21話「お化け屋敷」
6時間目、1週間先に伸びた文化祭のために詩織達は準備に取り掛かっていた。詩織達の出し物はお化け屋敷。暗所恐怖症の詩織は廊下での受付担当ということで話はついていた。
「これ大丈夫かなあ」
専用通路を作った方が怖いという情報を元にダンボールで通路を作ることにしたのだがその強度が不安になりダンボールを叩きながら梨奈と翔子に尋ねる。
「まあ大丈夫っしょ! 先駆者様も無事出来たみたいだし」
「ダンボール突き破るなんてアニメかバラエティぐらいかな……ていうか提案したの詩織じゃん」
「まあそうだけど」
「でも急にどうしたの? こんにゃくはやめて専門の通路を作ろうなんて」
「それは……」
「「それは? 」」
2人が口を揃える。興味津々な表情を見て詩織は思わず恥ずかしくなった。
「……笑わない? 」
「笑うってお化け屋敷なのに? 」
「笑わないよ、何? 」
2人が真剣な表情で応えるので詩織はホッと一息ついて応える。
「実はね……大輝先輩を思い切り怖がらせたくて。あの何か余裕ありそうな人がフギャーとか声を上げると面白いなって。でもそれと同時に『あまり怖くなかった』なんて言いながら鼻で笑う姿が浮かんで、それなら思い切り怖くしちゃおうかなって……」
「……」
「……」
一瞬の沈黙の後2人が顔を見合わせる、そして次の瞬間……
「「ハハハハハハ何それ」」
と思い切り笑い出した。
「笑い事じゃないよ、あの人なら皆で作ったお化け屋敷を平気でそう言うよ、ワタシエアホッケーで負けたもん」
「ハハハハハハ、エアホッケーって何」
「この前ホッケーで勝負してあの人全然手加減とかしないで本気でかかってくるし……」
「アハハあったねそんなこと、確かに梨奈は知らないだろうけどあの人凄い上手だった。手加減なしで大差だったもんね」
「でしょ? だから多分お化け屋敷も手加減なしで評価してくるよ、だからギャフンって言わせたくて」
「ギャフンじゃなくてフギャーでしょ」
笑いながら梨奈がツッコみを入れる。
「そうじゃなくて悔しくない? そういうこと言われたら……だから思い切り怖がらせたくて」
「そもそも大輝先輩は来るのかな? 」
またしても梨奈が鋭いツッコみを入れる。
「それは……日頃の恨……感謝も込めて招待しようかなって」
「なるほどねえ、確かに詩織には先輩を思い切り怖がらせる権利はあるかもね」
「そういうこと、やられた分はやり返さなきゃ」
詩織は満面の笑みを浮かべ言う。散々ストーカーとして怖い思いをさせられたのだからお返しは当然というのが彼女の考えだった。
「あと、お父さんが美容室をやってる学君にマネキンを借りてきて血のりを淳君から借りるっていうのはどうかな」
「流石に借りたマネキンに血のりをつけるのはまずいんじゃないかな? 」
「確かに梨奈の言う通り借りたのに付けるのは駄目だから粘土と新聞紙で作って混ぜとくんだよ。それからダンボールに穴を幾つか開けてそこにお面を入れるっていうのはどうかな? 鬼とかじゃなくて凄い笑顔の人の……怖いと思うな〜」
大輝が悲鳴を上げる姿を想像し再び笑みを浮かべる。その様子を見た梨奈と翔子は顔を見合わせる。
「詩織がこんなにノリノリで仕切るの珍しいな」
「だね、なんか……ノリノリの詩織が怖いよ」
2人のその会話は脳内を大輝の悲鳴で埋め尽くしていた詩織の耳には届かなかった。




