3話「告白」
詩織と莉奈はテニス部の朝練習を終え、着替えを済ませると教室へと向かった。
「今日も格好良かったね、潤先輩」
「うん、どこにボール投げても跳ね返すんだから凄いなあって」
「まあ展男君の方が好みだな~」
翔子が反論をする。
……そりゃ翔子ちゃんには展男君しか見えてないんだろうけど。でも両想いと片想いの差があるから虚しいだけだよね
詩織は少々ムッとしたものの口にするのを堪え話題を変える事にした。
「そういえば、殺人事件だけど……」
……いけない。
殺人事件の話は気分が重くなるのでマズいと思うも口にしてしまった今もはや後の祭りだった。だが、詩織の心配とは裏腹に翔子が食い付く。
「あー怖いよね、二葉高の被害者、知り合いに聞いたら新奈って大人しい子だったらしいよ。昨日から家に帰らないって騒ぎになっていたんだって伊河の子も市江って大人しい子だったし犯人は大人しい子が好きなのかなあ」
「そうなんだ、これで終わるのかな」
詩織が尋ねると彼女は首を横に振る。
「そうだと良いけど伊河、二葉のJKってきたら次は三原か四条のウチらっしょ」
「そうかなあ、やっぱり同一犯なのかな? 」
「同一犯だね、そうに決まっている。どっちも大人しい子なんだから。まあ2人は大丈夫だろうけど」
「ちょっと、それってどういう意味? 」
「そうだよ、今のは許せないかな? 」
先程まで怯えているような様子だった莉奈もこれには詩織と口をそろえて抗議をする。翔子は両掌を突き出すと宥めるように前後に動かした。
「ごめん。2人は特に気を付けないといけないね」
「うむ」
「分かればよろしい」
3人は結局そんなやり取りを交わすと教室への道を急ぐ。慣れて来た階段を1年の教室がある最上階まで上り一番端にある教室目掛けて早歩きをして……
「「「え? 」」」
……3人同時に足を止めた。3人の目指した教室には教室の窓から中を覗き込むようにしているクラスメイトの姿があった。
「何だろうあれ? 」
「誰か有名な人が来たのかな? 」
「先生がインタビューを受けているとか? ほら殺人事件で」
翔子の疑問に詩織が答え莉奈がそれを現実的な答えに落として口にする。しかし3人の予測はどれも外れていた。
「あ、来た! 」
1人の生徒が声を出すと皆が詩織に視線を移す。
「えっと、どうしたの? 」
「詩織にお客さんだよ、先輩が話したいことがあるって」
「先輩? 」
……先輩って女性の先輩だったら皆教室から出るなんて反応はしないよね? ということはもしかして潤先輩、そんな今朝も目が合っただけで幸せだったのに大胆。もしかしてこれって夢?
詩織は歩きながら手を強く握ると痛みがあり夢ではないと確信し教室に入る。するとそこには……
「おはよう、詩織ちゃん、だよね? 」
……そこには、眼鏡をかけた知らない先輩がいた。
~~
「あの、何方ですか? 」
尋ねると眼鏡をかけて髪はあまり興味がないのかボサボサの先輩が口を開く。
「2年の岡大輝。部活は帰宅部です」
……岡先輩ってあの岡先輩かあ。
詩織は落胆する。彼女の目の前にいる岡大輝は全国模試でも上位の勤勉家でどうして四条に来たのかと言うのを推測される程の有名人だったのだ。
「失礼しました、それで岡先輩、何か御用ですか? 」
彼女の問いに彼は頭を掻く。
「実は……ええっと……何と言ったら良いか……大好きです、付き合ってください」
「え」
面識もないはずの人の突然の告白に戸惑う。
「えーと、ワタシのどこが好きですか? 」
「笑顔かな、笑顔に一目惚れした」
……笑顔かあ、自分では分からないけどそんなに素敵な笑顔なのかなワタシ。
実は詩織に告白されるというのは初めてではなかった。その為この文句も耳にした事はあったのだが、彼女が鏡で試しに見ても可愛いという自覚は依然として無いのだった。
「ごめんなさい、ワタシ好きな人がいるので」
「そうなのか、誰? 」
「誰……って」
「貴方と同じ学年の岡田先輩ですよ」
話は終わって後は解散のタイミングを作るだけと見るや翔子がすっと間に入り答える。間も無くして外野から「ヒュー」と冷やかす女子生徒の声が響く。
「ちょ、ちょっと翔子、何で言うの? 」
「こういうのははっきり伝えた方が良いの、そういう訳なので本当に詩織の事が好きなら協力してあげて下さい」
「はあ……分かりました」
彼は翔子の剣幕に思わず引き下がるとトボトボと歩き教室から出て行った。