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36話 「残された時間」

 校舎の中庭に作られた休憩スペースに腰掛け休むこと数十分、ようやく身体が平衡感覚を取り戻してきたのを感じた詩織は立ち上がる。


「もう大丈夫なのか? 」

「はい、ずっと休んでると店番の時間がきちゃいますから」

「そういえば店番の時間聞いてなかったけど何時から? 」

「お昼、12時からです」

「12時からか……」

「はい、だから梨奈と合流するのは店番が終わった後で……」

「それなら何か食べに行こうか」

「はい? 」

「昼時に何も食べないで店番するのは厳しいと思うけど、今なら家庭部に行けばカレーとかオムライスとか焼きそばの出来たてが食べられるし」


 ……いや、それも問題だけどそれよりも学校の皆の前で大輝先輩とご飯を食べるのが。

 ただでさえ2人で歩いて注目の的になっていたのを食事まで共にしたとなっては従妹という嘘が通用しなくなり潤と仲を深めることが絶望的になると詩織は身を震わせる。

 ……断ろう、無駄だと思うけど。

 ここまでなし崩しに付き合った状況を鑑みながらも潤との道のために勇気を出して彼の目を見つめる。


「あの、ワタシ、音楽室にお弁当がありますから」


 キッパリと口にする。するとその想いが通じたのか大輝は彼女に背を向けた。


「了解、そういうことならここでお別れだ」

「え」


 ……そんなにあっさり! ?

 詩織が拍子抜けしている間に大輝は小さくなっていく。その姿を見ながら詩織は前にもこんな事があったと考え胸が苦しくなる。そして、気が付いたら詩織の体は動き出し彼の後を追いかけ彼の手を掴んだ。


「どうした? 」

「いえ、お昼……一緒に食べようかなと思って」

「でも弁当なんでしょ? 俺は昼飯食べないといけないから」

「それならワタシもお弁当を食べます! でもブース内で……は迷惑か。やっぱりワタシもご飯買います! 」

「いや、せっかく作ってくれたのを食べないのは悪いと思う」


 ……あれ?

 詩織は大輝の行動に漠然とした違和感を抱く。その違和感の正体を確かめるべく休憩スペースを指差した。


「それならあそこで食べましょう! あそこならお弁当も堂々と食べられますし」

「いや、それはそうだけど……」


 ……なるほど、そういうことか。

 大輝の煮え切らない態度を見て詩織はある一つのことを確信して大輝の目を見る。


「ずばり、先輩何か隠していますね? 」

「さ、さあ、何のことかな」


 ……珍しく分かりやすいなあ。

 シラを切りながらも大輝が大きく目を見開いたのを詩織は見逃さなかった。とはいえ、人は誰しも隠し事はしているものでここからが詩織の正念場だった。

 ……隠し事となると、時間を気にしていたし今日の事? 大輝先輩が誰かと待ち合わせしているなら正直に言うだろうしそうなると、店番かな? でも今だと逃げられるかもしれないからお昼、お弁当を広げてからにしよう。


「そうですか、もうこんな時間なんでご飯買いに行きましょうか」


 詩織は追求をやめると早歩きで出店コーナーへと向かった。


 〜〜

 十数分後、出店で大輝が買ったたこ焼きや焼きそばを広げ開封したのを見て詩織は切り出す。


「大輝先輩、これから店番とかあったりします? 」

「っ……あるよ」


 平静を装おうとする大輝だったが一瞬だけ図星故か焼きそばへと向かう箸が止まったのを詩織は見逃さなかった。


「へー、何時からなんですか? 」

「……12時から」

「じゃあワタシと同じですね。残念だな〜」

「そうだな」

「そういえば大輝先輩の所は何をやるんですか? 」

「…………」


 ……あれ、もしかして受付でワタシにこき使われるのが嫌だったとかじゃなくてそっち?

 押し黙ってしまう大輝を見て詩織は出し物関係だと確信し無意識のうちにパンフレットを開く。


「待った」


 大輝の必死の静止の声も虚しく『メイド喫茶』の文字が詩織の目に飛び込んだ。

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