10話「待ち伏せ失敗! ?」
放課後、詩織は莉奈と翔子の二人に合鍵を渡して先に家に向かってもらおうとバスから降りた時だった。
「やあ……ハア……何とか間に合った」
自転車の上で息を切らしながらバス停前にいる大輝が視界に入る。
……嘘、早すぎない? これじゃ二人に先に家まで行ってもらえないよ。
無情にも動き出したバス、そこから気まずい沈黙が訪れ早くも作戦の失敗を確信すると莉奈が口を開く。
「それじゃあ、私達邪魔になると悪いから先に帰ってるね。バイバイ詩織、勉強と……お遣い頑張って」
……お遣い? そっか。
莉奈の助け舟に気が付くことに成功した詩織は二人を見送ると大輝に言う。
「すみません、お遣い頼まれていたのでそこのスーパーで買い物をしたいのですが、宜しいでしょうか? 」
「ああ、別に構わないよ。むしろ丁度良かったかも、俺も頼まれていたから」
彼は詩織の嘘に疑う素振りすら見せずにそう言うとスーパーへと向かった。
~~
スーパーはタイミングが良い事に丁度主婦達の買い物時間だったらしく混んでおり二人の為の時間を稼ぐにはうってつけだった。
……ナイスだよ莉奈。
小さくガッツポーズをしてから入店する。
「それで何を買うんだ? 」
「えっとワタシは……人参……です」
「人参……それだけ」
「……はい」
……お遣いって言ったのに少な過ぎたかな?
「お母さんが人参だけ買い忘れちゃって」
慌てて付け足すも詩織の予想に反して大輝は怪しんだ素振りを見せずに言う。
「それじゃあついでとか言った俺の方が待たせるかもな」
彼はそう口にすると買い物籠を手にして中からエコバッグを広げた。その慣れた手つきに思わず詩織は目を見開く。
「良くお買物されるんですか? 」
「まあ……な、ここのスーパーは遠いからたまにしか来ないけど……とにかく急ごう、人参は奥のコーナーだから」
彼はそう言うと逞しくも人混みの中に入って行った。
~~
大輝はテキパキと食材を選ぶと詩織の後ろに並んだ。レジは5つあるにも関わらずは5人ほどが前方に並んでおりまだまだ時間がかかりそうだった。
……参ったなあ、こう並んでいるときも黙っているのも気まずいなあ……よし!
詩織は大輝に関する情報収集にもなればと思い切って口を開く。
「先輩は良く料理とかもされるんですか? 」
「たまにな」
「凄い、ワタシなんて全然ですよ」
「別に良いんじゃないか、最近は惣菜とかも良く出来ているし」
だらしなく見せる作戦の一貫とはいえ料理をしないと言うのは真実だったのでこうフォローされて詩織は少し嬉しくなった。そうこうしていると店員の素晴らしいレジ捌きの成果か詩織の番まであと1人となったので財布を出そうとバッグを探る。
……あれ、財布がない。
まさかのハプニングとはいえ、当然の事だった。詩織はいつも昼食は弁当で購買は利用せずこのお遣いも咄嗟についた嘘だったので財布を持ってきているはずがなかったのだ。
「どうした? 」
異変に気が付いたのか大輝が尋ねる。こうなると誤魔化しが効かず正直に話す他なかった。
「財布……忘れちゃいました」
「ああ……それなら」
大輝はそう言うと詩織の持っていた人参を自分のエコバッグの中に入れる。
「俺が買っとくから出口で待ってな」
「でも……」
「別に良いって、財布忘れるぐらい俺もよくやるから。それに何かあった時の為に多めに持って来てるから」
「……ありがとうございます」
後で払うとはいえ、本来いらないはずの人参を彼に立て替えて貰う事に詩織は罪悪感でいっぱいになりながらも出口へと向かった。




