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29話「ストーカーの正体」

 ドンドンドン


 詩織達が歩き出すとともに再び足音が鳴り響く。その音に詩織は違和感を覚えた。


「なんかいつもより足音が大きくない? 」

「確かに言われてみると、本当に大輝先輩かな? 」

「どうなんだろう、とにかく校門まで早歩きしよう。お母さんが迎えに来てくれているらしいから」


 ……どうか大輝先輩でありますように。

 いつもと違って仕掛ける側の詩織はそんな祈りをしながら歩みを早め校門へと辿り着くと即座に右に曲がり死角になったのを確認するとともに駆け足で車に乗り込んだ。


「どうしたの? 」

「いいから今から出てくる人の後を追って!」


 驚く康子に詩織は言い放つと同時に尾行者が車のライトに照らされる。ライトが眩しかったのか尾行者が顔を覆ったため顔が見えたのは一瞬だったが、間違いなく大輝だと彼女は確信する。


「よし、追って」

「追ってって顔見えなかったけどあの子を追ってどうするの? 」

「どうするって……」


 ……ああもう、こうなったらなるようになっちゃえ!


「ワタシ、あの人が好きなの。あの人がどこに住んでいるか知りたいの? だから追ってお母さん」


 大輝を尾行する唯一無二のチャンスを無駄にしまいと嘘八百を述べる。既に大輝は闇に紛れかけていた。


「好きって……詩織がそんな年になったのは嬉しいけど、ストーカーはいけないわよ」

「いいから追って! 」

「私からもお願いします」

「まあ、莉奈ちゃんが言うなら」

「どういう意味! ? 」


 苦戦はしたものの車が大輝目掛けて動き出す。詩織には勝算があった、それは大輝の習慣であって彼は家庭教師の時も決まって康子が帰宅する前に家を出る。それ故に彼は康子の車をみたことがないのだ、尾行をしたところでバレないというのが彼女の勝算だった。

 とはいえ、幾ら勝算があるといってもあくまで可能性に過ぎず尾行に気付かれたりふと背後を振り返られて見つかる恐れもあった、そのため彼女は目から下が隠れるギリギリの高さまで身体を縮めて大輝の背中を追いかけていた。ふと横を見ると莉奈も同じようにしていた。

 しかし、そんな2人の心配は杞憂に終わった。大輝は一度も振り返ることなく直進し数分程で左へ曲がり木造建築の一軒家へと吸い込まれていった。


「ここが先輩の家? 」

「ほら、人の家をじろじろ見ない。行くよ」


 康子がキッパリと言い放つと同時にガクンという衝撃と共に2人の身体がシートにぶつかった。


~~

翌日、2人は登校途中足を止める顔を大輝の家であろう建物へ向ける。


「ここが大輝先輩の家……? 」

「案外あっさり見つかったから……違うってこともあるかも」

「そんなことあるの? 」

「あるんじゃないの? 昔漫画で靴持って『抜けさせてもらいまーす』って言って裏口から出てるの見たことあるから」

「そんなこともあるんだね」


……莉奈は本当に色んなことを知っているなあ。

感心しながら彼女の言う『昔』より前から建っているであろう家を眺める。

……莉奈の言うように大輝先輩にしては簡単に付き止められたしここにはいないのかな?

詩織がそう肩を落とした時だった。


ガラガラガラ


「行ってきます」


独り言のような挨拶と共に玄関のスライド式の扉が勢い良く開き大輝が姿を現す。


「だ、大輝先輩! ? 」


詩織は驚いて声を上げる。


「なんだそんな大声で」

「いやだってここが大輝先輩の家だなんて思わなくて……」

「ああ……まあ、俺は気に入ってるけどそんなに新しい家ではないな」


周囲のレンガ造りや新しい家を見渡しながら大輝が答えるのを見てしおりは慌てて両手を振った。


「いえ、違うんですよ先輩。そんなつもりはなくて」

「私は好きですよ、こういうの」

「ちょっと莉奈! ? 」


……莉奈だって驚いていたのに、ストーカーの報復を恐れての裏切り! ? どうしよう、何か考えないと!

詩織が焦り何か言い訳を考え始めるも大輝は気にする素振りも見せずに莉奈を見る。


「えーと君は……」

「初めまして、詩織の友達の莉奈です」

「こちらこそ初めまして。彼女の先輩の大輝です」

「詩織とは従妹なんですよね」

「ええ、まあ……」


莉奈の冗談交じりの一言に大輝は困惑の表情を浮かべる。彼女なりの挨拶らしい。どういうわけか2人の間に火花がバチバチとしているイメージが浮かびながらも詩織は

……ここでそんな怒らせるようなこと言うならさっき言ってくれれば良かったのに。

と考えた。





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