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13話「ショッピングモールデート」

 翌朝、詩織は約束していた10時にショッピングモール内の円形ベンチを訪れると既に大輝は来ていたようで腰かけてスマートフォンと(にら)めっこをしていた。その姿を見て思わず立ち止まる。彼の服装が制服だったからだ。

 ……ワタシも自分のファッションに自信がある訳じゃないけど。

 意中の人で無いとはいえ周囲の目とプライドから持てる全力を尽くして着て来た黒のコートに紺に白のドット柄のリボンシャツとカーキのラインスカートに視線を移す。

 ……好きな人じゃないのに加えてこの格好で制服の人と歩くなんてどう考えても浮いちゃうよ……帰りたい。

 早速気付かなかった振りをしてこの場を後にしたい衝動に駆られるも翔子が来ていることを考えるとそういうわけにもいかず、意を決して詩織は大輝に声をかける。


「ごめんなさい、遅れちゃって」


 詩織の声を聴いて「ああ」と彼は顔を上げた直後、彼は固まってしまった。


「どうしたんですか? 」

「いや、似合っているなって思って」

「え……」


 予想外の誉め言葉に詩織は戸惑う。意中の人でないとはいえ、こうして時間をかけたものを褒められると言うのは彼女にとって嬉しい事だった。でも照れている姿を見せるのは(はばか)られたので咄嗟に「先輩の服こそ……」と言いかけるも彼が制服だという事を思い出し慌てて言葉を切る。


「……どうして制服なんですか? 」


 誉め言葉の代わりにそう絞り出すと彼は立ち上がり苦笑いを浮かべた。


「こういうの初めてだからさ、良く分からなくて無難なので来た」

「そうですか」


 ……全然無難じゃないですよ、何で制服なんですか。部活帰りとかに見せるとワタシが浮くじゃないですか!

 そう詰め寄りたくなるのをグッと堪える。相手は何するか分からないストーカーかもしれないからだ。そしてワタシは今から異性と遊びなれているというイメージや色々な悪い所を見せて彼に呆れられなければいけない。

 ……男の人と手を繋ぐの何て初めてだけど……えい!

 詩織は一度深呼吸をすると彼の手を握る。


「それじゃあ、行きましょうか」


 しかし、彼はよっぽど驚いたのかまた固まってしまう。


「どうしました、早く行きましょう! 」


 手を繋ぐなんて何ともない事だ、と伝えるように作り笑いをしながら大輝に言い歩き出そうとする。その時だった、


「行くってどこに? 」


 至極当然の疑問が返って来る、ただ、困った事に詩織はその答えを用意していなかった。

 ……そうだよ、勢いで場所まで指定して誘ったのにプランを全然決めていなかった。どうしよう。


「えーっとそうですね、映画見ましょう、映画」

「映画か、良いな、何観る? 」


 ……丸投げですか? いや、ワタシから誘ったんだから当然かあ、どうしよう。

 詩織は今、何の映画が上映しているのかすら把握していないため、ここで墓穴(ぼけつ)をマズいと頭を悩ませる。すると名案が浮かんだ。


「大輝先輩は何が観たいですか? 」


 2人で映画を観に行くとなると必須の相手の意見を聞くと言う行為、それを詩織は堂々と余裕のある表情で行う事でノープランだと言うボロを出さない事に成功したばかりか彼に映画の選択を丸投げしたのである。


「それなら、ミステリーで良いかな? これなら映画単体の話だから……死体とか平気? 」

「はい」


 ……恋愛とか言い出さないで良かった。

 詩織は内心安堵しながら頷くと大輝は再びスマートフォンに目を通した。


「よし、それなら今からだと……近いのでも40分はあるな、とりあえず席を確保するとしてその後書店でも行こうか」

「書店ですか……何か買いたい本があるんですか? 」


 詩織は尋ねながら自身も何かの漫画や雑誌の発売日だったかと考える。すると大輝は微笑む。


「参考書が見たいんだ。結局、合うのは人それぞれだからさ、せっかくだから一緒に選ぼう」

「ワタシの……ですか? 」


 ……嘘でしょ?

 詩織は目を見開いた。全く頭に無かった参考書の事を出されたばかりか選ぼうとまで言われたからである。詩織の母、康子は小遣いとは別に参考書が欲しいと言えば基本は出してくれるのだが、それは事前申告での事が多かったため今回のように先に参考書を買ってしまうと貰えるかどうかは分からなかった。ただでさえ足りない小遣いから買わなければならなくなるというのは御免被りたかったのだ。

 ……何とか参考書を買わなくて済む方法を考えないと。

 エスカレーターに向かう彼の背後で上手く逃れる術を考える事数分、またしても名案が浮かんだ。


「それなら、洋服見に行きませんか? 」

「洋服? ああ、見たいなら付き合うけど」

「そうじゃなくて、先輩の洋服ですよ」

「え」


 行先を変更できればと考えての言動だったが、思いの外、この提案は効いたようで今度は大輝が目を見開く番だった。

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