35話 「文化祭誰と回る? 」
文化祭当日、開会宣言の後、詩織は即店番の梨奈と彼氏と回る翔子と別れ複数で訪れている人々を横目に1人で校内を歩き回っていた。
……こんなことなら1人で学生バンドを座って聴いていれば良かったなあ。
自らの判断に後悔をしていると詩織と同じ制服を着た女性が私服の男性と手を繋ぎ歩いている姿が視界に入る。
……ワタシももし来年潤先輩と付き合うことになったらああやって2人で文化祭回るのかな〜
潤と2人で回る文化祭。それはどんなものだろうかと妄想するもそもそも文化祭自体が初めての彼女には想像もつかない事態だった。
……よし! 来年のためにも1人で回ろう! 運良く潤先輩に会えるかもしれないし。
淡い期待を抱きながらとりあえず近くにある三年生の教室に向かおうとした時だった。
「あれ、桜木さん今日は1人? 」
背後から声をかけられ振り返ると人混みの中大輝がこちらに歩いてくるのが見えた。
「はい、1人ですけど」
……まさか大輝先輩、ワタシを尾けていたんじゃないよね? それどころかワタシが1人になるように仕向けてたりってそんなはずないか。
頭を振って疑惑を打ち消すもその仕草が大輝の興味を引いたようだった。
「急に頭振ってどうした? 」
「いえ、後で友達と合流するから1人だけど1人じゃないっていうか」
「なるほど、それで教室に入るでもなく廊下でウロウロしてたのか」
「見ていたんですか? 」
「まあね、たまたま知った顔が変わった行動していたから景品は気になるけど3年生の先輩のいる教室に入るのは気が引けるって葛藤しているのかなって」
……たまたま、ね。まあ学校でもストーカーなんてよく分かんないし本当にたまたまなのかな? え? 景品?
「景品って何ですか? 」
「全クラスの出し物のスタンプ集めると景品が貰えるんだよ」
「へえーそういえばワタシのクラスにもありましたけどあれって記念に押すだけじゃなかったんですね」
思い返すも説明を受けた記憶がない詩織はスタンプの意外な制度に驚きの声を上げる。
「そういうこと、それなら途中まで一緒に回ろうか? ガイドブックには名前書いてないからこれを後で友人に渡せば良い」
……え、これって2人で回ろうってことだよね?
さり気ない誘いに詩織は思わず後退りして走り出したくなるもよくよく考えれば2人は親戚で通っているわけだから2人でいても妙な噂が立ち恋路を邪魔されることはないわけだし梨奈と合流後には2人で回れるというのも悪くはなかった。
「良いですよ、ワタシも心細かったですし」
「それなら良かった、じゃあ行こうか」
彼はそう言うと3年生の教室へと向かい勢いよく中へと入る。慌てて追いかけ中へ入ると受付の女性と屈強な体育会系の男性達が姿を現した。
「3年4組のコーヒーカップにようこそー! 」
「え、カップル! ? 大輝くんって彼女いたんだ」
……しまった、3年生の人達には従妹って伝わってないんだ。
デートと勘違いして顔を綻ばせる女性を見ながら詩織は額に手を当てる。
「ちち違いますよワタシと大輝先輩は従妹で」
「大丈夫大丈夫、分かっているから。それではあちらへ」
女性は笑みを浮かべ答えると木製の台の上にワタシたちを案内する。それは他の木製のものと異なりピンク色だった。
……何も分かってない!
女性は詩織の動揺などお構いなしにピンクの乗り物に案内すると2人を押し込んだ。
「それではコーヒーカップの始まり始まり〜」
陽気な声が聞こえたと思った次の瞬間詩織の視界が目まぐるしく回転し始めた。
〜〜
「ありがとうございました〜」
女性の声を背に教室を出る。
「なんか凄かったね」
「はい、絶対にあれはカップルに対する嫉妬みたいなのが入ってましたよ。ゆっくり話す暇もムードもありませんでしたし本当のカップルだったら苦情ものですよ……てどうして大輝先輩はあの時『カップルじゃない』ってはっきり否定してくれなかったんですか! 」
「疑惑っていうのはその場で否定しても意味がないんだよ」
……そんなことはないと思うけどな〜
詩織は不満を長々と口にしたにも関わらずさらりと受け流されたのに物足りなさを感じながらも次の教室へと向かおうとした時だった。
「へ」
詩織の視界がぐにゃりと歪み足から力が抜けたかと思うと目の前に床が迫ってくる。
……あ、ぶつかる。
そう思った直後ガシッと身体を掴まれ床が遠ざかっていく。
「気分悪いなら少し休んでいく? 」
「……はい、そうします」
かろうじて言葉にするとふわりと身体が持ち上げられ宙に浮いたかと思うと大輝の背中に着地する。
「え、先輩! ? 何してるんですか! ? 」
「何って倒れるほど気分が悪い人に歩かせるわけには行かないだろ? 」
「そうですけど、降ろしてください……これだと目立ちます」
「平気だよ、俺達は従妹なんだから」
……さっき言ってくれれば良かったのになんで今はっきり言うかなあ。
不満はあれど抵抗する力もなかった詩織はなすがまま彼に身体を預けた。




