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17話「食事を賭けた試合」

 詩織は参考書を抱え大輝と共に書店を後にする。

 ……この後はどうしようか。まだ解散するには早いし、デートっぽい場所、デートっぽい場所。

 詩織はそれらしいデートスポットを考える。すると、カップルが仲良くゲームをしているとあるドラマのワンシーンが彼女の頭を(よぎ)った。


「大輝先輩、この後はゲームセンターに行きませんか? 」

「いいね、行こうか」


 詩織の提案を大輝はすぐさま受け入れゲームセンターへと向かった。


 ~~

 ゲームセンターは閑散としており内部では仰々しいBGMが虚しく響いていた。


「空いてますね」

「そうだね、まだ午前中だからかな。それで、何やる? 太鼓? 」

「いえ、こちらです」


 そう言うと詩織は先導して莉奈達とよく遊んだエアホッケーへと向かう。


「エアホッケーか」

「どうですか? ワタシと勝負しませんか? 」

「良いよ、面白そうだ」

「もっと面白くしましょう、負けた方は罰としてご飯(おご)りとかどうです? 」

「……良いよ」


 ……かかった。大輝先輩は帰宅部に加えてエアホッケーはほとんどやった事がないはず。比べてワタシは女子テニス部でエアホッケーはたまにプレイする。莉奈達に散々ジュースを奢らされた分をここで取り返させて貰おう。

 と詩織は内心ほくそ笑む。しかし、それと同時にこのまま一方的になるのは流石に可哀想と言う感情が突如芽生えた。


「ハンデとか、必要ですか? ワタシ、テニス部ですから。10点先取なので大輝先輩が2点からでも構いませんけど」


 とはいえ最大のハンデを与えるのは惜しいのでエアホッケーの経験は隠しつつそう提案すると大輝はキョトンとした。


「テニス部ってエアホッケーと関係あるの? 」

「ほら、打つのに慣れているので」

「ああ」


 ……え、ワタシ変なこと言ったかな?

 戸惑うような大輝の反応を見て詩織が不安になっていると彼は続ける。


「ハンデは必要ないよ」

「そうですか……」


 ……そう言う事でしたらごちそうさまです。

 詩織は勝利への確信から笑みを浮かべつつ置かれている白いマレットを手にしコインを数枚入れると風と共にブシャッと音を立ててパックが詩織の元へと射出される。


「いつでもいいぞ」


 マレットを手にした大輝がそう言うので詩織はマレットを握る手に力を込める。


「そう言う事なら遠慮な……く」

 詩織は思い切りマレットでパックを(はじ)く。するとパックは勢いよく大輝目掛けて直進した。

 ……まずは1点頂き。

 狙い通りの勢いが付いたことで詩織は1点先取を確信する。というのも、彼女の経験則ではこのように勢いよくパックを放つと言うのは勝利の法則だったからだ。受け手が勢いが付いたパックをただ跳ね返すだけでは、それは単なる絶好なパスであり再び強力な一撃となって返って来てしまい防戦一方となってしまう。かと言って勢いよく跳ね返そうと振りかぶると間を抜けたり、マレットの角度によっては思わぬ方向への返しになり最悪自責点となる事も女子テニス部でのエアホッケーでは良くある光景だった。それ故、詩織にとってこの一撃を放つことに成功した事は1点を先取することを意味していた。

 だが、今回、詩織の予測は大きく外れる事になる。大輝は物怖(ものお)じせずにパックの軌道にマレットを向けたと思った次の瞬間、彼は腕を力いっぱい振りぬいた。


 カアアアン!


 弾かれたパックが一瞬の内に方向を変え今度は詩織目掛けて直進する。

 ……え、嘘。弾かれるなんて聞いてない!

 詩織はパニックに陥りながらも何とかマレットをパックの前に差し出すも


 カアン!


 再びパックが軌道を変えるもその先は詩織が守っていたゴールだった。

 ……あ、待って。


 ガコッ


 詩織の願い虚しくパックはゴールへと吸い込まれていく。同時にピロピロと軽快なメロディーが流れた。

 ……こうなったら、壁を利用して。

 詩織は射出されたパックをノータイムで壁目掛けて弾く。


 バシュッバシュッ


 パックは先程とは異なり壁にぶつかり軌道を変えながらも確実に大輝のゴールを目指していた。これが詩織の第2の戦法である。この反射の恐ろしい所は壁により軌道が次々と変化することにより目で追っていると頭が混乱するのに加え少しでも弾き返す角度を間違えると直進の時よりも高い確率で自責点になってしまうという所だ。

 ……直線に強いならこういう不規則な動きには弱い……はず、今度こそ。

 詩織は根拠は曖昧とはいえ勝利を確信する。ところが、これも上手くはいかなかった。彼は彼でデートでの遊びとは思えない程鋭い目つきでパックを追うと途端に腕を振る。


 カアン!


 弾かれたパックが詩織の時とは比にならない速度で反復しながらも確実に彼女が守るゴール目掛けて迫る。

 ……嘘、今は左にあるからこのまま反射を予測すると左が右で……分かんない。


 ガコォン!


 詩織の健闘虚しく再びパックがゴールに入りけたたましい音が鳴り響いた。




 ~~

 結果、0対10という詩織の完敗で試合は終わった。


「どうして手加減してくれないんですか」


 自分から賭けを提案しておきながらも怒りをぶつけると大輝は彼女の頭に手を置く。


「悪かった、ハンデくれるとか自信満々だったから本当に気を使って手を抜いてくれているのだとばかり思って……あ、ごめん」


 大輝は言葉を切り謝罪の言葉を口にしながら慌てて詩織の頭から手を引く。


「実は妹がいるんだけど、妹の時みたいにしてしまった、本当のごめん」

「それってワタシが妹みたいって事ですか? 」


 詩織は自分でもわからないまま大輝が頭に手を置いた事よりも今の言葉にムッとして尋ねる。


「いや、そう言う訳じゃないよ。ほら、妹は俺の服なんて選んでくれないし……あ、でも。このゲームの時は……そうかも、妹も割と負けず嫌いで」

「ワタシは負けず嫌いじゃありません」

「え……悪かった」


 彼がシュンとしたのを見て思わず言い過ぎたと反省すると同時に逆にお姉さんらしく振舞って野郎という意地の悪い考えが浮かんだ。

 ……大輝先輩、慌てるだろうなあ。

 彼が驚きのあまり「うおう」とか言いながら飛び上がる姿を想像しつつもそれを悟られないように彼女は口を開く。


「もう大輝先輩は仕方ありませんね」


 詩織は少しでも威厳を出そうと腰に手を当ててそう言うとお返しとばかりに彼の頭に手を置こうとする……が。

 ……と、届かない。大輝先輩、大きい。

 彼女の思惑は今まで意識しなかった身長差によって阻まれてしまった。その様子を見て大輝が首をかしげる。


「どうした? 」

「大輝先輩、ちょっと(かが)んでください」

「? 」


 彼が怪訝(けげん)そうな顔を浮かべながらも身を屈める。瞬間、詩織は彼の頭を撫でた。


「お返し、です」

「……」


 彼は詩織の期待していた反応とは対照的に固まってしまった。


「だ、大輝先輩? 」

「……ああ、悪い」

「どうしたんですか? 」

「いや、俺長男だから。こういうの初めてで」

「そうでしたか、でも、お母さんとかは……」


 詩織は1人っ子であったが、境遇的に考えれば彼と同じだったが彼女の場合は、良く母が頭を撫でてくれたのを思い出して尋ねるも彼は首を横に振る。


「そういうのは、なかったかな。忙しい人だし」

「そうでしたか」


 ……どうしよう、こんな事になるなんて思ってもみなかったよ~

 予想外の展開に詩織は戸惑っていると彼が立ち上がった。


「と、そんな事言っている場合じゃないな。それなら、勝負にも勝ったことだから胸を張って何か(おご)って貰おうかな」

「え、ちょっと待ってください」


 彼の切り替えと奢らないといけないという事実、どちらにも驚きながら彼を見上げる。

 ……かくなる上は。


「それなら大輝先輩、ワタシはこれで、お疲れ様です」

「どうしたどうした」


 これ以上の出費は御免と立ち去ろうとするも大輝は素早く彼女の肩を掴んだ。

 ……ダメか~失敗したとなるとなんか恥ずかしいな。

 観念して詩織は大輝に正直に打ち明ける。


「実は、その、今月厳しくて……」

「ああ、そういうことか。良いよ、あれは無しにしよう」


 大輝は笑いながら答える。

 ……何かワタシが妹みたいだな~

 そんな彼を見て詩織は一連の行動を振り返り考えた。







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