24話「体育館倉庫でハプニング」
3時限目の体育が終わり着替えをしていると莉奈がニヤニヤしながら尋ねる。
「それで、たまたま会えた潤先輩とはどうだったの? 」
「もう、聞くの何度目? だから……」
「楽しい時間というのは一瞬で過ぎ去るものだ、でしょ? 」
翔子も笑みを浮かべながら詩織の言葉を遮り言う。
「そんな学者みたいには言ってないよ! 」
「じゃあ潤先輩に聞いてみる? 」
「そうそうこの後、潤先輩達来るし。たまたま今日が4時限目までは文化祭の準備じゃなくて通常授業なのも先輩と会えるって運命かもね」
すかさず2人が攻撃を仕掛ける、翔子の言葉通り4時限目は2年生の体育の授業があるのでタイミング次第では潤とすれ違うこともあり、詩織自身そこで2人を巻き込んで物影に隠れながら遠目に潤を眺めるなんてこともしていた。
とはいえ、未だに詩織には偶然ではなく自分から会いに行く勇気はなかった。そのため「ワタシ先に帰ってるね! 」と照れ半分逃げ半分の気持ちで更衣室を1人で出て教室目掛けて走り出した。
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「桜木さん、ちょっといいかな」
体育館から校舎へと1人向かう詩織を体育教師の田中が呼び止める。
「何でしょうか? 」
「実は次の授業の前にグラウンドのライン引きをしておきたいんだけど使う石灰がなくて、取りに行こうと思っていたんだけど、忘れ物を思い出して。代わりに取りに行って欲しいんだ」
「ワタシ、1年生ですよ」
「それは勿論分かってる、まだ4限目開始まで時間はあるだろ? 」
……拒否権はないってことかあ。ここから体育館倉庫って遠いんだよなあ。
「分かりました、それでは行ってきます」
「引き受けてもらって助かるよ」
詩織は白々しい教師の言葉を背に体育館倉庫へと移動し扉を開く。瞬間、カビのような匂いと共にマットや跳び箱やハードルが視界に入る。しかし、肝心の石灰が見当たらなかった。
……奥にあるのかな?
詩織は中へ入り辺りを見回すも石灰の姿はなかった。
……もしかして体育館倉庫じゃないのかな? そういえば先生は体育館倉庫だなんて言ってなかった気がする。だとするとどこなんだろう。テニス部の部室にはないし……どうしよう。
一向に石灰が見つからず困り果てたときだった。
「あれ、詩織じゃんどうした? 」
声をした方向をみると入口に潤が数人の男子生徒を引き連れて立っていた。
「こんなところで何やってんだ? 」
「実は、石灰を持って来てって頼まれたんですけど、場所が分からなくて……」
「ハハハそうか、石灰はここじゃないぞ、用具室だ。ここだと持ち込むのが大変だよ」
「用具室? 」
「案内するよ。お前達は先にこのボール持って行っててくれ……っと」
潤が声をかけると男子生徒たちはボールの入った籠を手にしてグラウンドへと向かっていく。そんな彼等を背に潤が解けた靴紐を結んでいるのを詩織は眺めていたその時だった。
ガシャン
倉庫内に音が響き渡る。最後の1人がどういうわけか扉を閉めていってたのだった。
「え、どうして」
「ああ……あいつ中島っていうんだけど、いつも最後に出て扉閉めてたからな癖になってるんだろうな。悪い」
「いえ、先輩が謝ることではありませんよ。すぐ出られますから」
そう言って詩織は両扉に手をかけ左右に開こうと力を込めた。
ガシャン
「あれ? 」
扉がまるで動かず虚しく音が響くだけの結果に思わず詩織は素っ頓狂な声を上げる。
「変わろうか」
「お願いします」
「よっ……と」
潤が力一杯扉を開けようとすると試みるも虚しくガシャンガシャンと音が響く。
「ダメか……立て付けが悪いらしいからな」
「助けを呼びましょうか」
「そうだな、それじゃあいっせーのでいこう……いっせーの! 」
「「おーい、誰かいない(いません)かー! ? 」
2人で大声を上げるも人が来る気配はなかった。
「聞こえなかったんでしょうか? 」
「そういえばいつも休み時間はバスケやってるからなあ。熱中して聞こえてないのか」
言われて耳を澄ますと確かに詩織の耳にバスケットボールが床を叩く音と男子生徒達の歓声が微かに入る。
……かなり離れているのにこれなら向こうだと大盛り上がりなんだろうなあ。
詩織はがっくりとマットに膝をつく。次の瞬間、潤の手が彼女の頭に触れた。
「そう気を落とすな、授業が始まれば最初は静まり返るだろうしそこで声を出せば助けてくれる」
「そうですね」
予想外のハプニングだったが潤の言葉で希望を持った詩織は潤を見上げて頷いた。




