12話「休日の使い方」
それから毎日、詩織と大輝の勉強会は続き金曜日が訪れた。
「そういえば、明日と明後日はどうすれば良いんだろう」
詩織はふと浮かんだ疑問を口にする。すると莉奈は何食わぬ顔で答える。
「別に良いんじゃない? 」
「でも2人の負担が……」
「まあ、私は申し訳ないけど無理だね」
「そんな事ないよ、家の方向が違うのにたまに来てくれるだけでも心強いよ、ありがとう翔子。それに莉奈にも悪いから、やっぱり休日は断った方が良いんじゃない? 」
「正直私も2日となると辛いけど、告白受けておいて休日は過ごしません、というのは変じゃない? 」
言われてハッとする。莉奈の言う通りでOKしたばかりか自分の家に誘うほどの積極性を見せたのが休日には会わないようにしようと言うのは不自然だった。
「莉奈の言う通りだね、それじゃあ……会おうかな。あ、でも休日ならお父さんとお母さんがお家にいるや。2人に迷惑かけなくて済むかも」
詩織が口にすると2人が目を見合わせる。その様子を見て詩織は首をかしげる。
「どうしたの? 」
「いや、詩織が良いんなら良いんだけどそれだと……」
「莉奈の言う通り、でも両親に大輝先輩を紹介なんて本当に彼氏みたいだよ」
「あ……」
……2人の言う通り、まだ潤先輩もお母さんだけにしか紹介してないのに、お父さんにも紹介なんてしたら付き合わざるを得なくなっちゃうよ。
思わず詩織は頭を抱える。
「どうすれば良いんだろう」
「家が無理なら、休日なんだしデートっぽい事すれば? それならアタシも見張れるし」
翔子がそんな事を口にしたので詩織は思わず目をぱちぱちさせる。
「デートってもしかして」
「そう、例えばモール内を2人で見て回るとか。映画館にゲーセン、ファッション関連と一通り揃ってるからデートっぽい事も出来るし潤先輩との予行練習だとでも思えばさ、何より周囲には人がいるからね」
「そっか、周囲に人がいれば安心だ」
莉奈がポンと手を叩く。
「そ、だから明日は莉奈は休んで。アタシがデートがてら詩織を見ておくから」
「悪いね」
「ありがとう翔子、そうと決まれば早速……」
詩織はバッグからスマートフォンを取り出すがふと手を止める。思わぬ急停止に2人は眉を顰めるも次の瞬間、莉奈が揶揄うように尋ねる。
「どうしたの? まさか先輩の連絡先知らないとか言うんじゃないよね」
「ちょっとそれはないでしょ」
翔子が思わず吹き出すも詩織は顔色一つ変えずに首を縦に振って言う。
「うん……大輝先輩の連絡先、知らない」
「ちょっとそれはマズいよ詩織、まあストーカーと連絡先交換したくないって気持ちは分かるけど」
「それもあるけど、単純に、今まで口約束だったから」
詰め寄る翔子に驚きながらも詩織は答える。あまりの翔子の剣幕にクラスの生徒がこちらに顔を向けていた。
「とりあえず、落ち着いて……大丈夫だよ、大輝先輩のいる所なら分かっているから」
「図書室か」
「正解」
「そういう事なら私も付き合うよ、明日は翔子にお願いすることになりそうだから」
「ありがとう莉奈、はいこれお礼のハンバーグ、翔子にも」
詩織は感謝の気持ちを込めて2人に弁当箱のハンバーグを差し出した。
~~
詩織が莉奈と2人で図書室へと向かうとそこには予想通り大輝の姿があった。彼は余程その場所がお気に入りなのか以前と同じ位置の机に参考書とノートを並べ黙々と勉強をしている。
「大輝先輩、ちょっと宜しいですか? 」
「ああ、何? 」
大輝はそう答えると以前のように参考書を閉じて立ち上がろうとしたので詩織は制した。
「いえ、そのままで結構です。その、先輩の連絡先をお聞きしたいなって」
「そういえば、教えてなかったか」
彼はそう言うとともにシャープペンシルを握るとサラサラとノートの端に記しその部分を千切って詩織に差し出す。
「これ、俺の連絡先」
「ありがとうございます、後で連絡させて頂きます」
……これで色々と手間が省けるかな。
一件落着したような気持ちに包まれながら詩織は莉奈とともに図書室を後にした。
~~
教室に戻るや否や詩織は彼に手渡された紙に目を通す、どうやらチャットアプリのIDのようだった。
「大輝先輩もやってるんだね」
覗き見た莉奈が呟く。
「何かやってなさそうなイメージだよね。ワタシもメールアドレスとかだと思った」
と莉奈に同調しながら詩織はアプリを起動して友達登録の画面を開くと記されたIDを入力する、しばらくして岡大輝という文字とデフォルトの人型アイコンが表示された。
「何か本当に最低限って感じ」
「だね」
今度は莉奈が詩織に同調する。
……とりあえず、連絡はしておこうかな。
と詩織は彼を友達登録すると『詩織です、宜しくお願いします』と打ち送信した。するとすぐさま『よろしく』と返事が来る。
……返事は速いんだ。
詩織はアイコンが変わっていない事から機械音痴だと思っていたので少し意外に感じた。
……と感心している場合じゃない。『土曜日は両親が家にいるのでモールに行きませんか? 』、と。
詩織は負けじと入力すると送信する。そして直後に自分のミスに気が付いた。
「どうしよう、大輝先輩からするとワタシの両親が家にいるのってあまり関係ないかも」
莉奈に相談すると彼女は腑に落ちた様子で
「あの性格からするとご両親に挨拶をしたい、とか言うかもねえ」
と答えるので詩織は冷や汗をかく。
……どうしよう、上手い言い訳を考えないと、何か、何か……。
慌てて取り繕うとするもこんがらがっているため何もいい案が出てこず詩織は困惑して莉奈に助けを求めるも彼女も浮かばないようで首を横に振った。
……もう本当にどうしよう、何か……何か……。
もはや案も浮かばずにひたすら『どうしよう』と『何か』しか浮かばなくなった時だった。
『分かった』
この悩みは何だったのかと思う程、簡素な返事が届いた。




