25話「出られない」
……待って、今潤先輩と2人っきりなんだよね? えっ? えっ?
体育館倉庫から出られる希望が出た詩織は余裕が出たからか改めて状況を見つめ直し、恋している相手と密室に2人きりという状況に思わずその場に倒れそうになる。
「大丈夫か? 」
そんな詩織をすかさず潤が支える。
……潤先輩優しいんだなあ。
幸せに包まれながら詩織はぼんやりと考える。極度の緊張からかもはや彼女にとってこの状況は夢のようなものだった。
「そういえば、潤先輩って好きな人いるんですか? 」
「ああ、いるよ。詩織はどうだっけ」
「はい、います」
そう答えた次の瞬間、潤の顔がどんどん近くなる。
……ああ、しちゃうんだ。
詩織が覚悟を決めたその時だった。
「潤は何処に行った! ? 」
体育教師の大きな声が体育倉庫まで響き渡る。
「やっば、早くここから出ないと」
潤はそう言うと外への合図が扉に思い切り蹴りを入れる。
ドン!
大きな音が響くも体育館にいる者までには届かないようだった。
「ちくしょう! 開けええええ ! 」
潤が力を込めて再び扉を開けようと試みる。すると先程とは異なり扉がすんなりと開いた。
「どういうことですか」
「立て付けが悪かったのかな。とにかく行こう」
「はい」
2人が意を決して出ようとしたその時だった。
「何! ? 詩織もいないだって! ? まさか2人で何処かにいったのか! ? 」
教師の怒号が響くと同時に生徒達がなにやらガヤガヤ騒がしくなるのが耳に入るや否や再び詩織は扉を閉めた。
「多分4時限目が始まったのにワタシが戻らないって連絡が入ったんだと思います、今頃ワタシ達は授業を抜け出して遊んでいるとかウワサされているんだと思います」
「それなら尚更出た方が良いんじゃないか? 」
「ダメです! 体育館倉庫の事故だったって信じてもらわないと内申に響きます」
「……詩織って真面目なんだな」
……ワタシが、真面目? いやそんなことよりもワタシ今潤先輩に逆らっちゃった。
言われて内申のためと潤の提案を拒否してしまったことに気が付く。
……フォローしないと。
「あ、あの」
「ハハハハハ」
「え? 」
突如笑い出した潤に詩織は困惑する。
「いや、でもそれって向こうからドア開けてくれるまで丸々授業をサボるってことだから真面目なのか不真面目なのか分からないなって」
「あ……そうですね。アハハハハ」
……潤先輩は面白いし気が利くなあ。4時限目が終わってボールが戻って来るまでの数十分、こうやって2人で過ごしたい。
そう、詩織が考えたときだった。
「やっぱりここだったか」
閉まっているはずの扉の方から声が聞こえたので慌てて振り向くとそこには呆れたような顔を浮かべた大輝が立っていた。
「どうしてって……消えた人とその前の状況を考えれば簡単だよ」
「どういうことですか? 」
「こいつこういう回りくどい言い方多くてさ」
「いえ、こちらこそすみません。この人の従妹として恥ずかしいです」
「う~ん……つまり、体育館倉庫で見たのが最後なら体育館倉庫にいるだろってこと。ほら、スマートフォンとかも心当たりを探してみるでしょ? 」
「ああ、そういうことですか。それなら最初からそう言ってくれればいいのに」
「はいはい、とにかくそういう事らしいですよ、先生」
大輝がそう言って左を向いたと思ったら先程まで声を上げていた教師が姿を表す。
「なるほど、話は聞かせてもらったぞ。授業をサボってこんな所で2人で過ごしていたってわけか」
……この人は何を聞いていたんだろう? あ、閉じ込められたとは言ってないか。
詩織が落胆した時だった。
「それは違いますよ先生、ほらここ。立て付けが悪くなってる。今回はたまたま楽に開きましたけど、外に出ようとして開かずに閉じ込められていた可能性もあり得ます」
大輝が扉を触り動かしながら言うと教師が頭を掻いた。
「なるほどな、それはすまなかったな。とにかく桜木さんは教室に戻ってくれ」
……大輝先輩って先生から信頼されているんだなあ。
態度を一変させた教師と潤、大輝に会釈をすると詩織は教室へと向かった。




