15話「ファッションセンター」
詩織は大輝の手を引きながら脇目を振らずに高校生の財力でも購入出来るファッションセンターに辿り着く。
「大輝先輩、お金は幾ら持っていますか? 」
「1万くらい」
……わーお、良いなあ、ワタシの倍以上持ってる。
内心羨ましがりながら詩織は「それなら問題ありませんね」と彼とファッションセンターに入った。
服の種類やメンズかレディースかによって分けられているファッションセンターをまずはメンズの上着コーナー目掛けて進む。通常、詩織はこの場所を訪れるとひたすらレディースを目指していたので、こうしてメンズへと向かうのは初めての事だった。
……色々あるんだな~。
辿り着いた上着コーナーの種類に圧倒されながらも近くにあるハンガーを手に取っては大輝と重ねて見る。
「それ、良くテレビで見るけど、本当に分かるの? 」
「お洒落って結局はどうすれば周りに可愛く、格好良く見られると思うかですからね」
それっぽい事を口にするも実の所、詩織は一人っ子であるため同年齢程の男子の服を選んだ経験は無くテレビの見よう見まねでやっていただけだった。だが、ここでそれを告白してしまうと以前話した同年代の沢山の男子と仲が良いというウソがバレると思ったのだ。
「これは……ちょっと違いますね」
かといってどうでも良い人だから適当に選ぼうといったいい加減な気持ちもなかった。それはプライドが許さなかったからだ。そのため詩織は真剣に彼と服を交互に見つめ、それを繰り返していた。
「これとかどうです? 」
繰り返す事十数回、大輝に似合った紺の上着を見つけ尋ねると彼は鏡を見る。
「良いね、大人っぽく見える」
「そうなんですよ、落ち着いた色で大人っぽく見えますよね」
大輝も似合うと認めたので嬉しくなり彼の手を掴むと詩織はシャツのコーナーへと向かった。
~~
シャツコーナーに辿り着くと再び詩織は同じように服を選ぶ、彼女の中でズボンは無難にベージュのチノパンと決めていたので実質最後の選択だった。
「これ……とこれ……どっちが宜しいでしょうか? 」
と詩織はグレーのシャツとピンクのシャツの2枚を見せる。
「グレーはともかくピンク? さっきは大人っぽく見えるって……」
「そこですよ、大人っぽく見せているからこそのピンクですよ! ギャップです、ちょっと遊び心を見せる事でグッとオシャレになるんですよ! 」
詩織は興奮して声を大にして言い終えるとふと我に返り咳払いをする。
「と言っても大輝先輩次第です。グレーで大人っぽさのまま行くのも良いと思いますよ」
「そうだな……じゃあどっちも買うよ」
「本当ですか! ? ありがとうございます」
「そう言うと店員みたいだな」
「そうですね、お買い上げありがとうございます」
またもや彼が賛同したので嬉しくなり冗談に乗った。
〜〜
予定通りベージュのチノパンを購入すると大輝はレジ目掛けて歩を進める。
「じゃあ買って来る」
「はい、それなら外でお待ちしてま……」
詩織の言葉を遮るように彼女のスマートフォンからピンポンと音が鳴る。
……翔子ちゃんかな?
「すみません」と口にしながらスマートフォンを手に取る。すると信じられないものが視界に入った。
「先輩、大変です! 10時45分、もう映画まで時間がありません」
詩織が声を上げる。彼女の推測通り先程の音は翔子からのメッセージだったが、重要なのは確認の際に表示された時間だった。
「45分……しまった! いや大丈夫だチケットは取って……ない」
「すみません、ワタシが舞い上がって予定通り映画館でチケットを買うはずの所をいきなりここに連れてきてしまったから……」
大輝も時間が無いことに気が付き混乱して見せる。だが彼は詩織が自己嫌悪に陥ったのを知るとポンと彼女の肩に手を置いた。
「仕方ない、映画はまた次のを観ればいいさ」
「すみません」
「いやいや、そんなに真剣に俺の服を選んでくれただけで嬉しいよ、ありがとう」
叱責どころかお礼を言われて詩織は戸惑っていると彼は「会計して来る」と今度こそレジへと歩き出したかと思うとふと足を止めた。
「そうだ、せっかく時間出来たから今度は恩返しで俺が全力で桜木さんの参考書を選ぶよ」
「え? 」
……そ、それは恩返し……ですか?
詩織は内心ツッコみを入れた。




