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18話「あべこべ」

 ゲームセンターを後にすると2人はフロアを歩く多くの人の姿が視界に入る。時計は11時30分を指していた。


「昼時だからか人が増えてきたね。そろそろ解散した方が良いかな」

「どうしてですか? 」


 気のない詩織にとっては願ってもない提案だったが、彼女に気がある大輝がそんな提案をしたのが気になり尋ねると意外なことに彼は顔を掻く。


「それはなあ……まあ、あまり2人で一緒にいるのがバレると冷やかされるし……嫌じゃないか? 制服と私服の2人だと目立つだろうし」

「そうですね、休み時間は勿論で酷い時は授業中も色々言われますし」


 ……そんな事ないんだけどな。

 詩織は潤と付き合う事になった自分が翔子のように茶化される姿を自分と重ねて見て悪い気はしなかったので内心否定しながらも大輝の思想は好都合だったので真逆の事を口にする。


「じゃあバス停まで送って行く……いや、待った、フードコートでもたこ焼きなら大丈夫か、ちょっとここで待ってて。後で連絡するからそしたら正面の出口で会おう」


 彼はそう言うと服を彼女に託して早足で何処かに向かう。


「大輝先輩」


 彼の名を呼ぶも彼の言う通り混んできた今、2人で動くのは得策ではないと考えた詩織は追わず代わりに翔子に『解散する事になった』と連絡をした。すると『バス停までなら見張りが出来る』と返信が届く。


「『ごめん、お願い』っ……と、翔子にも苦労かけちゃったなあ……ずっとお願いするわけにもいかないしどうにかしないと……」


 詩織は翔子に送るや否や『ストーカー 対策』と検索しズラーッと並んだ候補の中から1つのサイトをクリックして開く。


「コツは刺激しない事かあ、それとタクシーで帰る……は無理かなあ。他には……え、身近な人に伝えると八つ当たりでその人に危害が加わる恐れあり? 」


 ……どうしよう、莉奈達を巻き込んじゃった。もっと早く調べればよかったよ。

 皮肉な事に彼女達に苦労をかけまいと検索をした結果、彼女達に頼った事自体が悪手だったと知り全身から力が抜け倒れそうになった時だった。ガシッと身体と掴まれる。視線を向けると大輝が袋を片手に立っていた。


「おいおい、大丈夫? 具合悪いのか? 」

「いえ、大丈夫です」


 貴方のせいです、と言えるはずもなく詩織は取り繕う。


「その袋は何ですか? 」

「これ、たこ焼き。買ってきた」

「たこ焼きってどうしてたこ焼きですか? 」

「服選んでくれたお礼、はい」


 そう言うと彼は袋を差し出す。


「いえ、そんなマズいですよ」

「そうかな、これ美味いと思ったんだけど」

「いえ、そのマズいではなくて……」

「それならバス停でバス待っている時にでも食べなよ」

「いえ、本当に結構です」


 詩織が遠慮していると大輝は「ああ」と呟いて袋を下した。


「そこまで言うなら、土産にするよ。それじゃあ、バス停まで送って行こうか? 」

「それも結構です、迎えに来て貰いますから」


 タクシーを呼ぶ金銭的余裕はなくとも今日は休日で母が家にいる事を思い出した詩織はまたもや彼の申し出を断るとスマホを操作し母親にメッセージを送る。


『モールまで迎えに来て』


 ……これで良し。

 そう思ったのも束の間、次の瞬間スマホが音を立てるとともにメッセージが表示される。


『今、手が放せないからバスで帰ってきて』


 ……そんな、娘のピンチなのに。

 呑気な母に彼女は腹を立てながらも大輝とはここで解散しようと噓を突こうとするも彼は既に詩織の様子から事態を把握したようで


「ダメだったか、じゃあ送って行くよ」


 と笑った。

 ……お母さんめ。

 詩織は恨めしい気持ちを母に向けながらばモールの出口を目指した。


 ~~

 モールを出て会話をしながら歩くと細道に入る。30m程の長さだがモールへ続く道は他にもある事から人気はなく、大輝がストーカーだとしたら何かを仕掛ける絶好の場所だった。民家の間の道とはいえ、初手で口を(ふさ)がれてしまえば万が一の時に詩織の安全の保障はない。

 ……翔子、来てくれるよね。

 不安になり後方を確認するも翔子はおろか人の姿はなく不安気になる、その様子に大輝は気が付かない様子で何かを話していた。


「……そういうわけで国際連盟と国際連合は間違えやすいから気をつけて……ああ悪かった。せっかくのデートなのに勉強の話をして」  


 ふと大輝が立ち止まり詩織の顔を覗き込む。


「……いえ、すみません。ワタシこそ気を付けます」


 詩織は急いで取り繕うとそこから再びバス停を目指し細道を抜け右へと曲がった時だった。


「悪い」


 彼はそういうと突然詩織を抱えると走り出す。


「きゃっ! やめてください先輩」


 ……嘘、ここで!?

 詩織は突然の事に驚きながらも足をバタバタさせて抵抗する。その様子を見て大輝は真剣な顔で囁いた。


「静かに、尾けられてる」

「尾けられてるって……」

「モールを出た時から足音が聞こえたのに立ち止まった時には聞こえなかった。それが歩き出したらまた聞こえて来た。用心した方が良い」

「用心って……」


 詩織は言葉に詰まる。十中八九それは翔子達の事であると確信があったからだ。そうなるともしここで抵抗して2人に見つかると動機を尋ねられて面倒な事になる。この場は大人しくしているしかなかった。


「本当に悪かった、バラバラ殺人の事件が続いているのに迂闊に外まで呼び出して、犯人でなくても模倣犯が出る場合も考えられたのに……」


 ストーカーに身を(ゆだ)ねるしかないという状況でのこの言葉は詩織を元気付けた。

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