室を目指し廊下を歩いていた時だった。生徒会の腕章をつけチラシを配っている女子生徒の姿が目に入る。


「大輝先輩、生徒会も何か出し物があるんですか? 」

「生徒会……ああ、クイズ大会があった」

「クイズ大会? 」

「文字通りクイズ大会。広場に集まって○×クイズをやるんだ。それで最後まで立っていた人が見事、賞品を獲得できる」

「○×なら人数関係なくクイズに参加できるってことですね」

「そういうこと。何問で残り1人になるかは読めないから問題考える側は大変だろうけど」


 大輝がぼやくのを横目に詩織はチラシを受け取り目をやる。チラシの正面にはデカデカと『ワイヤレススピーカーを手に入れよう』とあった。


 ……欲しい。

 景品は食べ物系かと思っていた詩織は一気に引き込まれ気がつくと身体が会場である方へと向いていた。


「まさか、参加する気? 」

「ワイヤレススピーカーですよ。欲しいに決まってるじゃないですか」

「スマホで大音量で流せばいいじゃないか」

「そういう問題じゃないんです! 」


 ……どうして違いが分からないかなあ。でも欲しがられて大輝先輩が本気になったら勝ち目ないしこれで良かったのかな?


 頼れる助っ人が現れ結果オーライということにして詩織はチラシを持つ手に力を込める。


「それじゃあ行きましょうか」

「ああ、まあ……友恵が喜ぶかもしれないしな」

「どうして……ですか! 」


 大輝の言葉に詩織は思わず『私のことストーカーするくらい好きなのにどうしてくれないんですか』と尋ねたくなるのをかろうじて堪えて言葉を区切り言った。


「どうしてってそういえば妹が持ってるの見たことないなと思って」

「そうですか」


 ……考えてみれば他人の好意を利用して物だけ貰おうというのは厚かましいかあ。あーあ、強力な敵を作っちゃったなあ。

 僅か数秒で助っ人から敵に変わってしまったことを嘆きながら詩織は会場へと足を進めた。


 〜〜

 グラウンドの真ん中に大量に設置されたパイプ椅子に腰掛け数分待つと1人の女子生徒がマイクを手にステージの中心に立った。


「それでは文化祭クイズ大会を始めまーす。ルールは簡単、皆様にはお立ちいただいてこれから出されるお題が正しいと思ったらお配りした○の札を、違うと思ったら×の札をあげてください。正解した場合はそのまま、不正解だった場合は着席してください」

「これをざっと100人分か。想像以上に手が込んでるな」


 大輝が木の棒に○と書かれた用紙が付いている札を見つめながら感心したように言うのを横目に詩織は着席せず歩行スペースに転々と立っている生徒達を眺める。

 ……不正解でも居座ったらバレないかなと思ったけど、不正解で着席しなかったらあの人達から注意されるんだろうなあ。


 落胆する詩織を他所に淡々と司会は進んでいった。


「それでは第一問! デデン! 『我が四条高校の生徒数は364人である! ○か×か! 」


 ……生徒数? 千人位ってことまでは分かるけど、そんな詳しい数までは知らないよ。でも一の位が0じゃなくて4なのは正解の可能性が高そうだなあ。数字も何かキリがいい番号じゃないから○かな? クイズもやっぱり初めは○から始めたいだろうし○だよね?

 一問目から四苦八苦の詩織はふと大輝も悩んでいるだろうと横目をやると既に○の札を掲げているのが視界に入った。


 ……こうなったら一か八か。


 詩織は○の札を掲げる。


「真似した? 」

「してません」


 意地悪く言う大輝に本当は図星なのだがキッパリと答える。


「正解は……○でした。そうです、我が校の生徒数は364人なのです! 」


 ……やった!

 詩織は着席する人々を見て思わずガッツポーズをする。


「それでは第二問、デデン! 我が校の運動部で全国大会に進んだことのあるのは男子テニス部だけである。○か×か」


 ……サービス問題だ。

 すかさず詩織は×の札を掲げる。というのも女子テニス部も以前は全国大会に行った経験があるということを知っていたからだ。


 ……大輝先輩は大丈夫かな?

 正答を選んだという絶対の自信から生まれた余裕からライバルの大輝に視線を向ける。するとその視線に気付いたか○の札をあげかけた彼の手はピタリと止まり代わりに×の札を掲げた。


「真似しました? 」


 今度は詩織が意地悪く尋ねると大輝は肩をすくめた。



「それでは第三問、デデン! 四条町の明後日の天気予報は晴れである。○か×か」

「明後日……明日じゃなくて明後日……」


 会場から困惑の声があがる。それもそのはずで文化祭で出題される問題としてはあまりに高校と関係がなかったためだ。


「恐らくこの問題を考えた人は後で大目玉だな」


 真顔で大輝が口にするのに無言で頷く。

 ……でもどうしよう、天気となると○となのか×なのか大輝先輩を見ても分からない。

 詩織が悩んでいると大輝が肩をトントンと叩いた。


「二面作戦で行こう。二人で別のを挙げるんだ、恨みっこ無しで」

「……そうですね。じゃあ大輝先輩はどっちをあげます? 」

「……じゃあ、×で」

「それならワタシは○で」


 話は決まった。二人同時に別々の札を挙げ、時を待つ。


「むむむ、意見がどこも割れたようですね。正解は……×! なんと明後日の予報は快晴でした! 」

「……脱落かあ。後は頼みましたよ」


 戦友に託すかのように言うと詩織は席に着く。そこから大輝は正解を連発し驚くことに残る二人の回答者のうちの一人になった。


「凄いですね、あと少しです」

「いや、あまり目立ちたくなかったんだけどな」


 大輝のボヤキを聞いて、詩織はわざと間違えるんじゃないかと危惧するもすぐさま、彼が勝ち残っても自分が貰えるわけでもないのでそれはいらぬ心配だと気がつきいつの間にか貰えると思っていた自分を恥じた。


「頑張ってください」


 (つぐな)いのように口にすると大輝はこくりと頷く。


「それでは第十五問! デデン! 我が校の校歌、作詞はあの三浦大知氏である。○か×か」


 ……三浦さんってあの三浦さん? そういえば音楽の先生がそんなことを言っていたような。と言うことは答えは○!


 正解を確信して大輝を見る。ところが詩織の考えに反して彼は×の札を掲げていた。


 ……ああ、大輝先輩。違う、○ですよ○!


 声には出さないためなんとか表情で間違いを伝えようとする。しかし、彼は答えを変える気配はなかった。そしてまずいことに残ったもう一人の回答者は○の札を掲げていた。


「おおーっと、ここで別れたあ! ということはこれで優勝者が決まります! 」


 司会が盛り上げたのち、一呼吸置くと再びマイクを手に取る。


「正解は……×でした。三浦さんは確かに我が校の校歌作成に関わっておりますが、作詞ではなく作曲としてなのです……というわけでそちらの……おおーっと我が校の生徒さんおめでとう! こちらへどうぞ! 」


 何が起こったのか分からず目をぱちくりさせる詩織の横で大輝が歩き出すとステージへと上がる。


「それではまず自己紹介をどうぞ! 」

「2年の岡大輝です」


 ……え?

 ハキハキと応える彼を見て詩織の心に引っかかるものがあった。


「岡さんおめでとうございます。個人的には岡さんがこういった主旨のイベントに参加されることに驚きなのですが、岡さんはこういったイベントお好きなのでしょうか? 」

「いえ、どちらかと言うと苦手な方ですが……素敵な景品に釣られてしまいまして」

「と言うことはワイヤレススピーカーがお目当てで」

「まあ、プレゼント用に」

「それは素敵ですね〜」


 ……友恵ちゃん用かあ。

 薄々察しはついていた詩織は読みが当たって嬉しいような寂しいような気持ちになった。


 〜〜

 場が解散となりひと足先に会場から出た詩織は遠目にステージを眺め大輝を追う。相手が梨奈達であったなら「おーい」とでも声を出して手を振るところだがそれは恥ずかしいためはぐれないようにする苦肉の策であった。


「お疲れ様でした」


 やがてワイヤレススピーカーを片手にやってきた大輝に意図的にスピーカーは見えないように振る舞って声をかける。


「流石ですね、本当に優勝するなんて」

「まあ、まぐれだよ。はい、これ」


 そういって大輝はスピーカーを詩織に差し出す。


「これって……友恵ちゃんへのプレゼントじゃないんですか? 」

「なんで友恵? 欲しかったんでしょ? 」

「いやでも……ありがとうございます」


 詩織は咄嗟のことに戸惑いながらもスピーカーを受け取ると大切にバッグへとしまった。

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