34話 「深まる謎」
翌日、詩織と翔子は廊下でマネキンに怖く見えるように血糊を付ける作業を行なっていた。
「弟君が詩織の暗所恐怖症を知っていた? 」
「梨奈はストーカーだから調べたかたまたまじゃないって流したけど翔子の意見が聞きたくて」
「なるほどねー、確かに後を尾けていた時に夜中に懐中電灯手に歩く姿を見て妙に感じたりはしたんだろうけど……」
そう言いながら翔子は詩織をチラリと見る。
「詩織はそれには納得していないわけだ」
「別にそういうわけじゃないけど……ほら、ワタシ大輝先輩の家に行ったのに無事だったし先輩日曜日のアリバイ? もあったから」
「ほー、嬉しそうだねえ」
「そういうのじゃないから! ただ大輝先輩は普通のストーカーと違うかなって……」
「『運命の人』とか? 」
「え゛」
「ハハッなんて声出してんの。冗談だよ冗談、でも話によると弟君、詩織の家の近くに住んでいたことはあるらしいよ」
「そんな情報どこから? 」
「アタシのこれの友達にちょっとね……」
翔子は照れ臭そうに小指を立て答える。
……彼氏か、羨ましいな〜。でもね翔子、上履きのことがあるから大輝先輩は運命の人じゃないんだ。分かっていて揶揄っているのだろうけど……。
と詩織は内心彼女の説を否定したものの悪い気分にはならなかった。
「……ところでさ、詩織、それ何? 」
ふと翔子が声を細めて言うので視線を追うとそこには今まさに作業を終えた唇の部分のみに血糊を付けたマネキンがあった。
「何ってマネキンだよ」
「でもそれじゃ唇だけじゃない? 怖くなくない? 」
「怖いよ〜人の血を口紅代わりにしてるんだよ? 」
「確かにその説明を聞くと怖いなあ」
「ただお客さんがそのストーリーを瞬時に連想できるかは分からないな」
言われてハッとする。このお化け屋敷には特にストーリーのようなものはなく、唇から連想して怖がるのは少ないだろう。
「それなら……これで」
そう言いながら詩織は唇の右端から血糊を垂らした。
「これでどうかな〜」
「これは確かに……」
「怖いねえ」
2人の反応を聴き詩織は満足げに頷いた。




